odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

吉田光邦「日本科学史」(講談社学術文庫)

 厳密に言えば、「科学」の方法と思想はヨーロッパ由来のものなので、日本の科学史は幕末から明治にかけて洋書を購入したりお雇い教師を招いたりしたところから始まる。そうすると日本の「科学」はたかだか200年にも満たないような歴史しか持っていない。われわれにとっての「科学」は西洋から取り入れたものであり、明治以前に「科学」的な研究や考察をした人たちは、ヨーロッパの人たちよりもなじみ薄い。
 しかし、著者は先史時代からの日本の科学史を構想し、一書にまとめた。それはかなりの力技であって、成功してもいれば失敗もしている。成功の事例は、著者は「科学」の範疇を単純に成果や方法に求めるのでなく、自然に向き合う感覚や観想も重要だと指摘すること。このとき、科学史文学史はほとんど同じ土俵に乗ることになり、とくに飛鳥から平安の時代の記述には万葉集古今和歌集などがさかんに引用される。
 それは別の誤解の可能性を引き出すことになるかも。例としては、この国の人々は自然と一体化する暮らしをしてきた(であればなぜ20世紀に環境破壊を類例のないほど激しく行ったのか)、この国の見方は自然科学の仕組みを包摂していて新しい科学の規範になるもの、あたりか。
 失敗していることは、現在の分類から見たときのほとんどの学問分野を網羅しているために、分析や判断がたりないことで、ことに明治以降は出来事と人名の羅列に終始している。そのために、廣重徹「科学の社会史」(岩波現代新書)のような歴史を読者が持てない。
2013/01/31 廣重徹「科学の社会史 上」(岩波現代文庫)
2013/01/30 廣重徹「科学の社会史 下」(岩波現代文庫)
 もちろんこの本が著者30代の1955年に出版されていることを思えば、科学史の方法も資料も現代的ではないという制限がある。また、この時代の啓蒙主義的な風潮に寄り添うような文章であることも欠点になるだろう。その意味では、これはまさに古典であり、再度書きなおさなければならない本である。
 とはいえその需要はあるのかしらねえ。