odd_hatchの読書ノート

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レフ・トロツキー「文学と革命 上」(岩波文庫)

 この本には、ロシア革命以後に書いた文学関係の論文が収められている。トロツキーには、政治煽動家、軍事指導者として名の残っている人なのだが、亡命後には著述家としての一面も持っている。「裏切られた革命」「ロシア革命史」「わが生涯」などの多数の本が出ている。そういう物書きであることは知っていたが、文芸評論をするほどの多彩な人であるとは思わなかった。
 まずは、古典から現代(当時の)までの大量の読書体験を持っているということ。幼少のころから読書を熱心に行ってきたということだが、政治運動にかまけていると、読書の時間は減ってしまう。まして文学なんか読んでいる暇がない。そういう状況にあって、実に多くの本を読んでいること。その姿勢には感服。必ずしも、いつも怒鳴ったり、頭から湯気を立てているわけではないらしい。
 もうひとつは教条臭のないこと(念のためにいうと、「文学と革命」上巻に収められた論文は、主に海外移住期に書かれたもの。ロシアで革命活動をしていた時期でもないし、ボルシェヴィキ政権の閣僚就任後のものでもない)。他の著作を読んでも同じ感想になるのだが、この人の文章にはマルクス主義らしさがほとんど現れない。●●的、○○主義などという何かをいっているようで内容空疎な言葉はまるで使われない。また、ここの主題は社会主義における芸術のあり方なのだが、第2次大戦後によく聞くような「人民のための」「革命のための」などということもまったく現れず、文学その他の文芸が独自に考えなさいよ、でも革命のことと人民の生活のことをわすれちゃだめよ、とにかく文学には独自の価値があるのだから、と丁寧に説いている。こういう文章ではなかなか戦闘的なところはなくて、最後に収録された演説で怖いトロツキーをうかがうことができた。
 この人は、「永続革命論」「世界社会主義化」などという考えを持った。この理想は、スターリンとの抗争に破れてしまった結果、実現することはなかった(まあ第4インターなどのトロツキスト集団はあるのだが。いや過去形か)。この理想は現実との接点を失ったのだが、「永久革命」は文芸の世界では可能になりうるのではないか、彼がこれほど文芸評論を書いたのはそのような夢を持っていたからではないか、そんな気がした。
2005/08/03 まだ勉強不足時期に書いたもの。