odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

2025-09-01から1ヶ月間の記事一覧

アイスキュロス「灌奠(かんてん)を運ぶ女たち(コエーポロイ)」(供養する女たちとも)(KINDLE) 三部作の第二作。父殺しに復讐するために実母を殺した姉弟はみずからの血の穢れに愕然とする。

オレステイア三部作の第二作。アガメムノン伝説に基づくもので、アガメムノンの子どもたちが父殺しをした母とその愛人を復讐するまでを描く。今回は内山敬二郎訳で読んでいるので、タイトルは「灌奠(かんてん)を運ぶ女たち(コエーポロイ)」。別タイトル…

アイスキュロス「仁慈なる女神たち(エウメニデス)」(慈しみの女神たちとも)(KINDLE) 一族に降りかかった神々の呪いを解くのは市民が陪審する法廷になる。人間は徳と知恵をもって公正と正義を実現しなければならない。

オレステイア三部作の第三作。アガメムノン伝説に基づくもので、復讐を遂げたオレステスのその後。今回は内山敬二郎訳で読んでいるので、タイトルは「仁慈なる女神たち(エウメニデス)」。別タイトルでは「慈しみの女神たち」。 復讐を遂げたオレステスは錯…

ソポクレス「アイアース」(KINDLE) 古代ギリシャ時代、神の掟は人倫の基礎。

ソポクレス(紀元前497/6年ごろ – 406/5年ごろの冬)が書いた劇は120を超えると推測されるが、長い年月の間に失われ、現存しているのは7編。そのうち有名なのは「オイディプス王」。日本では20世紀になってから翻訳が進んでいる。ちくま文庫の「ギリシャ悲劇…

ソポクレス「アンティゴネー」(岩波文庫) 神の掟と市民のルールに分裂し権力者としてふるまうクレオンはシェイクスピアの「暴君」の先駆者。

古代ギリシャの都市テーバイ。禍いが自らにあると知ったオイディプス王は目をつぶし町をでた(「オイディプス王」)。荒野を放浪して横死する(「コロノスのオイディプス」)。テーバイはオイディプスの息子エテオクレスが治めていたが、その兄エリュネイケ…

ソポクレス「トラーキスの女たち」(KINDLE) ヘラクレスの浮気は妻の不興を買い、当人が死亡する事故を引き起こした。家庭を大事にしようという教訓劇。

ヘラクレスはギリシャ神話の勇士。さまざまな土地に冒険しては、怪物や邪神、害獣などを退治してきた。その冒険は有名であり、のちの西洋文学に影響を残す。2020/07/28 アガサ・クリスティ「ヘラクレスの冒険」(ハヤカワ文庫)-1 1947年2020/07/27 アガサ・…

ソポクレス「オイディプス王」(岩波文庫)-2 短気で短慮なオイディプスは「汝自身を知れ」から遠いところにいて、機会主義者のクレオンは神聖政治に居場所がない近代人。

干支が一周してからの読み直し。この高名な戯曲のサマリーと前回の感想は以下。ソポクレス「オイディプス王」(岩波文庫) 今回はオイディプスの自己発見ではなく、彼のミスについて。冒頭で予言者はこの「事件」の真相を明らかにする。それをオイディプスは…

吉田敦彦「オイディプスの謎」(講談社学術文庫)-1 スピンクスの謎とその問いはオイディプス自身を指している。

複数回読んでいるにもかかわらずソポクレス「オイディプス」は歯ごたえがありすぎて、自分の感想も皮相に過ぎると思っていた。そこで、ギリシャ悲劇の泰斗による解説を読む。 まず前提になるのは、ソポクレスがこの悲劇をかいたBC427年の状況。ペロポネソス…

吉田敦彦「オイディプスの謎」(講談社学術文庫)-2 BC430年前後のアテネの政治情勢と重ねて読もう。「コロノス」は90歳のソポクレスがアテネ市民にあてた遺言。

2025/09/22 吉田敦彦「オイディプスの謎」(講談社学術文庫)-1 スピンクスの謎とその問いはオイディプス自身を指している。 1995年の続き スピンクス(ママ)の謎はそれ自体が単体で有名になっている。なので、オイディプスが正しく答えても、それはクイズ…

ソポクレス「エレクトラ」(KINDLE) 生贄と復讐を容認する社会は21世紀の現代からは不可解。

wikiも参照してサマリーをつくる。 トロイア戦争が始まる前、神々の命に応じて勇士アガメムノンは娘のイーピゲネイアを生け贄として殺した。このことを妻クリュタイメストラは深く恨んでいた。アガメムノンは情婦を連れて帰ってきたので、情夫アイギストスと…

ソポクレス「ピロクテテス」(KINDLE) 古代では国家目的と人倫の対立を解消できるのは善悪の根拠である神の宣託しかない。

「コロノスのオイディプス」と並んで上演年がわかっている最晩年作。上演は紀元前409年で、ソポクレスの死後だった。 「トラーキスの女たち」事件でヘラクレスは亡くなったが、その弓は盟友ピロクテテスに託されていた。おりしもオデュッセウスらととおもに…

ソポクレス「コロノスのオイディプス」(岩波文庫) 罪人のオイディプスは共同体の間を生きなければならない。共同体はそうした難民や亡命者を庇護しなければならない。

オイディプス一族を主人公にするテーバイ3部作。物語の流れでは第2作になるが、上演されたのはソポクレス死後の紀元前401年なので最晩年の作と考えられている。 前作「オイディプス王」で父殺しと近親相姦の罪があることを認めたオイディプスは自らの命…

