odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

2025-07-01から1ヶ月間の記事一覧

池内紀「モーツァルト考」(講談社学術文庫) 印象批評をやめて歴史学や社会学の方法を取り入れて音楽を研究しよう。息苦しく整いすぎたところから市民の場に出よう。

ずっとフランス革命以後のことばかりを考えている。そうすると、フランス革命以後の変化が社会の前提になっているように思いこんでしまう。それ以前の西欧社会は別なのだ、革命以後の「19世紀」とは異なる社会なのだということを忘れている。そこで、ドイツ…

ルートヴィッヒ・ベートーヴェン「音楽ノート」(岩波文庫)-2 18~19世紀の器楽は性格を描写し詩的プログラムをもつように作曲された。

ベートーヴェンの交響曲を分析する本をいくつか読んで面白かったので、本人のノートを再読する。前回の感想はこちら。 odd-hatch.hatenablog.jp 前回の感想を覆すような読み方にはならなかった。より強くいいたいのは、ベートーヴェン本人のテキストを読むと…

ロマン・ロラン「ベートーヴェンの生涯」(岩波文庫) 苦痛を受け入れ自己犠牲することで世界を救済する「英雄」であるのがベートーヴェンである。

15年ぶりの再読。前回の感想は以下。再読してもあまり付け加えることはなさそう。 odd-hatch.hatenablog.jp ロマン・ロランは1866年生まれ1944年没。リヒャルト・シュトラウスとほぼ同じ時期を生きた。彼はフランス生まれなので、フランスの音楽事情を振り…

諸井三郎「ベートーベン」(新潮文庫) 戦前に活躍した邦人作曲家はベートーヴェンの晩年様式を「宇宙的人間の霊的感情の映像」とみる。

ベートーヴェンが登場する本をいくつか読んだの再読。一回り干支が前の時に読んだ感想は以下。 諸井三郎「ベートーベン」(新潮文庫) 文庫は1982年に復刊されたもので、元は1948年。当時のベートーヴェン研究の最前線だったのだろう。本書で諸井はベートー…

片山杜秀「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」(文春新書)-2 参政権のある市民の社会から根無し草の大衆社会になると音楽も変わる。

初読の一年後に再読。 odd-hatch.hatenablog.jp テーマは「市民」。俺の理解では「市民citzen」は参政権を持っている人のことをいう。20世紀になってから参政権は成人した男女が平等にもつものとされた。でも、19世紀では政治参加できるのは、男性で、一定以…

片山杜秀「革命と戦争のクラシック音楽史」(NHK出版新書) フランス革命の「自由・平等・友愛」のスローガンは市民と作曲家の大変貌を促す。

同じ著者の「ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる」は中世からWW1までを一気に通観したが、本書では近世から近代までをみる。その歴史のメルクマールになるのは、フランス革命。この時代を音楽家を通してみるので、フランスやプロシャのような一国内の歴史…

笠原潔「西洋音楽の諸問題」(放送大学教材)-1 ベートーヴェンの交響曲は性格交響曲。英雄のテーマを完結させるためにくどいほどに繰り返される。

笠原潔「改訂版 西洋音楽の歴史」(放送大学教材に続いて、放送大学の教材を読む。出版年が2005年なので、この年からの講座だったもよう。 「西洋音楽の歴史」の先にある諸問題を講義。クラシックマニアから見ても面白いテーマが並ぶが、学問になるとトリビ…

樺山紘一「《英雄》の世紀 ベートーヴェンと近代の創成者たち」(講談社学術文庫) 啓蒙主義者や疾風怒濤のロマン主義者は啓蒙の賢人や普遍の英雄を求めた。

西原稔「バロック音楽と国際政治」(講談社学術文庫)の続き。西原書は18世紀終わりころ(1770年代まで)を扱っていた。本書は西原書が終わったところから始まる。 odd-hatch.hatenablog.jp とてもわかりやすい、17世紀ころからのドイツ精神史。17世紀にイギ…

