odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

日本史

中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-1 1927年から1931年にかけての時代。テーマは大不況・軍縮・金解禁。右翼や右派宗教の大衆運動が世論形成に大きく働いた

1927年から1931年にかけての時代。テーマは大不況・軍縮・金解禁。不況に対して国債発行で乗り切ろうとしたが、赤字財政が増大することを恐れ公債発行を漸減しようとする。これが軍事費削減になる軍部が反発する。 昭和の開幕~はじめに~ ・・・ 大正天皇の…

中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-2 日本の金解禁とアメリカのニューディールを比較。満州事変からの戦争状態が日本をファシズムを伸長する。

2023/01/19 中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-1 1988年の続き 1920年からの日本の不況をいかにして克服するか。他国の不況対策と比較すると日本の対策の特長はどういうものか。その問いに答えるために、金解禁とアメリカのニューディール…

大江志乃夫「天皇の軍隊 昭和の歴史3」(小学館文庫) 軍隊の中から昭和史を見る。日本の将校団は「世界中で最も専門職業的精神に欠けた主要な軍人集団」。

著者は陸軍士官学校第60期生。最後の士官候補生で敗戦時の肩書もそうだった。なので、知り合いのなかには8/14のクーデターに参加したものがいる。そのような経歴があるためか、本書の記述は軍隊の中から昭和史を見たものになっている。軍事史研究としては重…

江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-1 1931年の柳条湖事件から1936年の226事件までの5年間。国民は軍縮を否定し、海外の市場を失って困窮する。

1931年の柳条湖事件から1936年の226事件までの5年間を扱う。1920年代の不況が慢性化し、さまざまな政策が打ち出されるが、はかばかしくない。後付けでいえば、多額の軍事費と植民地経営が負担になっていた。しかし軍を縮小する政府の運動は、軍ととりわけ国…

江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-2 農村問題と不況に手をつけず「自己責任」のように放置している議会と政党に国民は愛想をつかし、軍の横暴に目をつぶり支持する。

2023/01/13 江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-1 1988年の続き 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-3を意識して読む。軍は政治的に先走っていく。戦略的な動きをするが、軍の思惑とは別に世界の列強は日…

藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-2 次の首相を決めるシステムが働かなくなり、天皇は自分の意志を政治に反映するようになる。

2022/12/23 藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-1 1988年の続き 1939年になると、次の首相を決めるシステムが働かなくなる。昭和天皇は元老や宮内庁などが根回しして決めたことを後追いすればよかったが、この時期になると自分で判断すること…

粟屋憲太郎「昭和の政党 昭和の歴史6」(小学館文庫)-1 昭和(1927年)になってから以降の政党の動き。普通選挙法施行によって票が読めなくなり、政党は大衆相手の政治活動に変わる。

本書では昭和(1927年)になってから以降の政党の動きを見る。それ以前の政治状況は以下のエントリーを参考に。金原左門「昭和への胎動 昭和の歴史1」(小学館文庫)-1金原左門「昭和への胎動 昭和の歴史1」(小学館文庫)-2 政党はそれまでなかったわけで…

粟屋憲太郎「昭和の政党 昭和の歴史6」(小学館文庫)-2 国民は戦争に熱狂し、戦争に期待し、ファシズムの国民運動に参加した。戦後政治の形はこの国民運動で形成された。

2022/12/20 粟屋憲太郎「昭和の政党 昭和の歴史6」(小学館文庫)-1 1988年の続き 1920年代後半の経済トピックは金解禁。本書では記述は少ない。そこは経済史の本で補完しておきたい。2015/03/23 中村隆英「昭和恐慌と経済政策」(講談社学術文庫)2015/03/2…

木坂順一郎「太平洋戦争 昭和の歴史7」(小学館文庫) 1941~1945年。軍や民間人が占領地や植民地で残虐行為や強奪を繰り返す。

この時代(1941~1945年)はおもに戦史を読んでいて、陸海軍の各地の戦闘はそれなりに知っていた(日本の側から戦史分析をすると見方が偏る/見えないものがあるので、相手国からの戦史も参照するべき。マッカーサーのみならず毛沢東や朱徳の立場から見ること…

鴻上尚志「不死身の特攻兵」(講談社現代新書) 9回以上出撃して生還した特攻兵からみる軍隊のでたらめと兵士への暴力。

日本海軍の特攻兵のなかに、1944年10月から翌年3月までに9回以上出撃して生還した下士官がいた。生還したのは、体当たりのかわりに爆弾を投下(固定された爆弾を取り外せるように修理)したり、天候不充分で敵艦を見つけられなかったり、整備不良で帰投した…

