odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

レックス・スタウト「黄金の蜘蛛」(ハヤカワポケットミステリ)

 1953年作。第17作。

 珍しくウルフに依頼をしてきたのは12歳の少年。彼は交差点に止まった車の窓ガラスを勝手にふいてチップをもらうという(けなげな)仕事をしているが、車に乗っている女が「助けて、警察を呼んで」と口で訴えていたのだ。機嫌の悪かったウルフは子供を家に帰したのだが、翌日子供ピートはひき逃げにあってしまった。事故を起こした車のナンバーは、少年がひかえておいたキャディラックのナンバーと完全に一致していた。その夜、少年の母がやってきて4ドル30セントの貯金箱を持ってきて、ひき逃げ犯を見つけるように依頼する。手がかりは、キャデラックのナンバーと女が耳につけていた蜘蛛のイヤリングのみ。
 子供の持ってきたお金にアーチーが少し加えて、新聞広告をだしたら、キャデラックにのっていたという女性(富豪の未亡人で今は篤志家)が来た。上の事件の前には、同じキャデラックが恐喝団のボスをひき逃げしているという事件もあり、彼女は解決を依頼する。そして、その翌日には篤志家の未亡人も殺されてしまった。
 考え事にふけりながら(いや酒を飲みながら)だったので、この先の展開をよく覚えていないや。キャデラックのナンバーと篤志家の線からは、恐喝団の存在が表に出てくる。蜘蛛のイヤリングからもそちらの情報が集まる。さらに、篤志家の弁護士やら秘書や宣伝業者などがいれかわり立ち代り、ウルフの部屋を訪れてあいまいな証言をしたり、買収しようとしたり。
 そんなこんなでアーチーと臨時雇いの私立探偵たりは恐喝団の一味に付けねらわれて、フレッド(雇いの探偵の一人)は拉致されてしまう。それを追跡していたアーチーは、他の仲間と一緒に大立ち回りを演じる。ストーリーにはあまり影響しないけれど、ここが一番面白かった。こういうアクションシーンはウルフ物には珍しいのじゃないかなあ。こわもての男がアーチーその他を脅そうとしても、言葉で逆襲して相手をしょげ返らせるものだったけど。出版年をみると、ハドリー・チェイスミッキー・スピレーンなどのアクション・ハードボイルドが流行だったから、編集者に誘いにのってこんなアクションを書いたのかしら。
 結末はというと、例によってウルフの事務所に関係者を集める。クレーマー警部が不機嫌にうなっている前で、ウルフが「さて、みなさん」とやる。意外な犯人にこだわったせいか、説明の詳細とか動機がすっと頭に入ってこなかった。
 訳者はロス・マクドナルドを多く手がける高橋豊さん。そのせいか、アーチーは「私」で、ウルフは「俺」。ウルフが悪口をいうと、どうにも柄が悪い。というわけで、ウルフものとして読めなかったのが、印象を薄くしたのかな。1950年代にまとめてウルフ物が紹介されたようだが、多くの訳者に振り分けたおかげでこんな風に文体の統一感がなくなったのだろう。とはいえ、新訳をだしても手に取る人は少ないだろうから、これでがまんするしかないか。