odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ボブ・ショウ「見知らぬ者たちの船」(サンリオSF文庫)

 測量調査船サラフォード号は、辺境の惑星をめぐって地図を作る仕事。開発予定もない異境の地であっても地図は必要だというのでひどい条件で仕事をしている。そのため、短期間で金を稼ぐ目的の連中しか来ない。タイトル「見知らぬ者たち」というのはすぐにメンバーが入れ替わり、人間関係を築けないまま別れるしかない集まりの云い。デイブ・サージナは孤独な船からおりそびれてもう20年も乗船しているというベテラン。彼と同乗するのは11人。船長はコンピューターのイソップ。

 視点はデイブに寄り添うが、主題はいくつもの冒険。
エピソード1: ある惑星で調査の測量走行者を6台派遣したら、帰ってきたのは7台だった。デイブは灰色人のうわさを思い出す。それは、自分の身体を何にでも似せることができ、生命体を食って生きながらえるのだ。イソップとデイブはあぶりだすための策略をめぐらす。でも、あまりにスマートな書き方で、灰色人カンダールが何を失敗したのか自分にはわからない(涙)
エピソード2: 男所帯の長旅ではストレスがたまるので、乗員には夢中テープが支給される。それを枕の下に置くとよい夢を見られるのだ。新入りが夢中テープの話をしつこくしていたら、全員が同じ女の夢を見た。アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
エピソード3: ある惑星探査中、7000年前に放置されたと思しい金属体を発見する。新入りが調査したいというので、派遣したら、金属体は目覚めて攻撃してきた。免れるためには触手状の腕に2回銃弾を撃ち込まないといけないが、銃弾には限りがあり、触手は無数。イソップは無線で新入りに攻撃のタイミングを指示する。「賭け」がテーマ。
エピソード4: 軍人と惑星探査中、滅亡したはずのサラディン人を確保。移動中に彼らは時間の罠にかけられる。戻れるのは一人であるとき、少佐と軍曹が反目する。少佐を射殺した軍曹の理由は。贖罪がテーマで、時間の罠から抜け出すときのサラディン人の細やかな配慮に感銘を受ける。
エピソード5: 辺境を航行中、サラフォード号は位置を見失う。どうやら地球から3000万光年も離れ、爆縮する空間にとらわれてしまった。地球に帰還することはおろか、船ごと縮小する彼らの残り時間はあと2時間! 最後の時がすぐくるとわかったとき、人はどのように行動するのか。唯一の女性隊員(てひどいトラウマを抱えて、荒くれ男の職場に来た気丈夫)もデイブの部屋に行かざるを得ない。そして、爆縮した宇宙空間でのできごと。スケールの大きな大状況、そこにデイブに女性隊員クリスチーヌ、目立たなかったが危機にあってリーダーシップを発揮するジルスピらの人間くさい行動と友情。とても感動的。
 こうしてサマリーをみていると、もちろんヴァン=ヴォークト「宇宙船ビーグル号の冒険」を思い出す。設定からストーリーまで換骨奪胎したよいパスティーシュヴォークトアメリカ風巨大プロジェクトではなく、こちらの英国産はしょぼくれた調査船に縮んでしまうのがご愛嬌。その分、人の交流に筆を割くことができるのであって、英国流の心理小説を読む楽しみが生まれる。SF史にのこる大傑作、とはいえないけれど、妙に気になるこじんまりした秀作。いろいろなエピソードに、多くの人物を描きながらも230ページに収める手腕はみごと。まあ、英国のSF作家にある思弁的な語りも、文明批評というお説教もなく、面白い話を書くことに専念しているのが、成功のもと。
 1978年作なので、意匠は古くなってしまったけれどね。
 そのかわり、不足しているのが、破天荒さかな。主人公のデイブは落ち着いた大人の風格、なぜ下船してまっとうな職と家庭を持たないかを自問しているも、危機においては取り乱さない。安心して冒険アクションを読んでいけるが手に汗握れない。エピソード5の大風呂敷の広げ方はわくわくするのだが、しゅるしゅると縮まってしまった。もったいないなあ。エピソード4のような幻想風な作風がいちばん作家にあっていそう。その種の作品が少ないのが惜しい(「去りにし日々、今ひとたびの幻影」がそういうものらしいが未読)。