odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

保坂俊司「国家と宗教」(光文社新書)-2 仏教と神道の場合

2024/04/08 保坂俊司「国家と宗教」(光文社新書)-1 キリスト教とイスラームの場合 2006年の続き

 

 後半は通常政治的ではないとされる宗教が政治に関与しているという話。アジアの政教分離はヨーロッパとはかなり違う。

第3章 仏教と政治 ・・・ 仏教には政治哲学はないというがそうではない、さまざまな国で仏教が国家宗教になっているから。とはいえ、仏教は容易に分派するので統一的な教義や政治哲学を見出すのは困難である。というのも仏教集団は不殺生で暴力装置を持たず、政治権力を持とうとしなかった。為政者を感化することを行ってきた。またインドをみると、バラモン教が差別を前提にした社会であるが、仏教はあまり抵抗批判してこなかった。大乗仏教が東南から東アジアで隆盛したが、この空思想が国家に受け入れられたのは多民族・他宗教の地域を統合する思想であったためだろう。空を受け入れれば、現世の差異を越えられるとしたのだ。
第4章 日本宗教と政治 ・・・ 神道を意識することはめったにないが、天皇や神社に違和感をもたず、慎重な扱いが必要というのはわかっている。そういう教育や伝統を持っているのが日本の宗教意識だ。
天皇崇拝が始まる前は、祟りやケガレの祭祀を行い、冠婚葬祭などに反映していた。神道もこの影響を受けている。
聖徳太子(576-622)のころに天皇崇拝の神道を仏教化する。当時、東南アジアから中国まで仏教による宗教祭儀が国家祭儀になっていたので、神道の仏教化は国際化・文明化だったのだ。
・中世になると仏教のほうが列島の人々に伝播し、神道はあまり意識されなかった。天皇の名称も使われず(「院」とされた)、門跡寺院に入って生活していた。ただし天皇は僧にはならない。
・江戸後期の光格天皇天皇復古の運動を開始する(傍系だったので、意識的に天皇原理主義を作って、自分の価値をあげようとしたらしい)。ちょうど国学の勃興期で、光格天皇はその影響を受ける(当然幕府の朱子学に対抗する意図もある)。したがって、天皇は日本国主であり、仏教を排除することをめざす。それは平田篤胤神道思想由来。19世紀になると、富裕層町民に国学思想が広まる。この天皇原理主義運動は倒幕運動と合体する。
(参考情報)
「〔近世国学によって〕米が天皇神事と不可分の穀物として改めて位置づけなおされたことで、古代神話にまでさかのぼって、国家の成立と近代の水田景観のイメージが分かちがたく結びつき、広範な水田景観と稲作は、古代以来連綿と継続して日本の歴史とともにあると考えられることとなってしまった」
https://twitter.com/hayakawa2600/status/1523476783172964353
明治天皇は、過去900年続いた仏教化された天皇制を変える。宮中の仏具その他が撤去され、門跡寺院を持たなくなる。ここで仏教と神道が断絶する。そればかりか、廃仏毀釈運動を行って全国の寺院を破壊した。これは政府の命令もあったが、民衆による熱狂もあったらしい。この運動は正しい・良いと考えられていたので、記録がほとんど残されていない。ときには石仏をトイレの踏み台にすることもあったという(象徴的に「神殺し」を行ったのだろう)。
・日本では中世から死の祭儀と鎮魂を仏教が行ってきた。明治政府の廃仏毀釈によって仏教が国家的な鎮魂祭儀を行わなくなったので、神道が担当しなければならなくなった。しかし神道は死の儀礼に直接かかわってこなかった。そこでとくに戦死者の鎮魂のために靖国神社(もとは招魂社)をつくった。靖国神社の管理は陸海軍と内務省が担当したので、おのずと宗教的政治的な場所になった。古来の神道や仏教は敵味方の区別をせず怨親平等に扱ったが、靖国神社は敵と味方の区別をつけ、前者を追悼する思想と儀礼を持たない。

 タイトル「国家と宗教」を論じるには、入口だけで終わった感。ことに日本宗教のページがそう。近世国学以降、天皇制が仏教を廃棄して神道に復古するまでの経緯を描いておしまいになってしまった。21世紀の日本政治(ことに安倍晋三内閣以降)が神道系の宗教団体と結びつきを強め、その方針を政策化している様子はまったく触れられなかった。その一部は下記のエントリーで補おう。
山崎雅弘「日本会議 戦前回帰への情念」(集英社新書
青木理日本会議の正体」(平凡社新書
 自分の関心に寄せると、宗教団体の全国的な組織が政治に関与している構図が気になっている。そこでは政教分離はないのだが、日本の政治は宗教的ではないとほとんどの人が考えているのと乖離している。これをつなぐ精神や思想はいったいなんだろう、ということ。
 とりあえず思いつくのは、政策を批判なしでそのまま周知する広報はあるが、政策の意図を解説し批判する報道がほとんどないこと。同時に近世国学以降の神道イデオロギーを解説する本がほとんどないこと。自分なりにある程度の見通しがもてるようになったには、本書を含め、以下のいくつかを読んでからだった(ほかにも日本近現代史の本を多数)。でも一冊にまとめることができるはずなのに、そういう本はなかなか見当たらない。
遠山美都男「天皇誕生」(中公新書
神野志隆光古事記日本書紀」(講談社現代新書
千田稔「伊勢神宮 東アジアのアマテラス」(中公新書
 これはヨーロッパやアメリカの政治とプロテスタンティズムの関わりが調べられているのと好対照。日本やアジアの「国家と宗教」はもっと明らかにされるべき。

 

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