odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-ダイジェスト1 奇人変人ばかりのクルーが集まり、狂気の海に出航する。

15分でわかるハーマン・メルヴィル「白鯨」ダイジェスト(1)。 章題は新潮文庫版によっているが、一部は異なる。章題のあとの「(鯨学)」「(捕鯨船)」は博物学的記述であることを示すために自分が追加した。サマリー中の( )は自分の補注。 おおざっぱな…

ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-ダイジェスト2 航海は退屈なので、鯨学と捕鯨船の仕事を学ぼう。

15分でわかるハーマン・メルヴィル「白鯨」ダイジェスト(2)。 2016/09/30 ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-1 1850年 の続き。 大西洋、インド洋、太平洋を移動する捕鯨航海。鯨学の蘊蓄がえんえんと語られる難所。 第53章「交歓(ガム)」…

ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-ダイジェスト3 太平洋上で白鯨情報をキャッチ。執拗に追いかけるエイハブによって世界は狂気に染まっていく。

15分でわかるハーマン・メルヴィル「白鯨」ダイジェスト(3)。 2016/09/29 ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-2 1850年 の続き。 太平洋にでて、白鯨情報をキャッチ。執拗な追跡が開始されます。 第99章「ダブロン金貨」 ・・・ マストにくぎ…

マーク・トウェイン「トム・ソーヤーの冒険」(講談社文庫) 子供を抑圧しなければおのずと正義と自由を考えて実践する

そういえば西部劇映画には子供が出てこないなあ、あのころ子供はどういう暮らしだったのだろうと思って、今まで読んでこなかった「トム・ソーヤーの冒険」を読む。完全に読む時期を失したおかげで、うきうきわくわくの時間を持てなかった。 ミシシッピーに住…

マーク・トウェイン「ちょっと面白い話」(旺文社文庫) 正義や道徳を持たない人のシニシズム

この本はオリジナルがあるのではなく、訳者兼編者が作家自身の言葉や作家のエピソードを集めたもの。出典が書かれているわけではないので、読者は検証しようがないが、そこまで気にすることはない。15〜32文字くらいの警句を1ページに配置するという贅沢なレ…

科学史 INDEX

2013/02/20 レオナルド・ダ・ヴィンチ「手記 1」(岩波文庫) 2013/02/14 コペルニクス「天体の回転について」(岩波文庫) 2013/02/15 ブレーズ・パスカル「科学論文集」(岩波文庫) 2016/09/21 エマニュエル・スウェデンボルグ「霊界からの手記」(リュ…

薮内清「中国の科学文明」(岩波新書)薮内清「中国の科学文明」(岩波新書) なぜ四大文明発祥地では優れた技術を生まれても、科学は生まれなかったか。

吉田光邦「日本科学史」(講談社学術文庫)でもいったように、厳密に言えば、「科学」の方法と思想はヨーロッパ由来のもの。なので、中国の科学史は19世紀半ばの洋務運動あたりから始まるといえるかも。いや、むしろ1949年の人民共和国建国以降にしてもよい…

エマニュエル・スウェデンボルグ「霊界からの手記」(リュウ・ブックス) 現代のオカルトやスピリチュアリズムの源流は神なき18世紀思想のアマルガム。

幽霊やオーラを見ることができる知り合いが何人かいて、ときどき霊を見たという話をしてくれる。聞くと、彼ら、「見える」ひとたちは自分のような凡庸な人とは別の苦労をしょっているみたい。子供のころから霊的体験による恐怖に会うとか、メンターについて1…

ゲーテ「色彩論」(岩波文庫)-1 色は晩年のゲーテが最も関心をもった研究領域。学問は世界精神をつかむために教養を高めなければならない。

ゲーテの「色彩論」1810年は大部な著述であって、第1部:教示編、第2部:論争編、第3部:歴史編の3つの部分からなるという。この岩波文庫版は第3部:歴史編の抄訳(それでも400ページ)。1952年初出のために、旧字旧かな。古い書体の活字はかすれ、文体…

ゲーテ「色彩論」(岩波文庫)-2 科学と文学と哲学を統合したいゲーテは要素還元主義のニュートンが大嫌い。

2016/09/20 ゲーテ「色彩論」(岩波文庫)-1 1810年 の続き。 ゲーテの時代(18世紀後半)の科学を思い出すと、古典力学は完成済。微分積分などの数学も発展途上(力学と数学は相互に影響しあいながら発展していた)。化学だとラボアジェの元素論が今につなが…

荒俣宏「大博物学時代」(工作舎) 18世紀は科学と大航海の時代。神がいないと想定すると、人間が観察するものには変化が起きている。では変化の原因と機構はどのようなものか。

生物学はむかしから生物学であったわけではなく、それ以前はいくつかの分野に分化していて統合されていなかった。解剖学と分類学と生理学が別々にあったような具合。19世紀に統合されるようになったらしいが、18世紀では博物学という採集と観察と分類の学が…

ジャン・ラマルク「動物哲学」(岩波文庫)-1 著者の主張は、複雑なものから単純なものへ堕ちていく当時の見方のコペルニクス的転換と、多分枝の分類体系。生命の変化に関する説明は、付け足しみたいなもの。

