odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2015-02-01から1ヶ月間の記事一覧

堀田善衛「誰も不思議に思わない」(ちくま文庫)

自分らが住んでいる場所で、日常を見ているとどれもありふれていて、おかしなことや奇妙なこととは思わない。誰かに指摘されたり、よその土地にいって振り返ったりするときに、おかしなことや奇妙なことだと気付くことがある、たとえば恵方巻という食べ物を…

堀田善衛「バルセローナにて」(集英社文庫)

「狂女王フアナの境涯に思いを寄せ、いまも残るスペイン内戦の残酷な傷痕を目の当たりにする。スペインに移り住んで10年、人間の尊厳と狂気、歴史の愚行を見据えつづけた著者の魂の遍歴の書。」 「アンドリン村にて」 ・・・ 小さな村の生活風景。ここに住む…

堀田善衛/司馬遼太郎/宮崎駿「時代の風音」(朝日文庫)

宮崎駿が敬愛する作家の堀田善衛と司馬遼太郎を招いて、鼎談を行った。その記録。1992年夏ごろの座談かな。半分くらいは司馬遼太郎がしゃべっていて、その博学なことに驚く。ここでは、自分の趣味にあわせて、堀田善衛の発言にフォーカスを当ててまとめてみ…

堀田善衛「めぐりあいし人びと」(集英社文庫)

1918年生まれの著者が出版社の編集者たちを集めた座談会で、1991-92年にかけて語ったことのまとめ。タイトルからすると交遊録のようであるが、実際は彼の生涯の振り返りと世界各地の知人友人たちと会ったことの挿話と世界の歴史。話題は、それこそ千変万化、…

フレデリック・フォーサイス「ジャッカルの日」(角川書店) アサシンはプロジェクトマネジメントの達人。追われるものと追うもので情報の密度や速度に差がなかったので、警察は「ジャッカル」になかなか追いつけない

第2次大戦前からアルジェリアはフランスの植民地だった(なのでアルジェリア出身のフランス人がいる。アルベール・カミュが有名。サッカー選手には多数)。戦後、独立運動が起きて、フランス軍と独立派の戦闘が起きた。フランスは最終的に撤退することを決め…

アーサー・C・クラーク「2061年宇宙の旅」(ハヤカワ文庫) 2001年の旅で意気消沈した人類が50年後にはフロンティアに飛び出す。宇宙空間の事故はビジネススクールのケーススタディにふさわしい。

「2061年、ヘイウッド・フロイドは高鳴る動悸を抑えきれなかった。75年ぶりに再接近してきたハレー彗星の探査計画への参加を要請されたのだ。最新型のミューオン駆動宇宙船ユニバース号に乗り組みハレー彗星をめざす―そして、みずからの手で彗星を調査する。…

イアン・ワトソン「スローバード」(ハヤカワ文庫) 1967年から数年間日本に滞在したイギリス人作家の短編集。キッチュな未来風景に意識の拡大と認識の共約不可能性をぶち込む。

イアン・ワトソンは1943年生まれのイギリスの作家。1980年代には、このblogで取り上げた3冊だけ翻訳出版された。そのあと、「黒い流れ」シリーズがでた。他は「エンベディング」「オルガスマシン」がでているくらい。よく比較されるクリストファー・プリース…

イアン・ワトソン「マーシャン・インカ」(サンリオSF文庫) 無理やりに邦訳すれば「火星(人)化されたインカ」。言語は人間という存在の拡大ないし進化を妨げる原因らしい。

タイトルの「The Martian Inca」を無理やりに邦訳すれば「火星(人)化されたインカ」とでもなる。キーワードは「火星」と「インカ」。 米ソ(書かれたのは1977年だからね)で惑星開発競争が盛んになり、アメリカは火星で「ウォーミング・パン(加熱装置)」…

イアン・ワトソン「ヨナ・キット」(サンリオSF文庫) 意識が拡大したクジラと自閉する人類をつなぐのは呪術的で神秘的な意識を持つニホン人。な、なんだって。

タイトルはいくつもの意味が隠されているとみえる。まず「ヨナ」は登場するクジラの名前であるし、ソ連の研究所が推進しているプロジェクトの名前であるし、もちろん聖書に登場するクジラに飲まれたヨナでもある。「キット」はそのまま部品とか一部を構成す…