一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-1 命令には忠実だが将校(指揮者)がいなくなると死を恐れ、仲間内の私情(メンツや恥)で結合し、親分子分的関係にあるので他の集団には冷淡。

今まで日本軍、とくに15年戦争時代の日本軍、には紋切り型の説明がなされてきた。曰く精神主義、曰く非合理、曰く戦略・戦術なしなど。20世紀の軍批判はその線にそって行われてきたが、それは正しいのか、という問い。21世紀には、日本軍が残した資料をつか…

一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-2 戦闘で被害を受けたはずの日本人が占領軍に従順だったのは時刻の政府と軍隊を信用しなかったため。

2022/12/12 一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-1 2014年の続き 太平洋戦線での日本軍は、奇襲と集団突撃か陣地とたこつぼによる防御かの同じ戦法を繰り返した。米軍との戦いで創意したのではなく、中国戦線での成功体験を繰り返していたとみた…

佐藤卓己「八月十五日の神話」(ちくま新書) 終戦の“世界標準”からすれば8/14か9/2が妥当。世界の視線・国外からの視線・被害者からの視線で戦争を考えることが少なくなるように8/15にした。

8月15日正午はとても暑く、校庭や工場などに集まってラジオから流れる「玉音放送」を聞き、その後嗚咽する者がいたりしたが、多くのものは虚脱した(ちかくに朝鮮人部落があるものはそこから流れる祭りの音に驚いたりもする)。以来、8月15日は慰霊の日とし…

與那覇潤「中国化する日本」(文芸春秋社)-1 経済や社会は自由主義、政治は一極支配、身分制や世襲制は撤廃するのが「中国化」。日本の近世は反「中国化」政策。

最初に近世にはいったのはヨーロッパではなくて(まずそこで驚きになる)、イスラムであるが続いて宋時代の中国が近世を迎えた。ここで「な、なんだって」と絶叫したくなるが、それにとどまらない。いち早く近世にはいった中国は「中国化」していき、近隣地…

與那覇潤「中国化する日本」(文芸春秋社)-2 反中国化された「江戸時代化」の日本システムは今にも残っている。

2021/04/13 與那覇潤「中国化する日本」(文芸春秋社)-1 2010年の続き 「江戸時代化」という概念でみえてくるのはたくさんあるので、概要を紹介。基本的には「中国化」の真逆なありかた。したがって、1.権威と権力の分離: 天皇の権威と権力保有者が別。…

北島正元「日本の歴史18 幕藩制の苦悶」(中公文庫)-1 18-19世紀。生産能力が上がらず過剰人口を吸収できずゆっくりしたインフレが進むまれにみる停滞の時代。

1780年から1840年ころまで。時代小説、時代劇などはだいたいこの時代を扱う。これらのフィクションを通じて日本のいにしえのイメージが形成されている。町民の仲睦まじい清貧な暮らしに、庶民思いの大名や老中、利権をむさぼる悪代官に悪商人というもの。そ…

北島正元「日本の歴史18 幕藩制の苦悶」(中公文庫)-2 ヨーロッパのグローバル資本主義は極東の弱小国にも到達し、列島は世界システムに巻き込まれる。

2021/04/06 小西四郎「日本の歴史19 開国と攘夷」(中公文庫) の続き この時代に起きた政治的な事件として、蛮社の獄1839年と大塩平八郎の乱1837年が有名。いずれも現政府によって徹底的に弾圧され、首謀者は自死を選ばされる。このような大衆嫌悪・民衆嫌…

井上清「日本の歴史20 明治維新」(中公文庫)-1 宮廷クーデターが暴力変革に転化し、天皇制官僚による独裁政府になった。

本書では、大政奉還から西南の役までの10年間を扱う。通常、映画やドラマで「明治維新」を扱うときは大政奉還までで、「封建制力による人民の圧政を主に西国の士族が打倒(ここで「革命」は使わない)した」で終わりにする。しかし、歴史はとどまらないので…

井上清「日本の歴史20 明治維新」(中公文庫)-2 日本の排外主義と民族差別はこの時代の「尊王攘夷」がもと。

2021/04/05 井上清「日本の歴史20 明治維新」(中公文庫)-1 の続き 明治のゼロ年代で注目しなけらばならないのは、征韓論。明治政府は開国を実行したが、それは幕府時代からの諸外国の圧力、影響にあったため。英仏は日本を領土化しようとはしなかったが(俺…

笠原英彦「明治天皇」(中公新書) 大日本帝国の内閣、天皇、宮中の天皇補佐官による意思決定システムは明治天皇の死で制御不能の無責任体制になった。

飛鳥井雅道「明治大帝」(ちくま学芸文庫)を読んだのが20年近く前。明治天皇の事績を忘れてしまったので、今度は別書を読む。 明治天皇は1852年生まれ1912年没。享年60歳。外国との接触を極度に恐れる孝明天皇の子として生まれる。1840-42…