かげはら史帆「ベートーヴェン捏造」(柏書房) シンドラーによる会話帳の改竄と破棄。自称プロデューサーの自我回復による暴挙はベートーヴェンの「真実」を隠してしまった。

我々は、ベートーヴェンのことを不屈の人とか英雄とか市民革命の賛美者などと考えている。それはテレビやラジオや雑誌やコンサートの解説や本などのメディアがそう言っているから。ではメディアはなぜこのようにいうかというと、研究者や知識人などが書いた…

小宮正安「ベートーヴェン《第九》の世界」(岩波新書) 疾風怒濤期の体制批判と転覆から旧体制復帰期の平和の希求と始原への回帰へ。「歓喜の歌」のメッセージは現在に通用するか?

ベートーヴェンの作品の中では破格の難解さをもっていて、常識外れの長さで聞き通すのは苦行であり、モーツァルトやチマローザやロッシーニなどの影響を受けた折衷的なところがあり、合唱といわれながら登場するのは最後の10分だけで、しかし聞き終えると強…

原田光子「クララ・シューマン、真実なる女性」(古典教養文庫) ロベルトと結婚しブラームスと深い親交もった女性。家父長制に耐えた厳しい生涯。

クララ・シューマン(1819~1896)は19世紀ドイツのピアニストで作曲家。それよりも作曲家ロベルト・シューマンと結婚したことで知られている。彼女の波乱の人生。 ・ライプツィヒの音楽教師で楽譜商の家に生まれる。出産後両親は離婚し、クララは父に育てら…

フリードリヒ・ニーチェ「この人を見よ」(岩波文庫)-1 遅れてきた強国ドイツの病理を分析。哲学と心理学と詩と文学は同じ意義をもっている。

ニーチェを含む哲学はずっとまえに離れたのだが、ヨーロッパやドイツや西洋音楽などを知るにつれて、ニーチェが気になってきた。長大な著作を読む気にはなれないので、自作を自注自解した「この人を見よ」を読む。40年前の読書では難解。こんどはずっとわ…

フリードリヒ・ニーチェ「この人を見よ」(岩波文庫)-2 キリスト教道徳を踏み越えた超人たちによる「道徳的世界秩序」を構想しよう。

2025/07/16 フリードリヒ・ニーチェ「この人を見よ」(岩波文庫)-1 遅れてきた強国ドイツの病理を分析。哲学と心理学と詩と文学は同じ意義をもっている。 1888年の続き ではニーチェはどういう処方箋を書いたのか。 近代的人間はルサンチマンと誤った道徳で…

フリードリヒ・ニーチェ「偶像の薄明」(角川文庫) 生活と政治と宗教が一体化した宗教国家の近代とそれを用意した古代ギリシャとキリスト教を徹底批判。

40年ぶりにニーチェを再読して、大言壮語の割にたいしたことを言ってないな、時代の制約もあるが差別思想があって鵜呑みにするのは危険、という感想になった。たぶんニーチェの哲学の解説書を読んでも、「この人を見よ」の感想エントリーにまとめた以上の理…

フリードリヒ・ニーチェ「ワーグネルの場合」「ニーチェ對ワーグネル」(角川文庫)-1 20世紀以降のワーグナー論の基礎になった重要論文。

ニーチェは学生時代からワーグナーの音楽を好んでいて、ニーチェ24歳の1868年に最初に会う。1876年の第1回バイロイト音楽祭で初演された「ニーベルンゲンの指輪」に失望。その後はワーグナーの批判にまわる。1883年にワーグナー死去。44歳の1888年に「ワー…

フリードリヒ・ニーチェ「ワーグネルの場合」「ニーチェ對ワーグネル」(角川文庫)-2 「パルジファル」は「愚かな形式に對し、最高度の、最も悪ふざけたパロディーの亂暴狼藉」のサテュロス劇、なんだって。

