ナチやロマン主義のことを勉強するにつれ、この本は再読しないといけないという思いになった。前回のまとめ上山安敏「世紀末ドイツの若者」(講談社学術文庫)でエッセンスは掬えたと思うが、もう少し丁寧に読んでみようと思う。

まず全体状況から。英仏の世紀末と違い、ドイツの世紀末は反デカダンで反終末論的ペシミズムで、プロテスタンティズムの影響があり、俗流市民モラルに嫌悪と反発をもち、安穏な市民生活から脱出する超人志向があった(英仏は国民国家ができて100年以上たったが、ドイツは統一国家ができたばかりという違いか)。資本主義が隆盛して大衆社会化しつつあった。そこで学校教育、宗教の改革要求があった。というのも1880年代にドイツの教育は資本主義と官僚制でのし上がる資格取得の制度になって、以前の教養主義でなくなったので。学校のキリスト教徒古典教育に反発し、ロマン主義とゲルマン主義に熱中したのだった。
1 遍歴する若者たち ・・・ 1890年代にギムナジウムの生徒たちからワンダーフォーゲル運動がおこる。古い民謡をうたいながら田舎を歩き野宿する短期の旅行。デカダンや淫蕩とは無縁で、規律正しい生活に順応する鍛錬でもあった。ワンダーフォーゲルのほかにも様々な青年運動があった。
(この時代は旅行会社による世界ツアーができるなど旅行の時代。なるほど1875年生まれのトーマス・マンが旅行好きなのはそのせいか。「トニオ・クレーゲル」「ヴェニスに死す」「マリオと魔術師」など。)
(都市や田舎で青年運動が起きたのは、明治20~30年代の日本でも同じ。自由民権運動のように政治活動になるものもあれば、農村改良運動であったり修養会であったり。)
2 ワンダーフォーゲルの思想と背景 ・・・ 特徴は、1.大学入学前の未成年たちの運動で大人が顧問。教師、一般人も参加。2.キリスト教への無関心。祖霊の霊気や異教への関心を持ち、ゲルマン主義的(この時代にニーチェが流行っていたのと機を一にしている)。3.禁煙・禁酒・禁欲。青年による生活刷新運動でもあった。20世紀になると、反ユダヤ主義が流れ込み、運動からユダヤ人が排除されるようになる。
(エルンスト・ヘッケルはキリスト教会からは悪書扱い。一元論哲学がキリスト教にあわないので。「宇宙の謎」はキリスト教の神を揶揄しているくらい。)
3 「自由ドイツ青年」 ・・・ この組織・運動は大学生によるもの。ワンダーフォーゲルの流れにあるので、反キリスト教、ナショナリズム、禁煙・禁酒・禁欲を特徴にしていた。若いナトルプ、ハイデガー、ベンヤミンなどが参加、ハウプトマン、ウェーバー弟が支持。彼らは19世紀の前世代の酒宴と決闘に明け暮れる学生組合を批判していた。菜食主義、裸体主義(ヌーディズム)、林間学校、民族音楽と踊り、コロニー建設などはこの運動が発祥。
(1930年代の文化芸術の大立者が20世紀初頭の青年運動に関わっていた。長じてからのハイデガーの主張はこの運動の代弁者のよう。一方アドルノが民族音楽を批判したのは、この運動に排除される側にいたせいなのかもと妄想。)
この青年運動にかかわった若者は1870~80年代生まれ。ということはトーマス・マンやフルトヴェングラーたちにあたり、彼らの作品や創造の背後をみることができる。同時にこの青年運動は全寮制のギムナジウム教育に対するアンチでカウンター。そのためにギムナジウムがどのようであったかを知っておかないといけない(トーマス・マンやヘッセらがギムナジウムの非道さを小説にしていることを思い出そう)。
文化芸術からの関心からすると、ニーチェが流行になって強い影響を若者たちに及ぼしているのが興味深い。ロマン主義や西洋形而上学がどん詰まりに来ていて、そのままではどうしようもないから超人になってヨーロッパの危機を克服しようという考えはドイツの若者に共有されていた。そこから個人ではなく集団で社会と政治を変えようというところまではほんのわずかのステップしかいらない。
ヘッケル(とくにキリスト教の神を「ガス状脊椎動物」のこと?と揶揄した「宇宙の謎」)が読まれていて、彼の周辺を含めた一元論哲学が大きな流派になっていることも。21世紀に読むと、ダーウィンを誤解したトンデモ学説の主張にしかみえないが、キリスト教批判・忌避をいう時代思潮のなかでは一元論哲学も大きな力になっていたのだ(それこそジェイムズ・ジョイスが「ユリシーズ」でキャラの一人に読ませるくらいに)。
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2025/12/26 上山安敏「世紀末ドイツの若者」(講談社学術文庫)-3 大学の世俗化が学生の意識を変え、反権威と反宗教の気分に満ちた運動になる。 1994年に続く