odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ジュリアス・ファスト「ビートルズ」(角川文庫)

 御多分にもれず、自分がビートルズを知ったのは、中学生の時に悪ガキがクラスに持ち込んだラジカセからだった。そこで聞いた「She Loves You」のメロディとビートにびっくりした。さっそく、若いみのもんたのDJで、ビートルズの曲を片端からかけるというラジオ番組があって、毎夕聞いた。カセットテープにエアチェックはしなかったけれども、ビートルズの曲はラジオで頻繁にかかっていたから覚えることができた。困惑したのはすでにビートルズは解散していて、新作が聞けないということだった。そこで、ビートルズを知ろうしたが、参考になるのは角川文庫の「ビートルズ詩集」上下巻とこの本くらいしかなかった。

 というような1970年代半ばのことを書いても仕方がないので、この本を40年ぶりに読み直す。どうでもいいエピソードを覚えていたのに驚いたし、初読の時に気にも留めなかったことが光っているのを知った。この本を書いたのは、社会学者で音楽評論家という。そして、出版されたのは1968年。アルバム「マジカル・ミステリー・ツアー」が最新作で、内部の不和など書かれていない(邦訳は1972年なので訳者の片岡義男があとがきで補足している)。その点では不十分なものであるが、ビートルズに熱中したファンやイギリスの音楽業界の反応はリアルタイムのものなので、そこは資料的な価値があるだろう。もうひとつのポイントは、著者がビートルズよりだいぶ年長なので、シナトラやプレスリーと比較するなど「上から目線」のような書き方になっていること。同時代の熱中の外から冷静に眺めている視点が特徴。もしかしたら、著者はビートルズの4人よりも、若死にした年上のブライアン・エプスタインの方に感情移入しているのかもしれないと思ったものだ(音響エンジニアのジョージ・マーティンはここでは詳しくない)。あと、この4人のことよりも若者(ティーンエイジャー)が彼らに熱中したことの方に興味を持っているようなところも。面白いのは、ビートルズのメンバーがシンプルなロックン・ロールをやっているまでは女の子が熱狂していて、男の子は冷ややかなのに、「ラバー・ソウル」や「リボルバー」で独自の路線になりコンサート・ツアーにでなくなると女の子は一斉に熱が冷め代わりに20歳前後の青年男性が熱中するようになるところ。これは上記プレスリージェームズ・ディーンのころから今のポップスター(死語か?)でも同じで、ファンの気分が現れているところ。
 さて気の付いたところをいくつか。当然ビートルズファンがすでに指摘済みだろうが、そんなことは確認もしないで好き勝手に。
ビートルズはスーツにネクタイ、整えられたヘアースタイルという外観でアッパークラスないし知的階級のように見えるが、実際はワーキングクラス出身(ローリングストーンズは逆にアッパークラス出身者が不良のような見せ方にした)。なので、教養や知識には欠けている(この本でも、20代前半のころジョンですら本は読まなかったというし)。歌詞も紋切り型で通俗的。際立ったのはメロディとビートの方。
・デビュー後の短期間の成功で金と名声の両方を獲得したあと、そして25歳を過ぎて彼らが大人になりつつあるとき(メンバーとつるむより、結婚して家族といる時間が増えたとき)、どこに行けばよいのかわからなくなる。それが1968年ころ。自分らに欠けている教養や知識や観念的な思考を得ようと迷走する。ボブ・ディランを研究したり、LSD他のドラッグをやったり、インド哲学(たぶんにエセ風味有り)に傾倒したり。
・メンバーのほとんどはすぐに飽きて、20代前半の悪ガキ風なところと穏健な家族主義に回帰したのだろうけど、ひとりジョンだけが観念的で政治的であろうとした。なんでかね。この人には言葉遊びの才能はあったらしいが、この本を読むと、自発的な思想はなかったように思うのだ。のちの「ジョンの魂」「イマジン」みたいなところに行くのは、誰かの導きでもあったのかなあ(自分は、ソロ時代のこれらのアルバムは嫌い)。1970年代前半の「プラスチック・オノ・バンド」で全共闘のヘルメットかぶって、「Give Peace A Chance」を歌うフィルムを見たことがあるけど、猛烈な違和感があった。
 ということで、自分の好きなのは「ラバー・ソウル」から「ホワイト・アルバム」までの中期だいうことを書きたいだけ。


参考エントリー
片岡義男「ぼくはプレスリーが大好き」(角川文庫)