田中美知太郎「ソフィスト 」(講談社学術文庫) 同時代ではソクラテスもソフィストと見なされていた。ソフィスト呼ばわりされた人たちは古代ギリシャの自然科学の立役者。

ソフィストは詭弁家、空虚な論理の使い手、金のための教育者、青年の腐敗者と批判されている。それは正しいのか。もとは「ソクラテスの弁明」や一連のプラトンの著書にその種のことが書かれている。他にも同時代の文書を調べることによって明らかにする。 そ…

クセノポン「ソクラテスの弁明・饗宴」(KINDLE版) ソクラテスの40~50歳年下が死刑判決を受けたソクラテスをエクストリーム擁護する。

解説によると、クセノポンはソクラテスの40~50歳年下。若いころにソクラテスと出会って問答したら、ソクラテスの話を聞くようになった。解説によると以下とのこと。 「クセノポンがソクラテスに引かれたのは、ソクラテスの言行の中に、あるいはその言行を生…

納富信留「哲学の誕生 ──ソクラテスとは何者か 」(ちくま学芸文庫) 死後に彼の強烈な個性を記録する「ソクラテス文学」がアテナイで生まれ、哲学を記述する形式に発展した。

昭和に高校で哲学を学んだ者にとっては、ソクラテスは職業教育者で詭弁を弄するソフィストとは違っていて、(訴追理由はよくわからないが)アテナイの民会で裁判を受け死刑になったのであり、彼が哲学を作ったのであり、その方法は対話術で、思想の核心は「…

橋場弦「古代ギリシアの民主政」(岩波新書) ギリシャの民主政は生きることとほぼ同じなので、しぶとい。マケドニアやローマの支配下にはいってからが民主政の真骨頂。

ギリシャ悲劇を読みだしてから古代ギリシャを知るべくいくつかを読んできたが、そこでの感想は古代ギリシャの民主制はたいしたことないな、欠点ばかりじゃねえか、というものだった。タイトルで引かれた本書も最初はすでに知っていることの繰り返しだったの…

澤田典子「アテネ 最期の輝き 」(講談社学術文庫) パックス・マケドニアで対外戦争ができなくなり内政に関心を向けられたからできた古代ギリシャの民主政最後の日々。

橋場弦「古代ギリシアの民主政」(岩波新書)では、ソクラテス裁判以降に民主政は最盛期を迎えたと指摘している。でも当該書では詳細が書かれなかったので、タイトルを見て読んだ。 たしかに前338年から前322年にかけて民主政が行われていた。俺が見るところ…

長谷川岳男「スパルタ 古代ギリシアの神話と実像」(文春新書) 自己を律する厳しい社会は伝聞と伝説が先行するイメージができているので実像はわかりにくい。

アテナイに住む市民は大量のテキストを残した。スパルタはテキストを書くことに価値を見出さなかったので、ほとんど資料は残っていない。そのために周辺のポリスやローマなどで書かれたもので推測するしかない。一方で、スパルタの体制は近世になってから理…

弓削達「地中海世界 ギリシア・ローマの歴史 」(講談社学術文庫)-1 ギリシャの民主制は奴隷制と外国人排斥と植民地収奪で衰退する。

ギリシャ悲劇の解説と数冊の哲学書(とその解説)では古代ギリシャの民主制の知識はつまみ食いにしかならないなあ、と思って、歴史書の解説書を読む。著者の本はすでに何冊か読んでいた。本書はおそらく講談社現代新書の世界史叢書の一冊。 タイトルのように…

弓削達「地中海世界 ギリシア・ローマの歴史 」(講談社学術文庫)-2 ポリス民主制で始まったローマの政治は領土と人口の急拡大で専制に移行する。民主制を支えた共同体の衰退が帝国を衰退させる。

2025/09/05 弓削達「地中海世界 ギリシア・ローマの歴史 」(講談社学術文庫)-1 ギリシャの民主制は奴隷制と外国人排斥と植民地収奪で衰退する。 1973年の続き 後半はローマ編。あいにく俺はローマ帝国にあまり関心を持たない。なので、このエントリーは簡…

岩崎允胤「ヘレニズムの思想家」(講談社学術文庫) 他者・公共空間・権力を考えない哲学は必然的に堕落する。

これまでに「ソポクレス全作品集」、吉田敦彦「オイディプスの謎」(講談社学術文庫)、田中美知太郎「ソフィスト 」(講談社学術文庫)を読んできた(それ以前にプラトン「ソクラテスの弁明」なども読了)。さらに古代ギリシャに当たりをつけるように、本書…

テオドール・シュトルム「みずうみ」(岩波文庫) 19世紀なかばのドイツのディレッタントが書いたロマン主義の短編集。

テオドール・シュトルムは1817年生まれ1888年没。クラシックマニアからすると、リスト(1811-1886)やワーグナー(1813-1883)の同世代人。別に仕事を持っていて余暇に文筆活動をした人で、この短編集に収められたのは彼が30代の作品だ。とても甘いロマンテ…

フランツ・カフカ「変身」(角川文庫) 「一匹の巨大な毒虫」に変身して「いないもの」にされるグレゴールくんに起きたことはマイノリティや無国籍者におこること。

1990年代初頭に角川文庫が長らく絶版・品切れになってたカフカをまとめて復刊した。全部買ったのだが、1950年代の翻訳はどうにも読みづらい。おかげで翻訳者はもちろん、カフカにも悪印象を持つようになってしまった。ずっと敬遠。 でも、中編「変身」ならば…