odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-2

2021/03/05 林健太郎「両大戦間の世界」(講談社学術文庫)-1 1976年の続き

 

 WW1の総力戦は、動員された労働者、下層階級の力を大きくする。専制国家が打倒されたこともあり、貴族政は後退(貴族が資産を失ったのも大きい)。戦後はインフレと帰還兵士の失業が起こり、社会不安になる。その際に、自由主義は結集軸にならず(ブルジョアが支持するので)、社会主義ナショナリズムが結集軸になる。そこで社会党共産党労働組合と、右翼団体が伸長し、互いに攻撃しあう。ヨーロッパに特有な状況は、宗教問題があり、社会主義共産主義無神論右翼団体カソリックとみなされ、宗教感情から支持が生まれることもある。

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斜陽の大英帝国 ・・・ 総力戦を経験したイギリスでは労働者の政治参加が強まり、組合活動が活発化(ただし反ボリシェヴィキ)。初の労働党内閣誕生。植民地が自治領となり、この間にあいついで独立。アイルランドとインドは紛争を残し、以後半世紀以上の確執となる。
チェスタトンのブラウン神父ものに労働者の犯罪が出てくるようになったのは、こういう背景があったから。)

ムッソリーニの登場 ・・・ もとは社会主義者ムッソリーニは戦時中に参戦に転じ、右翼団体を作る。戦後の混乱で弱小政党として議員になる。労働者のゼネスト(イタリアはアナルコ・サンディカリズムが優勢)と対決姿勢を出したことで、支持を得る。この際に、黒シャツ党という下部組織を作って組合員や社会主義者に暴行を加える。警察や国王は放置したので、批判勢力がいなくなった。政権奪取後、独裁制を敷く。

ウィルソンとローズヴェルトのあいだ ・・・ 20世紀初頭以来の革新主義(プログレッシブ)がWW1のあと、保守自由主義に変わる。レイシズム、社会的ダーウィニズム、移民制限など。生産性向上による農産物価格の暴落。それによるカルト宗教、排外主義(KKK)への傾斜(映画「タバコ・ロード」参照)。都市の繁栄と重工業の大発展。アメリカ的生活。

NHKBS「カラーでみるアメリカ」から、1920年代にホワイトハウスの前で行われたKKKのデモと白人至上主義者

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スターリン体制の確立 ・・・ 革命後のロシアの政局。レーニンの指導と死。トロイカ体制からスターリン独裁へ。ウクライナ飢饉も粛清も書いてあるのはこの時期の書にしては珍しい。(共産主義に理解を示す立場ではなく、批判的であるからこそ的確なまとめと表現ができた例。)

経済恐慌の襲来 ・・・ 1929年アメリカ発の恐慌がヨーロッパに及ぶ。深刻な被害を受けたのはドイツとイギリス。WW1で貴族が没落。世界恐慌中産階級がいなくなる。その結果、市場と資本主義の信用がなくなり、ボリシェヴィズムかファシズムかの選択になる。いずれも国家の優越、激烈な街頭闘争、独裁制などの共通点をもつ。1920年代の好況期は凡庸な政治家がトップにいて、それで問題がなかった。不況と不安の時代から個性的で広範な人気をもつ「大政治家」が現れる。理念よりも人気が優先される政治になる。

岐路一九三二年 ・・・ ドイツでヒトラー政権ができるまで。右派の政治家が抗争するに際して極右のヒトラーを利用しようとしたが、ヒトラーに大衆人気がでて選挙で負けてしまい、政権を譲ることになった。ナチス台頭を許した責任は右派政治家にある。社会党共産党のせいとする議論もあるが、林は取らない。
2021/02/25 エーリヒ・マティアス「なぜヒトラーを阻止できなかったか」(岩波現代選書) 1960年

さまよえるヨーロッパ人 ・・・ シュペングラー「西洋の没落」1919以後のヨーロッパ精神史。表現主義、ダダ、シュールリアリズム、ロシアのフォルマリストなど。
ジョージ・スタイナー「ハイデガー」(岩波現代文庫)-1

すぎさったもの、すぎさらぬもの ・・・ 文学者たち。ヴァレリートーマス・マンロマン・ロランツヴァイク、アンリ・バルビュス、アンドレ・ジイド、ヤスパースオルテガ。非政治的ニヒリズム、民主主義擁護、共産主義支援、絶望、サバイバルなど。

 

 通常、20世紀の戦間期(1920-1940年)では、ファシズム政権誕生後、全体主義国家成立後の悪行にフォーカスが当たる。いかに人権を蹂躙したか、周辺諸国を侵略したかなど。そのかわり、なぜファシズム政権、全体主義国家ができたかはあまり強調されない(ソ連レーニンの死後スターリンが独裁体制を敷くまでは詳しい)。2020年の日本では、全体主義が定着する過程が眼前に展開されているので、本書の1920年代を詳しく見るという視点は面白かった。どうしてもドイツとロシアに目が向いてしまうが、イタリアの状況、あるいはイギリスとフランスの政治過程にも注目するべきと思った(同時代の小説の記述で漠然と想像していたことが、本書で裏付けられた)。
 歴史家の筆はそれぞれの国と政治をうまくまとめている。整理の仕方は見事。そのかわり、民衆運動や経済動静がほぼ省略された。そのために、時代を生きたものとしてみている感じがしない。通史の一冊なので仕方ないか。これを手掛かりに1920年代をみることにしよう(これまでは芸術や文芸の興味ばかりだった)。