odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-1

  松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫)の記述がほぼロシアに限定されていたので、こちらので20世紀初頭(1914-1929年)までの状況を確認する。
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 重要なできごとは第一次大戦(WW1)。三国協商三国同盟の対決とされるが、むしろ19世紀の帝国主義国が早くに民主化したところ(英仏ア)と帝政が残っているところ(独墺)の対決とみたほうがよい。さらに遅れた帝政国家であるロシアとトルコの対立が加わった。主題は植民地の争奪と、ナショナリズムの勃興に対する抑圧。国内においては資本家・官僚と労働者の対立。百年以上の対立の構図がサラエボの一発の銃声で、西洋中を巻き込む戦争になった。そこであらわになったのは、帝政国家は総力戦となった国民戦争を戦えないということ。前線と銃後の区分をなくした総力戦で、帝政国家である独・墺・露・土はいずれも国民の叛乱によって戦争が継続できなくなり、いずれの帝政も退位・廃絶を余儀なくされた。
 労働組合などに主導された反権力の運動は、あいにくながら数年で沈静化。保守によって取って替えられる。ドイツでは、東欧諸国をソ連の脅威から守るためにという名目で占領を認められたこと。ソ連では戦時体制でウクライナ他の搾取が継続し、赤軍・労働者がそれを支持したこと(およびレーニン死後の官僚独裁体制ができたこと)。英米でも労働運動は弾圧され、社会党共産党は分断・分裂を繰り返す。背景にあるのは、政治処理後の好景気。アメリカの支援を受けた西欧諸国が経済復興を果たし、好景気からの高賃金になって、反権力の運動が落ち込んでいった。西欧諸国では、大企業優遇と保護主義の政策がとられる。国内需要が増加しているので、輸入による国内産業保護になったわけだ。それといっしょに、移民制限がとられる。すなわち戦地に赴いた兵士が帰還することで国内の労働力は充分であったのに、賃金をダンピングする移民廃絶の動きが起きる。とくにアメリカにおいて。日本人を含む東アジアからの移民がターゲットにされる。西洋諸国では反ユダヤ主義。産業・官僚・政治家が総じて保守化し、そこに排外主義や自国保護政策が加わる。それを背景にしてイタリアでいち早くファッショ政党が政権を取る(社会主義が転向してファシストになった)。
 結果、この時代はヘイトスピーチが蔓延する素地を作った時代。大企業優遇、保護経済、移民制限などの政策がナショナリズムや反共(ソ連では反革命)のプロパガンダと呼応して、民族差別や人種差別を誘発し、民衆・大衆に定着させる。アメリカではKKKが人気になり、最盛期では400万人のメンバーになり、例のいでたちでホワイトハウス前でデモをするまでにいたる。イタリアのファッショ党は徒党を組んで街中を歩き、商店に嫌がらせをし、社会主義の書物などを人前で焼き払った。
(WW1の発端となったサラエボでのオーストリア皇太子暗殺も、背景にあるのはオーストリア=ハンガリー二重帝国に支配されたボスニア独立運動フランス革命以来、ナショナリズムが勃興したときに、帝国を作るハプスブルク家などの支配者はコスモポリタニズムであって、格好のターゲットになる。帝国はなくなっても、国民国家帝国主義ナショナリズムを基盤にしていたので、排外主義やヘイトスピーチを排除できない。自国優遇の保護政策をとると、ナショナリズムレイシズムをまとう。ソ連社会主義国でも同じことが起きた。)

2021/03/08 江口朴郎「世界の歴史14 第一次大戦後の世界」(中公文庫)-2 に続く