odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

都筑道夫「阿蘭陀すてれん」(角川文庫) 1977年初出の怪奇、SFものショートショート集。1985年に新潮文庫で出たときは「25階の窓」。

 1977年初出のショートショート集。1985年に新潮文庫で出たときは収録短編を4編減らし、総タイトルも「25階の窓」に改題された(収録作品が25編だったので総タイトルに25がついたとのこと)。このあと同じタイトルで「都筑道夫恐怖短篇集成〈2〉」ちくま文庫が出版されているが、たぶん収録内容が異なる。

阿蘭陀すてれん ・・・ 兄嫁が死んだという友人が「最後まで読めない」本を持ってきた。さてこの本のタイトルも同じ「阿蘭陀すてれん」だが、読者であるわれわれも最後まで読めないのだろうか。それとも一夜明けたら醒めてしまうのだろうか。

高い窓 ・・・ 女子高校生をラブホテルに誘って窓から飛び降りた男。女子高校生の話によると、持っている人形のせいかともいう。たがみよしひさの初期短編に似たのがあったなあ(漫画が後)。

かくれんぼ ・・・ 遊園地にいったアベック。女がかくれんぼをしようというと男はためらう。というのも、男は子供の時にかくれんぼの鬼になって、どうしても見つけられない一人の女の子がいたから。

古いトランク ・・・ 喫茶店で買った古いトランク。そこから声が聞こえてきて。

燭台 ・・・ 死んだ妻の故郷で、洞窟の中の石仏を見ていると燭台に照らされる妻の横顔が見えて。

青信号 ・・・ 夜中の信号で、札束を落血ている。誰も見ていない、青信号の向うから急速に近づくヘッドライト。

神になった男 ・・・ さえない男が石になってしまって。筒井康隆にありそうな話で、こちらはセンチメンタル。

人形の家 ・・・ 古い玩具を売っている店に入ると、主人が人形の家を薦めてきた。窓から中を覗いているうちに、「わたし」は人形の家にはいっていく。

私と私と私たち ・・・ アパートに帰ると、部屋から出たのは私、隣室の男も私。私、私、私…。映画「マトリックス」のプログラム・スミスみたいな感じ。

地球は狙われている ・・・ 先生が宇宙人であることに気付いた小学生、父に話すが取り合ってくれない。

テレパシスト ・・・ テレパスの能力がどんどん先に延びて、ロシア語が聞こえてきた。

猫の手 ・・・ ジェイコブス「猿の手」では3つの願いは必ず裏をかかれるのだが、そうならない願いを相談した。

片腕 ・・・ 片腕をなくした男が立ち上がって、片腕を探してくれという。何ともすっとぼけたオチ。

髑髏盃 ・・・ 小さな髑髏盃で酒を飲むと、悪酔いして喧嘩になってしまう。4人で確かめることになって、いたずらをしたら体が動かなくなってしまった。

蒸発 ・・・ イラストレーターの周囲で蒸発する人が二人も出た。必死に捜索するが見つからない。そのうち、刑事が家にやってきて…。のちの「ふしぎ小説」につながる一編。

セックス革命 ・・・ もしも人間から異性愛がなくなったら。「未来警察殺人課」にあったような擬似セックス。

妙な電話 ・・・ 一人暮らしの老人で夜寂しいから相手になってくれと電話がかかってきた。

超能力電話 ・・・ 妻のところに、夫の行動予定を知らせる電話がかかってきて、それがいちいちあたっていて。

高所恐怖症 ・・・ 画家の先生に高所恐怖症でいつも不安になっていることを打ち明ける。窓に立って深淵を除いているのは私で、その姿を私はみているという。

故郷の廃家 ・・・ そろそろ取り壊される廃屋にアルバイトで済んでいる男。久しぶりに会うと、廃屋には幽霊が出るといい、本当に出た。

真夜中の雷雨 ・・・ 雷雨に出会った若者が煙草に火をつけ、江戸っ子だった父の繰言を思い出す。

老朽度スキャンダル ・・・ 高齢者が急にボケる事件が相次ぐ。高齢者用の食物「黒いピーナッツ」のせいだと、どもを起こした。映画「ソイレントグリーン」と小説「恍惚の人」と「ロッキード事件」の記憶が生々しかったころ。

足 ・・・ 新しくスキー道具をそろえてスキー場に来たのに、足を挫いたとかのうそをついてスキーをしないのだが。

夜道 ・・・ 山中の夜道を走らせていると、連れ合いの女がしきりに怖がる。深い山である女の姿が見えると。

鏡の中 ・・・ 人に間違えられてばかりいる。鏡を見ると自分だったり、別の顔になっていたり。顔は自己同一性を保持する記号になるのかしら。サングラスをかけて視線を遮断しただけで、別の人格になることも可能だったりするし。

影 ・・・ 影が無くなってしまったという相談をうけた。取り立ててよい知恵も浮かばないので、日々の雑用を手伝うことにした。田舎の古文書を受け取りに行けてといわれて。

春で朧ろでご縁日 ・・・ 昭和40年代に縁日を復活させた街から別の約束に行く途中、私は昭和10年代の縁日に紛れ込む。そこに見た父と母。両親への憎しみと愛情。

新居 ・・・ 翻訳家が格安で買った家は幽霊が出るという噂。原稿を取りに来た若い女性社員を驚かすことにした。

古い映画館 ・・・ 幽霊のでるという芝居小屋を映画館に改造して今はつかっていないのを、友人に誘われて見に行くことになった。映写されたフィルムには、こどもの遊んでいる姿が映されていて、それが突然画面の外に出て行って。


 「かくれんぼ」「人形の家」「古い映画館 」は「はだか川心中」(剄文社文庫)にも収録された自信作。
 怪奇、SFもののショートショート。未来を舞台にしたものから過去を懐かしむものまで多彩な芸。安定した品質の小説で、自分には1980年代の「ふしぎ小説」よりもこちらの若い時(といっても40代だが)のほうがこのみ。ただいくつかの作品、とくにSF趣向のものでは、最後に合理的な解決をつけている。ふしぎなふるまいとか不思議な出来事とかが、実は人為であったり、実現可能な仕込みであったり。こういうのはもっと古い1950年代ころのショートショートにはふさわしいけど、この時代にはすでに時代遅れになっているなあ。あいまいなままで、夢(よいものでも悪いものでも)の気分のまま「終」にしてよかったのではないかな。とすると、実のところ「ふしぎ小説」が好きなのかしら、自分は。