もともとは「モザイク事件帳」のタイトルで出版され、2008年に文庫化される時に冒頭の短編を全体の名前にした。副題のように、ミステリのサブジャンルの趣向を凝らす。
大きな森の小さな密室―犯人当て ・・・
「会社の書類を届けにきただけなのに。森の奥深くの別荘で幸子が巻き込まれたのは密室殺人だった。閉ざされた扉の奥で無惨に殺された別荘の主人、それぞれ被害者とトラブルを抱えた、一癖も二癖もある六人の客」
大きな森の小さな密室 - 小林泰三|東京創元社
21世紀に100年前の短編探偵小説のフォーマットを当てはめようとしても、もはや陳腐にしかならない、というのを意識して書いている。
氷橋―倒叙ミステリ ・・・ 雑誌の編集長が、担当の売れっ子作家が邪魔になって殺した。事前の実験とおりのトリックがうまくいったのだが、見知らぬ弁護士がなれなれしく近寄ってくる。上と同じく21世紀に1920年代の倒叙推理のフォーマットをあ(略
自らの伝言―安楽椅子探偵 ・・・ コンビニの店員のところに、使い捨て携帯電話と「水からの伝言」を信じる女性が彼氏に連絡が取れないといってくる。研究所にいくと、殺されているのをみつけ、自分が殺人犯になるかもという。そこで相談に乗っていたのだが、もう一人の店員が高飛車に割り込んでくる。上と同じく(略。そういえば、2008年というとネットで水伝批判が盛んに行われていた時期。提唱者が亡くなって、最近は聞かないね。まあ、水伝がインチキ、ニセ科学であるのは何度もいいますよ。
更新世の殺人―バカミス ・・・ 遺跡発掘現場で死体が発見された。つい昨日まで生きていかのような死体の推定死亡時刻は150万年前。遺跡を発掘していた考古学者がそのように検証したからだ。タイムマシンでも使ったか。いくつかの「バカミス」を読んでおかないとこの短編は笑えないのか。おれは十数年前にいくつかしか読んでいないので、面白がれなかったが。
正直者の逆説―??ミステリ ・・・ 吹雪の山荘に人が集まる。莫大な資産もちが殺されかけているといい、だれが犯人か当てろという。その夜、殺されていた。さて残された容疑者たちは記号論理学で犯人を当てようとする。こういうパズルや記号論理学は苦手だ……。
遺体の代弁者―SFミステリ ・・・ 死者の海馬を移植することで、死の直前の記憶を他人に移植することができるようになった。三角関係で同時に死んだ男女のうち、女性の海馬を移植し、彼女の記憶で真犯人を発見しようとする。語られているものがさらに上位の者にかたられるという言葉の迷宮。
路上に放置されたパン屑の研究―日常の謎 ・・・ 路の前にパン屑が連日並べられているのでなぜ、だれがやったのか調べてほしいと、探偵事務所の名前を同じ名前の男に老人が依頼する。一回の推理では満足せず、何度も。いやいやながらの探偵の行く末。
まあ、ミステリーのサブジャンルに対するパロディとか他のジャンルとの混交はずいぶん前からあったものだ(そのことに触れない文庫版の解説者はどうかと思う)。それからすると、この短編集は瑕疵がいろいろ目について。よいのは最後の二つくらい。あとはあくびを噛み殺しながらの、ページ早送りの読書。結構ずさんなトレースだったが、それでいいや。本領はSFにあるというから、そうなんでしょう。
「次、はい次行きましょう@八時だよ、全員集合byいかりや長介」