ロバート・ホールドストック「アースウィンド」(サンリオSF文庫) 「大壊滅」後の易経と風水に従って生きる人たちが異星人に遭遇。

遠い未来でどうやら銀河連邦のような組織をつくっているらしい。読者であるわれわれの現実からずれているのは、未来予測に易経を使い、その卦をみて行動を決めているらしいこと。なので、他の惑星に交易などで駐留する宇宙線には「義理者」と呼ばれる易の担…

マイクル・コニイ「ブロントメク!」(サンリオSF文庫) 改革意欲をなくした植民地惑星を巨大企業が買収し、全体主義社会を作ろうとしている。

地球から移住可能な惑星アルカディア。ここに住むマインドというプランクトンは50年おきに大発生し、人間の脳波に影響を与えてうつ症状を引き起こし、集団で入水自殺する事態を起こしていた。それを抑えるのは自生している植物から抽出した イミュノールとい…

マイクル・コニイ「カリスマ」(サンリオSF文庫) とても運の悪い男がどこのパラレルワールドでも殺害事件に巻き込まれて真犯人を追いかける。男の身勝手さが気に障る。

パラレルワールドないし並行世界論というのがあって、この物理現実の世界の<横>にほんのわずかだけ違った別の世界がある、その横にはその差異にほんのわずかの違いが加わった別の世界がある。すこしずつ差異を増やしながら無限の数の世界が連なっている。…

クリストファー・プリースト編「アンティシペイション」(サンリオSF文庫) バラードの次世代にあたるイギリスSF作家が「予感」ないし「期待」をテーマに書いた短編集。

アンティシペイションは「予感」ないし「期待」を意味するという。この国だと使わない言葉。未来の不確かさを表すことばに「リスク」があるけど、リスクのような不安定や損失の意味合いはなくて、むしろ待ち望むものが現れるような明るさをもっている言葉に…

クリストファー・プリースト「ドリーム・マシン」(創元推理文庫)

1985年、イギリス。ウェセックスに集まった39人の科学者はある実験に取り掛かっていた。心理学者の発明した投射装置を使って、全員の意識を150年後の世界に投げかける。それは、「実際」の2135年の社会を構成し、そこから情報を持ち帰ろうとするものだった。…

クリストファー・プリースト「スペース・マシン」(創元推理文庫)-2

クリストファー・プリースト「スペース・マシン」(創元推理文庫)-1 上流階級ではないがマナーに厳しいエドワードは、あくまで19世紀のイギリス道徳にのっとって恋愛を進める。そこでは、性的な行為はほぼタブー。なので美しい女性アマリアに惚れても、いき…

クリストファー・プリースト「スペース・マシン」(創元推理文庫)-1

1893年。新しもの好きのイギリス青年が、ホテルでみかけた美しい女性に一目ぼれ。休暇先で彼女に会って即座にアプローチ。彼女は大科学者の秘書をしていてとても利発で、会話は楽しく、当時にしてはさばけた先進的な考えの持ち主。大科学者はタイムマシンの…

クリストファー・プリースト「逆転世界」(サンリオSF文庫)

魅力的な舞台設定で、読み始めたらもうページを繰る手が止まらない。それが「逆転世界」。なにが逆転しているのか。 世界の全体は、「地球市」と名付けられた全長1500フィート、全7層の要塞めいた建物。それが過去200年間移動し続けている。住民の大半は建物…

リチャード・カウパー「クローン」(サンリオSF文庫) 知能化したチンパンジーと最初のクローン人間という「ニュータイプ」を人類は嫌う。

2072年(本書出版年の100年後)のイギリス。人口爆発のために3億5千万人が住み、ロンドンは5千万都市になっている。このころまでにチンパンジーの知能化に成功し、英語を喋り、人間の労働の一部を代行する。それもだいぶ時間がたち、チンパンジーの一部は労…

ジョン・ブラックバーン「小人たちがこわいので」(創元推理文庫) 短い枚数に情報を詰め込みすぎ、英国紳士のつつましさでアクションとサスペンス控えめ。

ウェールズはキリスト教化される以前の文明が残る場所とされる。古代の巨石遺跡もあって、ファンタジーの舞台になることがある。現在でも、生粋のウェールズ語が残っていて、それをしゃべられるとロンドンのイングランド人には通じないくらい。 この小説でも…