odd_hatchの読書ノート

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ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第6章革命的伝統とその失われた宝-1

2021/11/16 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第1章革命の意味 1963年
2021/11/15 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第2章社会問題 1963年
2021/11/12 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第3章幸福の追求、第4章創設(1)自由の構成 1963年
2021/11/11 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第4章創設(1)自由の構成(続き)、第5章創設(2)時代の新秩序 1963年
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第六章 革命的伝統とその失われた宝
1.アメリカ革命は成功したのだが、アメリカは革命があったことを忘れた。ヨーロッパはアメリカ革命を無視した。革命はもっぱらヨーロッパで論議され実践され、フランス革命をモデルにして敗北し続けた(革命は新しい政治形態を創設するのが目的という観点から判断。もうひとつ、テロルがなかった)。大衆が貧困にあえいでいるところでは新しい政治体を創設する革命は不可能。
(なので、1960年ころの米ソ対立は経済体制やイデオロギーによるものというより、革命に勝利して獲得した自由と、革命の敗北で生じた全体主義専制政治の対立とみなせる。これは面白いみかただ!)
(この論点からすると、ロシアや東欧は1918年と1989年の二段階革命があって、二段階目で新しい政治体の創設に成功したとする見方が可能。でも、その30年後に東欧諸国は極右が政権についてしまった。)
 しかしアメリカは革命のオリジナルな(生み出すもとになった)精神(公的自由、公的幸福など)を失った。残されたのは市民的自由、最大多数の個人的福祉、平等主義的民主主義的社会を支配する最大の力としての世論。世論の支配は意見の自由と相いれない。世論は全員一致的であり、利害(集団に属する)を重視し意見(個人に属する)を圧殺する。アメリカは個人に属する意見を公的見解に形成する永続的な制度(とくに上院と最高裁判所)を作ったが、公的精神からみると永続に成功したわけではない。
(なるほど、19世紀後半、フロンティアがなくなり、移民が工場労働者や肉体労働者になり土地所有ができなくなると、公的領域も公的精神もなくなったなあ。)

2.革命精神が①新しい物事を始める精神、②永続的で持続する物事を開始する精神であるとすると、この矛盾する精神そのものが革命の成果を危険で脅威にする。すなわち革命のオリジナルな精神である公的自由と公的幸福による創設と建設(まとめて構成といっていいかな)は憲法に盛り込まれなかった。それらの実践の場所である郡区(タウンシップ)と集会所(ミーティングホール)はあまりに自明のために規定がなかった。それは直接民主制をするにはシステムとリソースがないので、代表制の規定をするため。代表は①直接的な政治活動の代替物(なので代表は単なるメッセンジャー)か、②人民に対する支配権力を移譲されたもの(なので支配者)かを解決できず、人民を公的領域から締め出した。人民は統治の参加者になれなくなった。革命精神をだまし取ったのはアメリ憲法そのものである。
(一方、フランスでは国王退位後の混乱期にコミューンの評議会が自然にできた。しかし政党(ジャコバン党)はコミューンを党拡大のツールに使い、議会から締め出された。政党の代表者が権力を掌握し、人民は政治参加から締め出された。政党はコミューンに敵意をもち、政党の博愛(ブラザーフッド)は人民が要求する平等の代わりを務めることはできなかった。ロシア革命でも同じことが繰り返された。)
(革命精神が革命を裏切って、成果を簒奪するというのは、起業でも同じ。創造的な優れた起業ができても、起業後には創造に参加することができなくなる。人民を統治の参加者にするという革命がすぐに裏切られるという問題と同じことはビジネスでも難題になっている。)

3.革命の指導者や党の思惑・予期を越えて評議会(コミューン)が誕生する。しかし党に無視され、忘れさせられる。それは評議会が公的空間を突きつけるから。評議会の重要性は革命の思想家や活動家にはほとんど無視されてきた。アメリカ革命でも構成された生まれた共和制では、人民に私人としての権力を与えている(私的領域が拡大した)、市民としての空間が確立していない、ので、人民が統治する参加者となる機会は投票くらいしかなかった。こうして多数者を僭称するわずかな人々が支配できる制度になった。ジェファーソンは晩年に区(タウンシップ)を構想した。区は公的空間、自由の構成が可能な唯一の実体の空間である。区を経験することなしにはだれもが自由であるとはいえず、公的空間に参加し共有することなしには幸福や自由であるとは言えない。

 

 アメリカの歴史はガルブレイス「不確実性の時代」、羽仁五郎「都市」岩波新書などを読んで、たいしたことないなとなめてました。アメリカ革命(独立戦争)は興味を持てなかったので、ほとんど無知だったが、これを読んで世界史的な重要性がわかった。勉強します。
 アーレントは、フランス革命は失敗でアメリカ革命は成功したといっているのだが、それはあくまで比較しての話。アメリカの革命は、貴族のいない社会で富裕層(地主や弁護士など)が推進し、自治の経験をもっていた(かつ宗主国から遠く離れていて、周辺諸国反革命の干渉がほとんどなかった)。そのうえ貧困の問題は、タウンシップから締め出された奴隷やアフリカ系に押し付けられていて、白人層は困窮に直面していなかった。フランス革命が直面した大きな問題を回避できたという稀有な条件下にあった。19世紀以降の革命を見てもアメリカ革命のような条件をそろえていたものはない(せいぜい明治維新と東欧革命があるくらいか)。
 なので、アメリカ革命はこれからの革命のモデルにはならない(というのは19世紀のヨーロッパの革命運動の共通認識。なのでアメリカ革命の「革命性」は忘却された)。
(さらに19世紀末から市民参加の共和主義が、エリート官僚の主導する革新主義に変わったというところも、21世紀には重要。下記で補完しておく。
渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-1
渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-2
有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書)
有賀夏紀「アメリカの20世紀 下」(中公新書)

 

 

2021/11/08 ハンナ・アーレント「革命について」(ちくま学芸文庫)-第6章革命的伝統とその失われた宝-2 1963年