odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ジョン・ディクスン・カー

ジョン・ディクスン・カー「皇帝のかぎ煙草入れ」(創元推理文庫) 殺人を目撃した女がアリバイを主張できないために窮地にたつ巻き込まれ型サスペンス。

向かいの家で、婚約者の父親が殺されるのを寝室の窓から目撃した女性。だが、彼女の部屋には前夫が忍びこんでいたので、容疑者にされた彼女は身の証を立てることができなかった。物理的には完全な状況証拠がそろってしまっているのだ。「このトリックには、…

カーター・ディクスン「貴婦人として死す」(ハヤカワ文庫) 崖からの飛び降りで溺死したはずの二人が射殺体で見つかる。他人の足跡はない。

西洋には「心中」という概念がないそうだが、障害によって恋愛が成就されないとき、二人が同時に自殺するというのはあるのかな。自分の読書の記録を探ってみたけど西洋文学には見当たらなかった。という具合に珍しい発端になる(この国にはいろいろありそう…

ジョン・ディクスン・カー「剣の八」(ハヤカワ文庫) イギリスの幽霊屋敷で起こるポルターガイスト事件。奇行を繰り返す主教とミステリ愛好家が事件をしっちゃかめっちゃかにする。

幽霊屋敷に宿泊中の主教が奇行を繰り返すという訴えがあった。主教は手摺りを滑り下りたり、メイドの髪を引っ掴んだり…さらに彼はとてつもない犯罪がこれから起こると言っているらしい。警察はその言葉を信じていなかったが、主教の言葉を裏付けるように隣家…

ジョン・ディクスン・カー「死の館の謎」(創元推理文庫) 1972年に1920年代のニューオーリンズを回顧する。老いたカーは何事も抑え気味。

歴史小説家ジェフ・コールドウェルは、ひさしぶりに故郷ニュー・オーリンズの地を踏んだ。 彼を出迎えた旧友の住む邸は、二つの点で名を知られていた。 一つは、秘密の隠し部屋にスペインの財宝が眠っているという伝説によって。 もう一つは、謎の怪死事件が…

ジョン・ディクスン・カー「曲った蝶番」(創元推理文庫) 迷路庭園内で起きた準密室殺人事件。「天一坊事件」じみた相続のあらそい。

ケント州の由緒ある家柄のファーンリ家に、突然、一人の男が現われて相続争いが始まった。真偽の鑑別がつかないままに現在の当主が殺され、指紋帳も紛失してしまった。さしもの名探偵フェル博士も悲鳴をあげるほどの不可能犯罪の秘密は? 全編をおおう謎に加…

ジョン・ディクスン・カー「帽子収集狂事件」(創元推理文庫)

夜霧たちこめるロンドン塔逆賊門の階段で、シルクハットをかぶった男の死体が発見され、いっぽうロンドン市内には帽子収集狂が跳梁して、帽子盗難の被害が続出する。終始、帽子の謎につきまとわれたこの事件は、不可能興味において極端をねらう作家カーが、…

ジョン・ディクスン・カー「魔女の隠れ家」(創元推理文庫) フェル博士初登場作。ゴシックロマンスにコメディとロマンスを加えて一味違う作風になった。

チャターハム牢獄の長官をつとめるスタバース家の者は、代々、首の骨を折って死ぬという伝説があった。これを裏づけるかのように、今しも相続をおえた嗣子マルティンが謎の死をとげた。〈魔女の隠れ家〉と呼ばれる絞首台に無気味に漂う苦悩と疑惑と死の影。…

ジョン・ディクスン・カー「絞首台の謎」(創元推理文庫) 死者が運転する車と古代エジプト学。バンコランはいきいきと倫敦を歩き回る。

夜霧のロンドンを、喉を切られた黒人運転手の死体がハンドルを握る自動車が滑る! 十七世紀イギリスの首切役人〈ジャック・ケッチ〉と幻の町〈ルイネーション街〉が現代のロンドンによみがえった。魔術と怪談と残虐恐怖を、ガラス絵のような色彩で描いたカー…

