odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

名作オペラブックス「パルジファル」(音楽之友社)-2 ワーグナーは反ユダヤ主義者で女性蔑視者

2023/06/01 名作オペラブックス「パルジファル」(音楽之友社)-1 制作開始から初演までのドキュメント 1988年の続き 〈パルジファル〉の受容に関する主要文献(続き) ・・・ ベルリン工科大学音楽学教授カール・ダールハウスが1971年に書いた論文。先駆は…

ゲーテ「若きウェルテルの悩み」(新潮文庫)-1 仕事につかないでいい人が暇や退屈の中から〈この私〉という自我を発見する

初読は男子校の高校生だったので、ウェルテルの苦悩などわからないも同じだったなあ。と往時を懐かしむ。 1774年ゲーテ25歳の時の出世作。1784年に改稿(新潮文庫は改稿後の版を翻訳したとのこと)。 第1部 ・・・ 1771年5月。この世に飽きているウェルテル…

ゲーテ「若きウェルテルの悩み」(新潮文庫)-2 「嫉妬するわたしは四度苦しむ。(ロラン・バルト)」

2023/05/30 ゲーテ「若きウェルテルの悩み」(新潮文庫)-1 仕事につかないでいい人が暇や退屈の中から〈この私〉という自我を発見する 1774年の続き 第2部 ・・・ ウェルテルくんは実家に帰って、公爵の仕事をするようになる。失恋の痛みは強く、「つまらな…

トーマス・マン「短編集」(岩波文庫)-1「道化者」「小フリイデマン氏」「衣装戸棚」 20代前半の短編

トーマス・マン(1875年6月6日 - 1955年8月12日)の短編集。短編は若いころに書かれたものが多い。1915年以降の短編で読んだのは、「混乱と雅な悩み(1925)」「マリオと魔術師(1930)」「掟(1944)」くらい。どれも長編の準備のためのもの、あるいは長編…

トーマス・マン「短編集」(岩波文庫)-2「ルイスフェン」「トリスタン」「墓地へゆく道」「神の剣」 20代後半の短編

トーマス・マン(1875-1955)はフーゴ・フォン・ホーフマンスタール(1874年2月1日 - 1929年7月15日)と同時代人。マンが持っている保守性はホーフマンスタールによく似ているなあと読んでいたが、二人の生きた時代が重なっているところに理由がありそう。ふ…

トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第1部・第2部 ドイツ19世紀半ば、成り上がり企業の三代目が後を継ぐ

18世紀末、北ドイツの都市にある商会が生まれる。海外貿易と国内問屋業と運送業を兼ねたような企業だ。貨幣経済が浸透し、イギリスの産業革命と植民地支配が成功して大量の商品が生産されているときに、後発の資本主義社会はまずこのような流通と販売業が要…

トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第3部第4部 家が決める結婚が奔放な女性を苦しめる 

2023/05/25 トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第1部・第2部 ドイツ19世紀半ば、成り上がり企業の三代目が後を継ぐ 1901年の続き ここから話が動き出す。19世紀の半ば、ブッデンブローグ家の第三世代が資本主義とグローバル化の進行で社…

トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第5部第6部 三代目トーマスはシトワヤンに加わって「ひとかどの男」になりたい

2023/05/24 トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第3部第4部 家が決める結婚が奔放な女性を苦しめる 1901年の続き 第4部と第5部で第二世代のほとんどが亡くなってしまった。奇妙なのは、残された第三世代の若者がほとんど親に生前から関心…

トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第7部第8部第9部 普仏戦争勝利、でもブッデンブローク商会は経済成長に乗り遅れる

2023/05/23 トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第5部第6部 三代目トーマスはシトワヤンに加わって「ひとかどの男」になりたい 1901年の続き 物語の折り返し点。第三世代のブッデンブローク家の人々は30代になった。時代は1860年代。この…

トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第10部第11部 没落の予兆、そして誰もいなくなった

2023/05/22 トーマス・マン「ブッデンブローク家の人々」(筑摩書房)第7部第8部第9部 普仏戦争勝利、でもブッデンブローク商会は経済成長に乗り遅れる 1901年の続き 第三世代ブッデンブローク家の面々は40代。すでに人生に疲れ、仕事に飽き(ほとんどはほぼ…

トーマス・マン「トニオ・クレーゲル」(岩波文庫)-1 ドイツの教養主義者は実業が嫌いで、庶民のたくましい肉体がうとましい

詩人トニオ・クレーゲル の半生と詩作に対する疑惑。1903年発表の中編に、行が開けられているところに勝手に数字を振って、サマリーをつくる。 1.トニオ14歳。学校の優等生ハンス・ハンゼンといっしょに帰る。トニオはシラー「ドン・カルロス」の話をし、…

