odd_hatchの読書ノート

エントリーは2800を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2022/10/06

反差別

李信恵「#鶴橋安寧」(影書房)

タイトルの「#鶴橋安寧」はツイッターのハッシュタグ。鶴橋駅前でヘイト街宣が繰り返されていたころ、アンチレイシズムの抗議者が鶴橋付近を警戒しているとき、現状報告に使ったのだった。のちには、鶴橋周辺のグルメ案内にも使われたりする。 鶴橋周辺はオ…

野間易通「実録・レイシストをしばき隊」(河出書房新社)-1

「しばき隊」のことは、笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)でも触れられていた。 笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-1 2016年 笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原…

野間易通「実録・レイシストをしばき隊」(河出書房新社)-2

2019/04/15 野間易通「実録・レイシストをしばき隊」(河出書房新社)-1 2018年の続き 後半では、広義のしばき隊が行うアンティレイシズムの論理と倫理が語られる。キーワードは「公正としての正義」「正義はだいたいでいい」「どっちもどっち論はだめ」。こ…

法学セミナー2018年2月号「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム III」(日本評論社)

雑誌「法学セミナー」のヘイトスピーチ特集は2年ぶり3回目。前回では国内には法や条例はなかったが、2016年にHS解消法が、いくつかの自治体で条例が制定された。また、ヘイトクライムの裁判判決が確定したり、地裁などで被害者勝訴の判決が出たりした。行政…

木下ちがや「ポピュリズムと「民意」の政治学 3・11以後の民主主義」(大月書店)-1

1990年以降の政治をポピュリズムという概念を使って分析する。 「ポピュリズムとは、人びとが抱く感情にはたらきかけ、政治的シンボル(言葉やイメージ等)への支持/同一化を広範に喚起する政治」という齊藤純一の定義がわかりやすい。通常は、「一般大衆の…

木下ちがや「ポピュリズムと「民意」の政治学 3・11以後の民主主義」(大月書店)-2

後半は「2011.3.11」以降のできごと。本書の性格から外国の話題は少ししか触れていないが、2000年以降の大規模占拠などの民主化のポピュリズム運動も知っておいた方がよい。 第7章 二〇一五年七月一六日――「安保法制」は何をもたらしたか ・・・ 2015年の安…

海野福寿「韓国併合」(岩波新書)

教科書では「日韓併合」と称される事象をここでは「韓国併合」とする。以下の事態進行中では「韓国併合」が普通の表記であったから。同時に、日韓が対等であると思わせるような表現にしたくないという意思も込められる。実際、下記のような歴史的事実をみる…

高崎宗司「植民地朝鮮の日本人」(岩波新書)

1876年の日朝修好条規締結から1948年の引き上げ完了までの、在朝日本人の軌跡をまとめる。統計資料や政治文書も使用するが、生身の人間のふるまいを描くために、多くの人の回想録を使用する。できごとや政策を知るには物足りなき術だが、日本人がどのように…

吉見義明「従軍慰安婦」(岩波新書)

1945-70年にかけてのこの国の文学や映画には従軍慰安婦が登場することがあった。野間宏「真空地帯」、大岡昇平「俘虜記」、野村芳太郎「拝啓天皇陛下様」、岡本喜八「独立愚連隊、西へ」「肉弾」「血と砂」などが思いつく。慰安婦の実態を知らないでいたので…

小林英夫「日本軍政下のアジア」(岩波新書)

1931-1945年の「アジア太平洋戦争」のおもに非戦闘地や期間における軍政の被害状況をまとめる。戦闘期における日本軍の残虐行為はよく知られているが、非戦闘期になると情報が少ない。軍人、民間人が現地人を暴力的差別的に扱ったというのが断片的に書かれる…

文京洙「韓国現代史」(岩波新書)

この本は高崎宗司「植民地朝鮮の日本」(岩波新書)の続きとして読む。 朝鮮戦争の結果、朝鮮半島は南北に分断され、それぞれが別の統治形態を持つことになった。この本ではおもに大韓民国の歴史の変遷をみる(北の朝鮮についていえば、1950年代に金日成が反…

田中宏「在日外国人(新版)」(岩波新書)

この国の戦後史を読むときに、ほぼ無視されるのが、オールドカマーと呼ばれる旧植民地出身者およびその係累に起きたこと、そしてニューカマーと呼ばれる戦後の在留外国人のこと。とりわけ前者には差別が日常であり、法も彼らを保護せず、なにしろ政府そのも…

高木健一「今なぜ戦後補償か」(講談社現代新書)

20世紀の15年戦争は、周辺諸国および交戦国に多大な被害を及ぼしたわけだが、この国にいると1952年のサンフランシスコ条約で全部清算されたと考える。しかし、1990年以降に韓国、中国、台湾の戦争被害者が日本や現地の日本法人を相手に補償を請求する裁判が…

安田浩一「ネットと愛国」(講談社)