2025/07/11 フリードリヒ・ニーチェ「ワーグネルの場合」「ニーチェ對ワーグネル」(角川文庫)-1 20世紀以降のワーグナー論の基礎になった重要論文。 1888年の続き 「ニーチェ對ワーグネル」の「貞潔の使徒ワーグネル」という章で、ワーグナーの「パルジフ…

清水多吉「ヴァーグナー家の人々」(中公新書)-2 精神の王国だったバイロイト音楽祭はナチスに簒奪されたあと、大衆化国際化を進める。ディレッタントは消え、スノッブが集まる。

フランクフルト学派の研究者によるヴァーグナー家の歴史。1980年の初出からそろそろ半世紀もたつとなると(俺が買って読んだのは同年11月の三刷り)、いろいろと書き換えなければならないだろう。何より本書はバイロイトのヴァーンフリート館と歌劇場から同…

石川栄作「ジークフリート伝説」(講談社学術文庫) 5世紀から20世紀までのさまざまなジークフリート伝説をそうまとめ。

俺もそうだったが、ワーグナーの音楽にはまることによって、もとになった伝説のあれこれを読み漁ることになる。すると、「トリスタンとイゾルデ」でも「パルジファル」でも無数のバリアントがでてきて、困惑することになる。すなわち、物語は似通っているが…

柴田南雄「グスタフ・マーラー」(岩波新書)-2 マーラーは普遍的な人間の物語として英雄の死と新しい人間の再生を交響曲で描く。

とうにマーラーの没年齢を超えた年齢になった。マーラーの音楽は老年で聞くにはきついものになったが、彼の音楽は気になる。そこで10年ぶりに再読。前回の感想はリンク。 odd-hatch.hatenablog.jp 作曲家で音楽学者である柴田は本書の副題に「現代音楽への…

金聖響「マーラーの交響曲」(講談社現代新書) 音楽への強い一体化を求めながら、パロディ・諧謔・冷笑で突き放す語るにめんどくさい〈現代音楽家〉。

玉木正之(1952年生)が指揮者・金聖響(1970年生)にインタビューして交響曲の魅力を語るという企画第3弾。真打はマーラー。指揮者は神奈川フィルの常任指揮者だったころに、マーラーの作品を積極的に取り上げていたという。 戦前のマーラー演奏を知ってい…

笠原潔「西洋音楽の諸問題」(放送大学教材)-2 マニアには面白いテーマが並ぶが、大学講義となるとトリビアにすぎるのじゃない?

2025/07/23 笠原潔「西洋音楽の諸問題」(放送大学教材)-1 ベートーヴェンの交響曲は性格交響曲。英雄のテーマを完結させるためにくどいほどに繰り返される。 の続き ベートーヴェンの交響曲のことで熱くなりすぎたので、エントリーを分割することにする。 …

聖書「創世記」(岩波文庫) あまり構えず、細部に拘泥しないでわかりやすいところから読んでみた。競合する神が多数あるので、〈主〉は妬み深く、生贄やお供えをたくさん要求する。

一日十五分の高速音読を初めて2か月。新約聖書の読みたいところを読んだので、旧約聖書に挑戦。大部すぎるので、読むのは「創世記」「出エジプト記」「ヨブ書」「ヨナ書」にとどめる。 創世記: 加藤隆「一神教の誕生」講談社現代新書によると、ユダヤ教の…

聖書「ヨブ記」(口語訳1954年版)) 不条理にあっている不幸な人に「おまえに理由がある」と詰め寄るのは最低最悪の対応法。

一日十五分の高速音読を初めて3か月。「ヨブ記」に挑戦。 ・サタンは神の子のひとり。サタンは主の前に行き話をすることができる。他人を試せとそそのかすと、主は信仰篤い人の庇護をやめ、試練を課す。俺はここに主の自身のなさをみてしまうなあ。それは信…