odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

河邑厚徳「エンデの警鐘」(NHK出版) 経済のグローバリゼーションと国家の権限の拡大に対する批判。通貨と銀行の刷新による国家止揚の可能性。

 著書のことばとは少し違った言葉で主題をまとめると、ここの主要な問題は経済のグローバリゼーションと国家の権限の拡大に対する批判。すなわち、グローバル化した経済の問題は、(1)利子を目当てに投資するものたちと多額な報酬を期待する経営者によって、短期的な利益を目的にした経済活動であること、(2)利益は地元に還元されず、金がどこか遠いところに運ばれてしまい、そこで使われる。主要産業のない地域では循環する金が枯渇し、経済活動が衰退する、(3)銀行も短期的に利益を出せる投資で、かつ大規模なものばかりを相手にするので、農林水産業のような利益率が低いが生物としての種に役立つ事業に投資されない、地場の小規模事業に投資されない、自然エネルギー開発のような既存産業と競合するような開発やサービスに投資されない、ので地域経済の衰退や「持続可能な社会」実現の遅れが生じる、など。
 これを克服する方法として、いくつかの取り組みが紹介される。
1.地域通貨 ・・・ 前作「エンデの遺言」から引き続き、ゲゼルの思想と現在の実践が紹介される。非常に乱暴にまとめると、立ち上げるのは容易だが(とはいえ、起業よりももっと大変)、継続するのはもっと大変。ときには、国家が地域通貨の活動を制限したり、つぶしたりすることもある。いくつかの問題を取り上げると、(1)まずは賛同者でかつアクティブな利用者を増やすのが大変。この500年ばかりの資本主義と貨幣経済によって、「貨幣とは」「経済とは」などの思い込みがあるので、それを変えるのがむずかしい。とくにサービス提供者である商店の同意が得られない。(2)軌道にのったとして、貨幣の管理をする組織の運営に問題あり。ボランティアで消耗するとか、意見の調整に時間がかかるとか、リーダーが代変わりしていかないとか。(3)利用者の活動が不活発だと、個人ごと・エリアごとに債務と債権が大きくなってしまい、活動が停滞する。地域貨幣をたくさん持っていても使う場所がなくてためるだけとか、利子の返済がないから使うだけで負債を返さないとか。(4)税制との乖離。国家の貨幣を使わないで商品やサービスのやりとりをするので、所得税とか消費税の対象外になる経済活動とみなされること。国税庁地域通貨団体が話し合って、これらの税金の支払いを行う場合もあるとのこと。徴税権と、貨幣製造権による利益は国家は手放さないだろうから、ここで国家と軋轢になるのだろうなあ。
 誰かが言うように、地域通貨は地域経済を活発にする方法ではあるけれど、国家を前提とする資本主義の中では「革命」「転換」の役割を果たせないだろうなあ。あと企業の行う「ポイント」「クーポン」との差異をどのようにするかも問題。あとこの国の江戸時代の「藩札」(きわめて広義な地域通貨だとおもう)がなぜ廃止され、明治政府の銭や円に変わったのかを調べることも。
2.銀行の新しい形態 ・・・ 20世紀最後の年あたりの通貨危機や銀行の不良債権処理の遅れなどで、銀行が統合していき、メガバンクといわれる組織になっていった。それはどういう経済状況になっても銀行がつぶれないようにするための資本強化であったり、利益拡大のための事業拡大のため。多くの預貯金者の権利は守られるかもしれないが、今度は上記のように小資本の事業、短期的な収益を見込めない事業、などに対する投資が行われなくなった。そのために、地域経済が崩壊するケースもある。そこで、メガバンク都市銀行が投資の対象と認めないような事業に対し投資活動を行う投資組合や地域銀行などが生まれている。ここの問題は、(1)投資組合や銀行の初期資本が少ないこと。(2)組合や銀行の「経営」者がこの種の経営や運営に慣れていないので、誤った投資をすること、回避のために銀行経験者を雇うと既存の銀行との差異が生まれないこと。(3)投資した事業がある程度成長すると、メガバンク都市銀行が投資を行って事業の成果をかっさらってしまうこと。
 いずれの場合でも、企業や国家の組織の大きさとか人材の豊富さ、なにより資金の多さに、競合するのが難しいのだな。

 この感想はネガティブなことを多く書いた。これらは現在の問題の解決方法ではない。でも、これらの実践は可能な未来の一部を指している。なにより参加すること、利用者を増やすことが必要。そのうえでの意識改革(とはいえこのことを大上段に構える運動になるとおかしな方向に行きやすい。穏健な思想で始まった生活改善や宗教、代替医療運動がカルト化していることに注意)。
 自分で投資先を選択できる仕組みができるといいなあ(株を買うというのは投資先を自分で選択できることだが上場企業に限られるというのが問題)。災害が起きたときに義援金と送るというのもいいけど、地域事業や地場産業に直接投資できるようになるといいなあ。
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