トーマス・マン「トニオ・クレーゲル」(岩波文庫)-2 教養市民社会に「遅れてきた青年」トニオは苦悩して郷愁にふける

2023/05/19 トーマス・マン「トニオ・クレーゲル」(岩波文庫)-1 ドイツの教養主義者は実業が嫌い、庶民のたくましい肉体がうとましい 1903年の続き トニオの不幸は、ゲーテやシラーやベートーヴェンの時代はとうに過ぎ、ワーグナー(1813-1883)やブラーム…

トーマス・マン「短編集」(岩波文庫)-3「飢えた人々」「神童」「悩みのひととき」「なぐり合い」 20代後半の短編

2023/05/26 トーマス・マン「短編集」(岩波文庫)-2 20代なかばの短編 1900年の続き トーマス・マンの主人公たちは芸術家であるより、故郷喪失者と言ったほうがよさそう。帰る家はなく、今いるところにもしっくりいっているわけではない。「別の世界から来…

トーマス・マン「ベニスに死す」(岩波文庫)-2 老人と少年がアッシェンバッハを天国のような地獄に誘う

前回から15年ぶりの再読。 odd-hatch.hatenablog.jp 1913年発表なので、トーマス・マン38歳の作。作家は若いが、主人公は初期老年だ。トーマス・マンが年齢よりも老けているのではなく、ドイツやヨーロッパが年老いて衰弱しているのだとみなす。実際、翌年に…

トーマス・マン「ベニスに死す」(岩波文庫)-3 アッシェンバッハは美に見放されドイツ精神は死に向かう

2023/05/16 トーマス・マン「ベニスに死す」(岩波文庫)-2 老人と少年がアッシェンバッハを天国のような地獄に誘う 1913年の続き 第4章 ・・・ 滞留を決めてから天気はよくなり、アッシェンバッハの気分も華やぐ。南国の水浴生活を楽しむ(20世紀になってか…

トーマス・マン「ゲーテとトルストイ」(岩波文庫)-1 二人の作品はスゴいが人間は欠点だらけ

ゲーテはスゴイ、でもゲーテその人だけで語ろうとするとスゴさはわからない。彼と同じような「神」にあたる文学者はいないだろうか。いた、トルストイだ。この一人では不足なので、ゲーテに対するシラー、トルストイに対するドストエフスキーと比較してみよ…

トーマス・マン「ゲーテとトルストイ」(岩波文庫)-2 ゲーテは貴族主義でアジア人差別をする保守主義者

ここではゲーテのナショナリズムに関する説明が興味深かった。ゲーテはアジア人蔑視の持ち主で、そこかしこで書いている(すでに18世紀後半にはレイシズムがあった、というのが発見。ハンナ・アーレントの「全体主義の起源」ではレイシズムは植民地経営にお…

トーマス・マン「魔の山」(筑摩書房)第1・2章 なんでもないただの人(ダス・マン)がヨーロッパの縮図社会に闖入する

ハンブルグに生まれたハンス・カストルプ(1880年代前半の生まれ)は、企業の就職を控えまた一年志願兵になるまえに、いとこがいるスイスのサナトリウムを訪問した。とくに体調不良には見えないが、貧血もちなのを心配しての配慮だった。ハンスとしては3週間…

トーマス・マン「魔の山」(筑摩書房)第3章 肺病は情熱不足と性欲抑圧を暗喩する病

2023/05/11 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第1・2章 なんでもないただの人(ダス・マン)がヨーロッパの縮図社会に闖入する 1924年の続き トーマス・マンの小説で最も人口に膾炙したもの。発表は1924年だが、執筆に12年をかけたという。 この療養所が…

トーマス・マン「魔の山」(筑摩書房)第4章 ただの人(ダス・マン)ハンスが入会儀式を完了する

2023/05/10 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第3章 肺病は情熱不足と性欲抑圧を暗喩する病 1924年の続き 20世紀初頭なので、結核のメカニズムは知られていた(結核菌は同定済)が、よい治療法はない。抗生物質はみつかっていないし、レントゲンも普及し…

トーマス・マン「魔の山」(筑摩書房)第5章-1 セテムブリーニは陰謀論者

2023/05/09 トーマス・マン「魔の山」(岩波文庫)第4章 ただの人ハンスが入会儀式を完了する 1924年の続き ハンスの行動性向が次第に明らかになる。彼は規則や制度に必ず敬意を払い、ルーティンな生活を送る。年上の男性のいうことはよく聞き、かわりに、女…