odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

2025-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ドナルド・キーン「正岡子規」(新潮文庫) 日本語ネイティブの書き手とは異なる視点が違和になるし、斬新な見方にもなる。不思議な書物。

正岡子規のいくつかを読んだだけで言いたい放題したので、評伝を読む。手軽に入手できるのはこの一冊だけだった。日本人は日本の過去や伝統や文化に関心をもたなくなったのかしら。 正岡子規の生涯は司馬遼太郎「坂の上の雲」でも描かれる。創作が大半を占め…

山田美妙「武蔵野」(青空文庫) 源家崩壊時の関東武者の奇譚。日本文学の「本流」から離れたジャンル小説の開祖。

山田美妙は1868年生まれで1910年没。享年42歳。同級生に尾崎紅葉などがいて在学中に硯友社を作る。この程度の文学史の知識で、小説「武蔵野」を読む。1887年に読売新聞に連載された。 全体は上中下の三部構成。ころは足利尊氏、新田義貞のころ。源家絶えて…

二葉亭四迷「翻訳・随筆」(青空文庫) 日本文学を開拓するべく翻訳・実作・宣伝・批評を一人で始めたがどれも中途半端で、自分を無用の人と断じてしまう。

青空文庫から抜き出した二葉亭四迷の翻訳と随筆を読む。 ツルゲーネフ「あいびき」1888 ・・・ 元はツルゲーネフが1852年に出した短編集「猟人日記」の19編目。それを二葉亭四迷が1888年、24歳で訳した。もとよりこれが西洋文学の初訳ではない。それ以前にも…

二葉亭四迷「浮雲」(新潮文庫) 立身出世から脱落した日本のエリートのダメなところはすでに1890年代に出そろっていた。

日本で最初の「小説」とされるもの(1891年)。この前に小説がまったくなかったかというとそんなことはない。江戸の草紙や貸本、明治の読み本など多数あった。「最初の」とされたのは、西洋の小説をモデルにして日本を舞台にしようという志で書かれたから。…

二葉亭四迷「平凡」(岩波文庫) 自分を無用の人と規定する二葉亭はモッブ(@アーレント)、ダス・マン(@ハイデガー)を生きたたぶん最初の日本人。

25歳で「浮雲」を書いてから、しばらく創作から遠ざかっていた(のだったっけ?小田切秀雄「二葉亭四迷」(岩波新書)を読んだのがほぼ半世紀前なのでよく覚えていない)二葉亭、14年後の39歳になってふたたび筆を執る。あいにく二葉亭自身と思われる書き…

内田魯庵「二葉亭四迷 随筆集」(青空文庫) 二葉亭四迷は日本最初の「苦悩教」。この人の煩悶はのちの文学者を長く拘束した。

内田櫓庵は1868年生まれ。英語を学んで、1892年にドスト氏の「罪と罰」第1部を翻訳(日本最初のドスト氏小説の翻訳)。ここまでは知っていたが、のちに二葉亭四迷らと交友をむすぶ。1911年に二葉亭が客死したのち、全集を編集した。青空文庫に二葉亭四迷の…

国木田独歩「武蔵野・忘れえぬ人々・牛肉と馬鈴薯・酒中日記」(青空文庫)-1 19世紀の小説。知的エリートは苦悩し、駄弁をやめない。

国木田独歩は1871年生まれ1908年没。漱石や鴎外、二葉亭より若いのに先に亡くなった。クリスチャンであったという。 武蔵野1898 ・・・ 二葉亭四迷訳のツルゲーネフ「あひびき」を持って、武蔵野(小手指の古戦場を見に行くというから所沢や瑞穂のほうかな)…

国木田独歩「富岡先生・少年の悲哀・運命論者」(青空文庫)-2 20世紀の小説。家父長制とミソジニーまみれで無責任な男たちばかり。

2025/11/20 国木田独歩「武蔵野・忘れえぬ人々・牛肉と馬鈴薯・酒中日記」(青空文庫)-1 19世紀の小説。知的エリートは苦悩し、駄弁をやめない。 1898年の続き 後半は20世紀に入ってから書かれた短編。 富岡先生1902 ・・・ 元士族の男は民間にでることな…

永井荷風「珊瑚集」(岩波文庫) 男の青年が魂の危機に会い、絶望と失意に陥ったが、どうにか回復して乗り越えるまで。西洋の象徴詩を並べて作った物語詩。

文学をやろうとして親に反対され、アメリカとフランスに留学を命じられる。仕事に熱心でなかったので、数年で帰国させられた。そのあとの1913年に出したのが、この詩集。彼はフランス滞在中にフランスの〈現代〉詩をたくさん読んだ。その中から40篇ほどを選…

宮沢賢治「春と修羅」(青空文庫) ヘッケルの「霊魂不滅」「宇宙的な霊的進化」で書かれた日本型全体主義翼賛の文芸運動。

宮沢賢治にはまったく興味がない。そりゃ小学生のときに童話を読んだり、10代に詩集を読んで関心したりしたさ。20代の時に数冊を読んださ。でも、読んでいくうちに「なんかこいつへん」という感想になってそれっきりになった。見田宗介「宮沢賢治」岩波書店1…

