odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ケネス・S・ホイットン「フィッシャー=ディースカウ」(東京創元社) 20世紀後半のリートをリードした不世出のバリトン。書かれていない彼のわがままは不愉快。

 ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(DFD)を実演で聞いたのは一度だけ。NHK定期公演に指揮者サバリッシュとともに現れ、ブラームス「ドイツ・レクイエム」を歌った。いつかその感想をエントリにアップするかもしれない。
 若いときからの才人で、フルトヴェングラーとの競演で世界的な名声を獲得し、とくにリートの世界を新しくした人。
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 膨大なレパートリーと知的な読み込み、的確なテクニックと一度聞いたら忘れられない個性的な声。これほどの才能を一身にまとった歌い手というのは他に考えるのは難しい。彼の生活はこの本によると勤勉であり、かつ家族を大切にする人でもあったらしい(そうはいいながらも3回結婚している)。あと、デッカがカルーショーのプロデュースでワーグナー「指輪」全曲録音を行った。最後の「神々の黄昏」の録音風景がフィルムで残っていて、「The Gorden Ring」というタイトルでみることができる。プレイバックを出演者が聞きなおすシーンに、30代のDFDが登場。大きな顔に知的な表情。驚いたのは喫煙していること。ルチア・ポップがヘビースモーカーだったそうだが、歌手が喫煙して大丈夫なのかしら。
 とはいうものの石井宏「帝王から音楽マフィアまで」(学研M文庫)によると、バブル期に来日し、リートリサイタルを行ったときには、ひどいわがままを招聘者にいったそうだ。帝国ホテルの最高の部屋を用意しろとか、リサイタル終了後は日帰りで東京にもどりかつ移動時間は3時間以内にしろとか。彼の性格がそうしたのか、日本がなめられたのか(仮にそうだとしたら差別主義者ということになる)知らないが、いい話ではない。
 リートの世界でも、DFDの影響があまりに大きかった時代があったが、最近はその反動で彼の捨てた「歌」を再構築しようという動きもあるようだ。引退してからは情報が入ってこないが、彼の未発表音源が海賊盤になったという話を聞くこともない。急速に忘れられつつある人のようだ。

  

 かつては上のように考えたものの、購入できるCDは300種類以上というだから「忘れられつつある」というのは間違いかな。まだまだ聴取者の人気は衰えていないようです。
 彼のリートはほとんど聞いていないので、紹介しません。自分のコレクションにはブラームスの歌曲集「ティークのマゲローネによるロマンス」をリヒテルと共演したライブCDがある。これは貴重かしら。オペラ、オラトリオ、宗教曲などにいくつも録音を残しているが、彼の声を聞きたいという理由でCDを選ぶことは無いなあ。そうすると、フルトヴェングラーの「トリスタン」全曲でクルヴェナールを歌うのを聞くのが一番多いかな。
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 フルトヴェングラーとの初共演。1951年8月19日。
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 「ドイツ・レクイエム」ならクレンペラー盤。
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