在特会のデモや街宣の映像は異様で不気味。ときに暴力を辞さない(しかし暴力行為にでるのは多対小になっているときだけ。人数が少ない時には挑発するがそこまで)。なぜ在特会は人数を広げ、路上で目立つようになったか。差別や排外主義の街宣やデモに人は…

部落解放2013年11月号「「在特会」とヘイトスピーチ」(解放出版社)

人種差別扇動運動とその対抗活動の転換点だとおもう2013年上半期。この時期に起きたことと何が考えられていたかの参考になる特集記事。おもに路上で起きていることについて。法整備や裁判などは触れられていないので、別書を参照してください。 奴らを通すな…

法学セミナー2015年7月号「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム 」(日本評論社)

「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム 」の現状をしるために雑誌を購入。特集の中心は、2009年におきた在特会による京都朝鮮学校襲撃事件に対する最高裁判決。当然この国のヘイトスピーチ、ヘイトクライムはこれだけではなく、日々起きている。実際に起きている…

法学セミナー2016年5月号「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム II」(日本評論社)

2016年春の国会で、ヘイトスピーチ規制法の審議が始まったことを受けて、ヘイトスピーチ(以下HS)の法規制の在り方について検討する。 ヘイトスピーチ規制消極説の再検討(奈須祐治) ・・・ HS規制法消極説は、1)表現の自由の侵害(でもHSの表現の価値は…

師岡康子「ヘイト・スピーチとは何か」(岩波新書)

「ヘイト・スピーチ」が流行語になったのは2013年。「在日特権(そんなものはない)を許さない市民の会」が全国各地でデモや街宣を行い、いくつか刑事事件を起こしてから。ヘイトスピーチに対する抗議活動もできるようになり、法整備が必要という認識も生ま…

笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-1

2015年12月から半年かけて二人の間で交わされた交換エッセー。21世紀の社会運動に関与してきた人たちが、2011.3.11以後の変化を語り合う。もとは集英社のwebで公開されていたのを完結後に一冊にまとめた。一時期は全文がWebにあったが、現在公開されているの…

笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-2

2017/05/09 笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-1 2016年の続き。 2013年2月に呼びかけがあって同年9月に解散した「レイスストをしばき隊」。「しばき」という語感に惑わされてか(意図的な誤解か)、「しばき隊…

T・K生「韓国からの通信」(岩波新書)

内容と著者をめぐって問題があるらしい。2003年になって著者が明らかにされ、著述方法がわかった。著者自身は韓国に入国することがかなわないので、知人その他を通じて韓国の情報を伝えてもらう。それを編集して文章にまとめた。当時の韓国は新聞その他のメ…

T・K生「続・韓国からの通信」(岩波新書)

2013/07/29 T・K生「韓国からの通信」(岩波新書) 引き続き1974年7月から1975年6月までのレポート。田中角栄がロッキード疑獄で退陣し、三木に総理大臣が変わった。アメリカの大統領もニクソンが失脚し、ジョンソンに代わっていた。大きな出来事はベトナム…

T・K生「第3 韓国からの通信」(岩波新書)

2013/07/29 T・K生「韓国からの通信」(岩波新書) 2013/07/26 T・K生「続・韓国からの通信」(岩波新書) 引き続き、1975年5月から1977年8月にかけてのレポート。 主な主題は「3.1民主救国宣言」裁判。1976年3月に思想・良心の自由がないこと、韓国の経済が…

T・K生「軍政と受難」(岩波新書)

2013/07/29 T・K生「韓国からの通信」(岩波新書) 2013/07/26 T・K生「続・韓国からの通信」(岩波新書) 2013/07/25 T・K生「第3 韓国からの通信」(岩波新書) 引き続き、1977年11月から1980年7月にかけてのレポート。 おさらいすると朴正煕(パク・チョ…

四方田犬彦「われらが<他者>なる韓国」(平凡社ライブラリ)

大江健三郎が「世界の40年」で、「韓国からの通信」の感想としてあれほど感情的でなくても、ということを述べていた。そこで、この本を読んでみる。著者は25歳のときに、建国大学の日本語講師としてソウルにいき、半年をそこで過ごした。途中、大統領の暗殺…

本多勝一「アメリカ合州国」(朝日新聞社)

1969年に著者が「アメリカ」という国を取材した時の模様。 1.ベトナム戦争から帰郷したブライ軍曹 ・・・ 1969年はベトナムに派遣された米軍兵士数が最大になった年。この時最初に兵士が撤退された。その黒人軍曹を取材する。白人カメラマンなどと同行した…

ネリン・ガン/グリフィン他「ダラスの赤いバラ・わたしのように黒く」(筑摩書房)

この国には8月15日や2月26日のように、その日付がある出来事というか感情というか国家と個人の両方の入り混じった記憶や感傷を喚起させる日付がある。アメリカにとっては7月4日と11月22日(あと9月11日)がそれになるだろう。前者は独立記念日、後者はケネデ…