odd_hatchの読書ノート

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ロバート・ホールドストック「アースウィンド」(サンリオSF文庫)

 遠い未来でどうやら銀河連邦のような組織をつくっているらしい。読者であるわれわれの現実からずれているのは、未来予測に易経を使い、その卦をみて行動を決めているらしいこと。なので、他の惑星に交易などで駐留する宇宙線には「義理者」と呼ばれる易の担当者がいて、航路から住民との接触のしかたまでを<経>に尋ねて決する。

 さて、惑星イーランは辺境の地。人類によく似た種族がいるが多毛で、文明は石器時代に等しい。そこでは「地風(アースウィンド)」という風見によって、さまざまなことを決定していた。それを使うのは部族の重大な決定に限るのだが、具体的な行動方針は合議になる。意見が二つに分かれると、それぞれ代表をだして決闘し、その勝者がいるグループの意見を採用することにした。ときには兄弟、親子が対立し、決闘で殺し合いをするこもある。その一方、成人した男女はそれぞれパートナーを決め、一生を共に暮らすことになる。パートナー間の絆は親子などよりも優先される。
 このような原始的ではあるが、理性的な種族に銀河連邦の傘下にあると思われる異星人が惑星イーランに着陸し、接触を試みた。その一人である黒人女性エルスペスはある集団に深く入り込み、イーラン人の男ダレンのパートナーになるほどだった。しかし、異星人の宇宙船船長はイーランを制圧し、資源を収奪しようと考える。その策謀はイーラン人の知るところとなり、部族内の激しい混乱と分裂を招くことになった。イーラン人ダレンは決闘で勝利したが、それは妹ムワールのパートナー。そのためダレンは妹に命をつけねらわれることになる。エルスペスとダレンは部族から追い出され、雪山を超えて脱出しようとする。彼らを追うのは、イーラン人の勇士、そしてエルスペスによって惑星支配の機器を破壊されてたけり狂う船長ゴーシュタイン。まあ、こんな感じのストーリー。
 1977年初出のイギリスSF。作者は当時28歳で第2作だった。いかにも1960-70年代を生きた若者らしく、反科学主義や反理性主義のアイテムが頻出する。文明の利器を捨て、自然の生活に立ち返ることによって、人間は始原の本性を回復するというわけだ。そのための規範になるのは理性や科学知識ではなく、易経であったり「地風(アースウィンド))」を感じたりするような呪術的な思考。非常にシステマティックで人工的な易経はここでは多少批判的に扱われる。宇宙船の「義理者」であるアシュカは、土地の予言者アイオイダイの英知を超えることができない。二人とも未来を知り適切な行動をとれるはずであるが、より自然に近い「地風」を聞くことのほうが正確な予言を得ることができるということで。
 というような近代や文明や科学の批判の書であるのだが、あいにく小説はぜんぜんおもしろくない。上のような反文明を主張するための社会構成が図式的なのがまず第一の批判。エルスペスに代表される異星人の目論見や意図が不明。彼らはなんのために惑星イーランに来たのか、しかもエルスペスと船長で目的と行動が異なるのはなぜか。そのためにイーラン人の近らと分裂はエルスペスの思慮のない接触が原因と思われ、この勝気で自立心の旺盛な女性が行動するほどに事態を悪化させているとしか思えない。ル=グィンの小説であれば異星人との接触には細心の注意を払うはずだろうに。そのあたりが不明なんだ。しかも物語は弾まず、イーラン人の中の対立、宇宙線内部の対立、両者の対立が全く伝わらない。あんまり退屈なので、ときにページを飛ばしましたよ。
 そのうえ問題は翻訳にもありそう。ゴーシュタインという悪役が出てくる。彼は船長であるのだが、彼の登場シーンではゴーシュタインと船長がランダムにあらわれ、別々の人物であるかのように思わせる。たぶんほかにもあるはずで、読みにくいったらありゃしない。サンリオSF文庫は訳がひどいのがあることで悪名をとっていたが、これはその一冊になるのかなあ。
 作者の本はほかに5冊ほど翻訳されているみたいだが、これを読む限りでは遠慮しよう。