odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-1

 原著は1966年(ということは1913年生まれの林健太郎が53歳の時の著作)。1976年に講談社学術文庫に収録。もとは文芸春秋の「大世界史」第22巻。この後に1930年代を書いた本があるので、記述は1933年まで。多くの戦間期の本は1933年のナチス政権以後にフォーカスしているので、それ以前の繁栄と安定の時代を知るには本書は有効。
 原著が書かれたのは、対象になった時代の40-30年後。2020年に即すると、1980年代を記述するようなもので、林にとっては自分が若いころを振り返るような面持ちになれる(個人的な回想は本書にはない)。対象となる時代の雰囲気、息吹がわかるのは記述の奥行を増すことになる。

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ウィルソンとクレマンソー ・・・ WW1の終戦処理。アメリカ・ウィルソンの諸国家の連合組織による相互保障とフランス・クレマンソーの経済的保障で考えが衝突。ボリシェヴィキ招聘の失敗。

ヴェルサイユ条約 ・・・ 1918/6/28条約調印。ドイツへの高額な賠償金(ドイツからすると「命令された平和」)、民族自立、国際連盟設立などが内容。専制主義vs民主主義の戦いであるとされ、条約内容がそれを根拠づけることになった。東欧北欧民族が独立(したが、他民族地域なので紛争の原因になる)。それ以外の土地、トルコ、パレスチナ、東アジアなど、は民族自立は実行されなかった。

指導者レーニン ・・・ 1917-18年のロシア革命。ロシアの工業は大都市に集中。工業労働者の半数が従業員550人以上の工場で働いていたので、組合やソヴェトの組織化が容易だった。それが革命に有利に働いた。(共産主義に反対する保守歴史家の書いたこの30ページは、ボリシェヴィキのシンパが書いたものより簡潔で的確なまとめになっている。対象への距離の取り方と批判的な視点が功を奏した。)
クリストファー・ヒル「レーニンとロシア革命」(岩波新書)
松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫)
エドワード・H・カー「ロシア革命」(岩波現代選書)
レーニン「国家と革命」(国民文庫)

東欧諸国の民族主義 ・・・ 独立したポーランドユーゴスラヴィアルーマニアは独裁体制。チェコスロヴァキアのみ民主制。ハンガリーでは共産革命が起きたが、失敗して軍事政権に移行した(ポール・ホフマン「放浪の天才数学者エルデシュ」(草思社文庫)-2)。このときの民主主義の経験の有無が1989年の東欧革命で、転換か転覆かの違いになったわけか。

ドイツ共産革命の失敗 ・・・ 敗戦直前のドイツのごたごた。皇帝の廃位、議会の混乱、スパルタカス蜂起など。議会派の社会民主党を首班とする連日政権になり、ワイマル共和国樹立。(この時代、ドイツ皇帝とは別にバイエルン皇帝がいるとは知りませんでした。複数のキングを統べるキングがいるという君主制だったんだ。また廃位した皇帝はベルギーやドイツ国内に隠居していた。ここから「名指せない名前」@チェスタトン「ポンド氏の逆説」が生まれるわけで、短編は1930年代のリアルだったのね。

混乱から安定へ ・・・ 1920年のスパー会議でドイツの賠償金が増額。ハイパーインフレーション発生。アメリカの援助で持ち直し、投資が増えたことでドイツ経済が発展し、国際関係は安定になる。国際連盟も機能しだす。しかしアメリカが不参加だったため、ヨーロッパの政治的不安定を仲裁できなかった。1927年に不戦条約が参加65か国で締結。(日本も加わっていた。著者の林はWW2での日本はこの不戦条約違反の罪があったと指摘する。)

ワイマル共和国と第三共和国 ・・・ ドイツでは民主的・福祉国家思想のワイマル憲法はできたが、政権は不安定。左派は離合集散し、民族右派が台頭。フランスでは左派の連合政権と右派の政権交代がある。フランス植民地の経営が大変。

 

 

 WW1はオランダ・ベルギー・フランスの西部戦線と、ポーランド周辺の東部戦線と、ギリシャセルビアのバルカン戦線の3つが主要な戦場。そのためドイツとオーストリアの領土内ではほとんど戦闘が行われなかった。戦後復興がうまくいった理由であり、戦場になったフランスやポーランド、トルコの復興は遅れることになった。戦勝国のフランスが政治的に不安定であり、インフレに悩むというのはここに原因があった。
 ドイツ、オーストリア、ロシアの専制国家がWW1によって、立憲議会制に移行する。その結果、支配下にあった東欧諸国、バルカン半島諸国などが建国する。ナショナリズムの誕生と他民族の調整という新たな問題が発生する。フランス革命に100年遅れたこれらの国の民主化は20世紀を通じて紆余曲折を遂げる。

 

 

2021/03/04 林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-2 1976年に続く