odd_hatchの読書ノート

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ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第1章革命の意味

 個別にフランス革命ロシア革命、その他の革命(日本の明治維新を加える)に関する本を読んできた野で、近代の革命の統一イメージを得るためにハンナ・アーレントの本を読む。革命はどうしてもマルクス主義からの記述で読むことになるが、それとはことなる視点で見ることは必要。

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序章 戦争と革命 ・・・ 20世紀の様相を作ってきたのは戦争と革命。いずれも暴政に対する自由を大義名分にするが、自由が戦争の目的になったのは近代になってから。戦争が証明する可能性があり、理由は、1)総力戦においては軍隊は民間人を守れない、2)戦争に敗北した国家は消滅するしかない(から戦争を回避する)、3)核による絶滅戦争の可能性があるとき戦争の回避は軍備の目的になっている、4)戦争よりも革命に重点が移った。なので本書の主題は革命。
(初出の1963年はベトナム戦争キューバ危機、ベルリンの壁など総力戦や核戦争の可能性が高まっていた時代。そこにおいて21世紀を予見するような見解。なるほどイスラムの過激派から国内のレイシストまで、目的はゲリラ戦による革命だ。)

第1章 革命の意味
1.社会問題(貧困)が革命的役割を持つのは近代以降。ロックやアダム・スミスらが先導。フランス革命では貧困が中心問題だったが、アメリカ革命(独立戦争)はそうではない。前者は政治領域の変革であり、後者は社会構造の変革だった。三権分立を実行し、「愛すべき平等」を実現した。この「愛すべき平等」はフランス革命に影響を及ぼした。

2.革命概念は、突然新しく始まる/新しい歴史が展開するという概念をベースにしていて、自由(フリーダム)概念ができたのと同時期。古代や中世では歴史は循環するもの。自由(フリーダム)は移動の力。たとえば平和裏に集団で集まって政体に苦情を請願する権利。革命はこの自由の経験をもたらした(ギリシャ、ローマの市民には普通であったことをヨーロッパは近代に再発見した)。そこで自由は新しい政治形態を必要とし、共和制を見出した。
「ある新しい政治体を形成するために用いられ、抑圧からの解放が少なくとも自由の構成を目指している場合にのみ、われわれは革命について語ることができる(P47)」

3.イタリアルネサンスには革命という言葉はない。マキャベリさえも使っていない。蜂起や暴動を表す言葉はあるが、被支配者が支配者にそのものになるという言葉はない。その後をみると、革命は復古や復旧として始まり、進展するにつれて革命のパトスが生まれる。

4.革命revolutionは周期的合法則的な回転運動を意味する天文学の用語。政治で使われるようになったのは1660年イギリスでクロムウェルの内戦のあと君主制が復古したとき。現在の意味になったのは18世紀のアメリカとフランスの革命。そのときも関係者は古い秩序を回復することを目指していた(revolutionの語義通りに)。それがあとになって「新しさ」の概念が加わるようになる。

5.フランス革命の主体は事件の成り行きをコントロールできないという経験は革命に「不可抗力」の意味を付け加えた。自由よりも必然(運命)の概念が中心になる。なので、ロシア革命フランス革命のできごとを模倣し、粛清などでは悪役のような役割を演じることになった。フランス革命は痛ましい事実ではあるが世界史を作るできごととみなされ(当事者は統治形態には無関心)、アメリカ革命は勝利したが局地的な重要性しかないできごととされた(新しい統治形態を実践した)。

 

 革命は中国古典から拾ってきた言葉なので、この国では古代社会の政変なども含むようになっているが、西洋では近代以降のできごとに限定される。そのほうが理解しやすいので、西洋の見方にのっとるようにしよう。
 またこれまではロシア革命を成功事例としてみてきたのだが、ここではそのように評価されない。フランス革命で起きた恐怖政治や粛清はロシア革命でも起こり、すなわちフランス革命のパロディないし失敗事例という。

2021/11/15 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第2章社会問題 1963年
2021/11/12 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第3章幸福の追求、第4章創設(1)自由の構成 1963年
2021/11/11 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第4章創設(1)自由の構成(続き)、第5章創設(2)時代の新秩序 1963年
2021/11/9 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第6章革命的伝統とその失われた宝-1 1963年
2021/11/08 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第6章革命的伝統とその失われた宝-2 1963年