ラマルクの「動物哲学」全3巻は1809年に上梓された。あいにくパリの博物学者としては不遇であり、この浩瀚な書物も同時代では評価されなかった。のちに「ラマルキズム」として再評価・復活させたのは、解説によるとエルンスト・ヘッケルであるという。そして…

ジャン・ラマルク「動物哲学」(岩波文庫)-2 著者の主張は、日々の生物の自然発生、使う器官の発達とつわかない器官の退化。努力による変異と獲得形質の遺伝は筆の滑りで、つじつま合わせの仮説。

2016/09/15 ジャン・ラマルク「動物哲学」(岩波文庫)-1 1809年 の続き。 この時代は地球や宇宙の年齢を正確に測る方法がなくて、現在のわれわれから見ると憶測と大差ないくらいの不正確なもの。聖書の記載を累計すると6000年強。それはエジプト学の研究で…

エルンスト・ヘッケル「生命の不可思議 上」(岩波文庫) プラスマなる実体が哲学と科学を統一するというトンデモ主張(今は「エクトプラズム」でオカルトにだけ名を残す)

エルンスト・ハインリッヒ・フィリップ・アウグスト・ヘッケル(Ernst Heinrich Philipp August Haeckel, 1834年2月16日 ポツダム - 1919年8月8日 イェーナ)は、ドイツの生物学者であり、哲学者である。生物学者としては海産の無脊椎動物の研究と図版作成で…

エルンスト・ヘッケル「生命の不可思議 下」(岩波文庫) プラスマの自発的自立的な意思が環境と自己を変化させる。本書は「ドグラ・マグラ」「エヴァ」の元ネタ。

2016/09/13 エルンスト・ヘッケル「生命の不可思議 上」(岩波文庫) 1904年 の続き。 ヘッケルが構想する生命の起源では、まず核のないプラスマ(原核細胞にちかいのかな)が生まれたとする。でそれが、生物の基本形で、生命現象の物質的基礎である。ミラー…

荒俣宏「図鑑の博物誌」(工作舎) 18世紀博物学最盛期に作られた図鑑を楽しむ。芸術画とは異なる価値が博物画にはある。図鑑作成に命を懸けて極貧に陥った人々に涙。

著者は、1960年代後半に本郷の古本屋で18世紀の博物学図鑑を入手する(なんと6000円という破格の安値!)。200年を経ても色あせない図版であることにおどろき、以来さまざまな博物学図鑑を手に入れる。その悪戦苦闘ぶりは「稀書自慢、紙の極楽」(中央公論社…

ヤーコプ・フォン・ユクスキュル「生物から見た世界」(岩波文庫) 環世界Umwertは均質で同等の時間が流れる時空間(デカルト的な空間)とはまるで別の世界像。環世界のHowは説明しているが、WhyとWhenは一切触れない。

1980年代にこの本はよく紹介された(翻訳初出は1973年)。プリゴジーンの「散逸構造」理論とセットで取り上げられることが多く、生物学よりも哲学思想の人が語っていたとも記憶する。どちらも高価な本だったので、当時は読めなかったが、21世紀に文庫になっ…

福岡伸一「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書) 21世紀の科学エッセイのベストセラーは教養不足でとっちらかった構成。

2007年のベストセラー。生物学の最先端(当時)の研究成果も書かれた本がたくさん売れるというのは珍しい。自分はあまのじゃくなので、売れていた時には読まず、ほぼ10年たって影響力が消失してから読む。 さて、自分は1980年前後に大学で生理学や生化学の講…

マーカス・デュ・ソートイ「素数の音楽」(新潮文庫) 数学の話は自分にはさっぱりだったが、研究方法やスタイルが変わってきたことは興味深かった。

素数は、自然数のうち正の約数が 1 と自分自身のみであるなので、理解は簡単。でも、どの数が素数なのか、どの程度の頻度で出現するのかを明らかにしようとすると途方に暮れる。たとえばこういう1000万(!)までの素数表をみるのは楽しい。素人目には、素数…

アルバート・アインシュタイン「物理学はいかに創られたか 上下」(岩波新書) のちに出てくる相対性理論の啓蒙書は本書のバリエーション。

1939年翻訳初版。wikiによると初版は1950年刊行になっているが、どうしてだろう。なので原著がいつ書かれたのかわからない。本文の記述からすると1925年から1939年の間に執筆されたと思う。新書は1963年に改訳されているので、その間に改訂されたのだろう。 …

山田正紀「神狩り」(角川文庫) 挫折を知らない独我論はナルシズムとヒロイズムを膨れ上がさせる危険な罠。そこから陰謀論や差別主義まではあと一歩。

ほぼ30年ぶりの再読で、(経験はしなかったが実感できる)1970年代初頭の末期全共闘運動のざらついた挫折の雰囲気を思い出した。いっぽうで、20代半ばの読書ではあれほど若者の「自分の物語」と思っていたのが、老年にいたると若者の「自分勝手な物語」に読…

有川浩「空飛ぶ広報室」(幻冬舎文庫) 職業や仕事についての批判や問い返しがない職業小説は自衛隊の「広報」に堕する。

小説には、珍しい職業をテーマにしたものがあって、たとえば井伏鱒二の「駅前旅館」。あるいは都筑道夫のホテル・ディックシリーズ。ノンフィクションだと、特殊清掃とか、南極越冬隊の食事担当など。まあ、読者の周囲にある「世間」では想像つかないような…