三木清「ゲーテに於ける自然と歴史」「読書遍歴」他(青空文庫) 大正教養主義時代に「非政治的」という政治的な立場から読書の仕方を考える。

青空文庫に収録されている三木清の論文とエッセイから関心をもてそうなのを選んで読んだ。 マルクス主義と唯物論1927.08 ・・・ 新カント派からハイデガーを経由してパスカルに至った哲学者(「読書遍歴」)によるマルクス主義の解説。通俗的な説明に、さま…

小林多喜二「蟹工船・党生活者」(新潮文庫) 北海の船に閉じ込められた工員たちが重労働と低賃金で怒りを溜めていく。

2010年代に「蟹工船」が若い人たちによく読まれて、自分事として工員たちに共感した。あいにく俺は共感(エンパシー)を感じにくいたちなもので、とても冷静に分析的に読みます。自分に重ね合わせて読んでいる人たち、ごめんなさい。 蟹工船1929 ・・・ 特定…

小林多喜二「工場細胞・不在地主・防雪林」(青空文庫) ボルシェビズムを日本の労働問題や農村問題に当てはめるだけでは小説にならない。

小林多喜二のプロレタリア文学の新しさは、文学の場として工場を発見したこと。知的エリートたちが見向きもしなかった場所がとても人間くさい場所で、社会の問題が結晶しているかのような場所だったのだ。新しいのは、機械と騒音。工員も監督も工場との契約…

岡本かの子「老妓抄・他短編」(青空文庫)「家霊」「河明り」「東海道五十三次」 戦前昭和の高級家庭の女性像。

女性の文学をほとんど知らないという体たらくなので、青空文庫にある岡本かの子の小説や随筆を読む。俺が知っている文学史(昭和に書かれたもの)にはほとんど登場しない(か俺が無視していた)ので、あたりがつかない。とりあえず中公文庫の「老妓抄」に載…

原民喜「夏の花・心願の国」(新潮文庫) 「ピカ」の圧倒的な威力を前にすると言葉はまずしい。感情が鈍麻すると激しい揺り戻しがくる。

原民喜は1945.8.6の広島原爆の被災者。ここでは被爆とその後を書いた代表作二つを読む。 夏の花1947 ・・・ 妻を亡くした中年男(書かれていないが高校教師のため徴兵されていないらしい)が1945年8月6日の広島にいる。半裸で起きたばかりに「ピカ」にあう…

「西脇順三郎詩集」(新潮文庫) 西洋古典教養をもつ詩人は自我やエゴに固執しないし、説教も演説もしない。そこが心地よい。

人生三度目の読み直しは老年に入ってから。およそ20年前の感想は以下。 「西脇順三郎詩集」(新潮文庫) 高校生の時の難解さはとうに消え、日本語の美しさを堪能する。 60代の半ばに近づくと、もう〈この私〉が私であることは大きな問題ではない。むしろ自我…

山川方夫「全集」(新日本文学電子大系 (芙蓉文庫)) 日本国憲法で基本的人権尊重が道徳規範になったのに、昭和の男性作家のミソジニーとマチズモは強くなった。

山川方夫やまかわ・まさお(1930—1965)で知っていることは青空文庫の紹介文だけ。短編小説、ショートショート(★をつけたもの)の書き手。雑誌「マンハント」の常連。35歳で交通事故死。彼の同世代は、都筑道夫、筒井康隆、広瀬隆などか。ショートショート…

柴田翔「されどわれらが日々―」(文春文庫) 1950年代の知的エリートの自意識過剰な青春。空虚や貧しさを感じても他人に無関心なので救済されない。

2025/2/21放送のNHKラジオ「高橋源一郎の飛ぶ教室」で、韓国では翻訳された柴田翔「されどわれらが日々―」がとても人気で、共感している読者がたくさんいるとレポートしていた。なるほど。俺も約半世紀前に読んだが、内容をすっかり忘れている。そこで、再読…

中村光夫「日本の近代小説」(岩波新書)-1 文学や小説を明治社会が排除したのは帝国大学を頂点にする立身出世主義。

高校生のときに文学史の知識を得るために買った。教科書の後ろにあった文学年表をなんども見ていて(次に買う文庫を決めるため)、さらに本書を読んだので現国の文学史は完璧でした。以来半世紀を経ての再読。いやあ懐かしい。 とはいえ内容には不満。先に書…

中村光夫「日本の近代小説」(岩波新書)-2 立身出世に背を向ける「落伍者」による日本の近代小説は、都市-田舎、金持ち-貧乏人の4グループの中で中心が移動していった。

2025/11/04 中村光夫「日本の近代小説」(岩波新書)-1 文学や小説を明治社会が排除したのは帝国大学を頂点にする立身出世主義。 1954年の続き 前のエントリーでは1890年代の頭の方までを取り上げた。漏れていることが二点。 ひとつは1890年代に帝国大学の方…