色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-1 明治政府の目論見は、開明的な絶対主義君主制にすること。上からの資本主義化を進め、軍隊を強化すること。

徳川幕府をクーデターで打倒した下級武士連中。「明治維新」と御大層な名代をあげたが、さっそく二派に分裂して、永久革命志向の西郷派を弾圧、殲滅する。それと同時に、「維新」の元勲として大政治家であった大久保、桂が死去して、リーダーを失ったのであ…

色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-2 ヨーロッパの帝国主義競争が激しくなったので西洋列強は日本に介入する余裕がなかった。その間に現在にまで通じる日本の「精神」が形成された。

2021/03/30 色川大吉「日本の歴史21 近代国家の出発」(中公文庫)-1 の続き この時代に西洋諸国が日本に介入することが少なかったのは、ヨーロッパでの帝国主義競争が激しくなったため。英ロ、普仏の間に戦争があり、植民地での紛争も頻繁に起きていた。そ…

井上幸治「秩父事件」(中公新書) 1884年、借金帳消し、減税等を求める貧困農民らの組織的な武装蜂起事件。

日本史を勉強していて困惑するのは、市民蜂起がほとんど現れないこと。なるほど日露戦争の停戦協定後の暴動や米騒動、1970年の国際反戦デーなどが散見されるが、これらは一時的な騒乱で組織もリーダーもない。警察や軍隊が出動するとすぐに収まった。そうす…

隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-1 大日本帝国憲法発布(1889年)から明治天皇の死(1912年)まで。朝鮮半島と満州への侵略が始まる。

大日本帝国憲法発布(1889年)から明治天皇の死(1912年)まで。だいたい司馬遼太郎「坂の上の雲」と一致する時代を描いているが、司馬の小説は記述漏れが多く、小説の通りに近代国家が強化されたとみてはならない。多くの保守論陣はこの時代を懐かしむので…

隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-2 藩閥は工業化を目指し、国民の大多数である農民から税金を取り上げて、工業とインフラ整備に投資する。

2021/03/25 隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」(中公文庫)-1 の続き 明治維新のあと、絶対君主国家を作りたいと思う士族グループ(藩閥)は、工業化を目指すが、そのための資金がない。そこで国民の大多数である農民から税金を取り上げて、工業…

今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-1 1913年から1925年にかけて。日本が「ネトウヨ化」していく過程。

1913年から1925年にかけて。大正時代を扱う。タイトルは「大正デモクラシー」であるが、そこにフォーカスしてこの時代を見るのは危険。21世紀の10年代の言葉でいえば、日本が「ネトウヨ化」していく過程となる。すなわち、政・官・財がそろってネトウヨ化し…

今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-2 軍や官僚が政・官・財の暗黙の了解を取り付けて、植民地や軍隊駐屯地でさまざまな策謀をめぐらした。

2021/03/16 今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-1 の続き 大正時代には、軍や官僚が植民地や軍隊駐屯地でさまざまな策謀をめぐらした。その名をみると、東京軍事裁判で起訴された軍人や政治家(吉田茂もいた)の名前が頻出する。彼らは…

吉村昭「関東大震災」(文春文庫) 近代日本では未曽有のジェノサイドである朝鮮人等の大虐殺。

関東大震災の被害は、小沢健志「写真で見る関東大震災」(ちくま学芸文庫)で。odd-hatch.hatenablog.jp と言いながら、テキストでないと伝わらない情報もある。本書の指摘を抜き書きで。 ・震災による家屋の倒壊や火災(出火の原因は薬品由来という。学校、…

小沢健志「写真で見る関東大震災」(ちくま学芸文庫) 震災直後に撮影された写真で被災地別の状況を把握。国の支援はいつも不足していて、支援策の失敗が重大な問題に波及した。

初出2003年は関東大震災から80年目(阪神大震災から8年目)。その節目の年に編集された。震災記念館(だったか?)の設立準備中に、震災直後に撮影されたネガフィルムと焼き付けが大量に見つかった。それまでは引用で見ていた写真のオリジナルが発見されたの…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 1926年から1936年までの昭和ゼロ年代。象徴的な事件もカリスマ的な人物もいないうちにファシズム体制が完成。

1926年から1936年までの昭和ゼロ年代。大正デモクラシーは「内には民本主義、外には帝国主義」であったが、この10年間で内はファシズムになった。 驚くべきことは、ファシズム体制が完成するまでに、象徴的な事件もカリスマ的な人物もでてこないこと。メルク…