ジョン・ディクスン・カー「連続殺人事件」(創元推理文庫)

35年前の中学生時代に読んだときは、途中はとても面白かったのに、解決が判然としなくて後味が悪かった。再読したら、そのとおりの読み方でOKというのがわかった。1970年代だと探偵小説風味のユーモア小説というジャンルがなくて、あったとしてもカーは「本…

ジョン・ディクスン・カー「テニスコートの謎」(創元推理文庫) 夕立ちが降った後の足跡のない殺人。杖やステッキを持つ探偵はアルレッキーノ(ハーレクイン)。

ブレンダは愕然とした。雨上がりのテニスコートには被害者と発見者である自分自身の足跡しか残ってはいなかったのだ。犯人にされることを恐れた彼女は、友人と共にこの事実を隠し通して切り抜けようとするのだが……。主人公達と犯人と警察の三つ巴の混乱の中…

ジョン・ディクスン・カー「夜歩く」(ハヤカワ文庫) 怪奇小説の文体で20世紀倫敦に人狼をよみがえらせる。バンコランも吸血鬼じみている。

刑事たちが見張るクラブの中で、新婚初夜の公爵が無惨な首なし死体となって発見された。しかも、現場からは犯人の姿が忽然と消えていた! 夜歩く人狼がパリの街中に出現したかの如きこの怪事件に挑戦するは、パリ警視庁を一手に握る名探偵アンリ・バンコラン…

ジョン・ディクスン・カー「髑髏城」(創元推理文庫) 髑髏のかたちをした城に集まる普通でない人たち。20世紀にゴシックロマンスをよみがえらせる試み。

くだらないことを備忘のために。カーのミステリでは、タイトルに数字の付いたものがある。どれくらい並べられるかな。 1・・・「一角獣の怪」(一角獣が「ユニコーン」なので) 2・・・「死が二人をわかつまで」(短編に「二つの死」というのがあるらしい…

カーター・ディクスン「赤後家の殺人」(創元推理文庫) フランス革命を逃れた一族の数奇な運命。寝ると死ぬ部屋に誰が入るかを決めるカード勝負はサスペンスフル。

その部屋で眠れば必ず毒死するという、血を吸う後家ギロチンの間で、またもや新しい犠牲者が出た。フランス革命当時の首斬人一家の財宝をねらうくわだてに、ヘンリ・メリヴェル卿独特の推理が縦横にはたらく。カーター・ディクスンの本領が十二分に発揮され…

ジョン・ディクスン・カー「バトラー弁護に立つ」(ハヤカワポケットミステリ) 密室殺人事件に遭遇した若い男女のサスペンスコメディ。

白い幽霊のような霧が、リンカンズ・イン・フィールズの辺りに立ち込めていた。十一月も下旬の午後四時半、空も町も、もう暗かった。 四階にあるプランティス弁護士事務所はひどく暗くてがらんとしていた。奥の事務所だけに明りがついていて、副所長のヒュー…

ジョン・ディクスン・カー「ロンドン橋が落ちる」(ハヤカワポケットミステリ) 1757年の倫敦を舞台にした若い男女のサスペンスロマン。ロレンス・スターンが狂言回しになる。

このミステリは、中学生か高校生のときに図書館で借りて読んだ。なんだかよくわからなかった。よくわからなさは、クリスティ「復讐の女神」、P・D・ジェイムズ「女には向かない職業 」でもおなじだった。まあ、ミステリを読み始めたばかりの少年には、そんな…

ジョン・ディクスン・カー「震えない男」(ハヤカワポケットミステリ) 幽霊が壁に掛けてあった銃を発射した。前半の荘厳さが結末の下世話さにとってかわる。

幽霊のでるという屋敷が競売にだされた。資産家クラークはさっそく購入し、友人知人7名を招待して幽霊パーティー(交霊会みたいなことか)を開くことにする。5月の休日に屋敷に集ったところ、資産家が銃で撃たれ死亡した。そこには、彼の妻しかいない。彼女…

