2025/12/11 エルンスト・ヘッケル「宇宙の謎(栗原古城訳)」(ネット復刻版)-1 単細胞生物モネラが科学と哲学を行き来し、ヘッケルは聖書に代わる普遍史を構想する。 1902年
2025/12/10 エルンスト・ヘッケル「宇宙の謎(栗原古城訳)」(ネット復刻版)-2 精神の進化と霊魂不滅を主張するヘッケルの科学は通常科学と通訳不可能。 1902年の続き

「存在の大いなる鎖」を残し高等生物と下等生物を区別し下等から高等に向かう進化を構想する考えからは、容易に社会ダーウィニズムにむかう。「生命の不可思議」にもあるように、ヘッケルの人類進化は下等から高等に向かう過程にした。その結果、20世紀半ばまでの人類学には人種差別や民族差別があった(ヘッケルの影響を除いて、彼の造語を止めたのは20世紀後半になってから)。彼には優生思想もあった。障害者差別、女性差別の言動があり、自殺(安楽死)を勧めてもいた。
(ヘッケルの社会ダーウィニズムと優生思想は下記の宮嶋俊一の論文が詳しい。)
第4部「神学的研究」は、キリスト教批判。ドストエフスキーが「カラマーゾフの兄弟」の「大審問官」でやったカソリックとローマ教会批判が神学的・哲学的だったのを、ヘッケルは歴史を紐解くことで行う。幻視氏キリスト教教会、法王の時代、宗教改革の時代、啓蒙主義以後の時代に分けて歴史を振り返る。そうするとキリスト教がだめなのは教義がおかしく(ことに死人の蘇生)、教会の運営がおかしく、教会外のものに攻撃的であったこと。19世紀後半になると、ヨーロッパの人びとに宗教忌避の気分が生まれていて(ニーチェ元まれだしたし)、本書もよく読まれた。ヘッケルの反キリスト教の内容はよくあるタイプのもので新味はないが、宗教共同体が組織されているヨーロッパでこの主張をすることは、共同体から離脱することの宣言でもある。なかなか言い出しがたいことを積極的に主張できることに勇気をみたのかしら。一方で、そのような共同体に属さないでも公共サービスを受けたり、個人的な領域を確保したりできるくらいに、国家と資本は充実した機能を持っていたともいえる。そこがモッブ(@アーレント)が生まれる素地になる。
ヘッケルの一元論哲学はキリスト教にかわる宗教運動にもなる。下記の論文が詳しい。
「彼(ヘッケル)の思想は一元論として特徴づけられるものであるが、「一元論思想」は様々な二元論的対立を止揚していくところにその特徴がある。自然科学と哲学・宗教の対立もまた彼にとっては止揚すべきものであった。この一元論「思想」はまた同時に一元論「宗教」でもあった。そしてヘッケルは一元論同盟の運動を通じてキリスト教教会を厳しく批判し、一元論宗教をそれに代わるものとして普及させようとした。」
宮嶋俊一_ドイツ民族主義宗教運動の 「起源」2011
そうしてできたのが一元論同盟。19世紀末に、ドイツでは青年運動が盛んになったが、参加した多くの若者はニーチェの「ツァラトゥストラ」とヘッケルの「宇宙の謎」を読んでいた。ヘッケルは一元論哲学と一元論宗教の同調者を組織化しようとする。
「一元論同盟の成立は1906年のことであるが、ヘッケルが一元論普及のための組織を思いついたのはもう少し早」い。「一元論伺盟に対しては、その後のナチズムへと連なる神秘的、秘密結社的なオカルト的団体という見方がされている」。「一元論同盟の運動はキリスト教教会が力を失った中でのいわば宗教的空白状態において発生した様々な運動のいわば台風の目としての役割を果たしていた。/ヘッケルは一元論をより「宗教」らしく整えようとしていた。」
一元論論同盟を含めたドイツの青年運動とナチス運動への関りは以下が詳しい。
上山安敏「世紀末ドイツの若者」(講談社学術文庫)
最近のヘッケル復活が形態学やデザインを評価することにあって、優生思想や人種差別のインフルエンサーであったことに触れないのはまずい。のちのヘッケルの運動はのちにナチス運動を産む力になった(上掲書)。またオカルトやスピリチュアリズムの温床にもなった。別のエントリーにあるように宮沢賢治や夢野久作にも影響を与えている。たぶん戦後日本のトンデモ医療、ニセ科学にも大きな影響を与えている。それは戦前の日本の右翼がヘッケルと国家神道をごっちゃにした本を書き、それがいまだに続いているのだ(特徴は、哲学と科学の融合、一元論、微小細胞不死、霊魂不滅、家族主義など。どれもヘッケルにある)。
以上で俺のなかで四半世紀続いたエルンスト・ヘッケルの探究をおしまいにする。変な人という印象が、つきあったらヤバい人に変わった。彼を軸にカント-ショウペンハウエル-ヘッケルという流れをみることができるし、一元論同盟からナチスへの全体主義運動をみることもできる。関心ある分野だが、ヘッケルの思想を読んでまですることじゃないな。もういい。
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