ジョン・ディクスン・カー「カー短編集 3 パリから来た紳士」(創元推理文庫)謎解き以外の物語がおもしろいからカーの短編は再読可能。

1945年戦後の短編を集めたもの。「パリから来た紳士」は本格的な歴史ミステリの「ニューゲイトの花嫁」と同じ年。このあたりから歴史上の人物を主人公にするという趣向が出てきたのかしら。シオドー・マシスン「名探偵群像」は初出が不明(初訳は1961年)。…

ジョン・ディクスン・カー「カー短編集 1 不可能犯罪捜査課」(創元推理文庫) マーチ大佐の冒険譚と歴史物を収録。

1940年刊行のたぶんカーの第一短編集。探偵役はフェル博士でもメリヴェル卿でもなく、マーチ大佐。カーにしろクイーンにしろデビューからしばらくは長編を書いて、短編を書くようになったのは1930年代の後ろのほう。出版業界になにかあったのかしら。新透明…

ジョン・ディクスン・カー「カー短編集 2  妖魔の森の家」(創元推理文庫) カー短編の最高傑作。不可能犯罪と残虐趣味。

奥付の発行年は1976年になっていて、なるほどそういう年齢と時代に読んだのだと、感慨深い。それから数十年。内容を思い出すことはなかったのだが、読み返すと、細部はそれぞれ記憶の底にあって、確かに読んだという記憶が残っていた。あのときは2週間くらい…

ジョン・ディクスン・カー「死者のノック」(ハヤカワ文庫) ウィルキー・コリンズの筋書き通りに起こる殺人事件。結婚生活に飽きた大学人たちは共同体の規範に従えない。

英文学教授ルースベンは呆然と立ち尽くした。女が胸に短剣を突き立てて死んでいたのだ。彼がこの女ローズを訪れたのには理由があった。彼女との仲が原因で妻に逃げられたルースベンに、ローズの家に行くようにという謎の電話があったのだ。他殺の疑いが濃か…

カーター・ディクスン「赤い鎧戸の影で」(ハヤカワ文庫) 植民地で若い男女がしでかすドタバタ騒ぎ。老いたH・Mは見守るだけ。

お忍びで海外休暇中のH・Mがタンジールに到着すると、のぼりやら歓声やらで派手な出向かいを受ける。そのまま現地の警察に行くと、神出鬼没の怪盗を捕まえてくれとの要請。ブリティッシュ・ビューティのおきゃんぴー(死語!)な娘が私設秘書になってくれ…

カーター・ディクスン「パンチとジュディ」(ハヤカワ文庫) 最初一人で始めた冒険に一人二人と同行者がくっついていく騎士道小説。H・Mは事態を収拾するデウス・エクス・マキナ。

パンチとジュディ (ハヤカワ・ミステリ文庫 クラシック・セレクション)作者:カーター・ディクスン早川書房Amazon2005/01/02記 イギリスとドイツの仲が険悪になってきた1930年代後半。元ドイツスパイが情報を売り込みたいとH・Mに近づいてきた。その情報に…

ジョン・ディクスン・カー「猫と鼠の殺人」(創元推理文庫) 他人を裁く冷酷な人間が殺人容疑をかけられたらどうなるか? カーの知識人論と倫理の世代間格差論を読もう。

猫が鼠をなぶるように、冷酷に人を裁くことで知られた高等法院の判事の別荘で判事の娘の婚約者が殺された。現場にいたのは判事ただ一人。法の鬼ともいうべき判事自身にふりかかった殺人容疑。判事は黒なのか白なのか? そこへ登場したのが犯罪捜査の天才とい…

ジョン・ディクスン・カー「蝋人形館の殺人」(ハヤカワポケットミステリ) ポケミス版は縮約。なのでプロットと情景がすんなり頭に入らない。

蝋人形館の殺人 (ハヤカワ・ミステリ 166)作者:J.ディクスン カー早川書房Amazon 元大臣の娘オデット・デュシェーヌが死体となってセーヌ河に浮かんでいるのが発見されます。致命傷は刺傷で他殺と考えられました。オデットが死ぬ直前に蝋人形が展示されてい…