角川文庫のショートショート集成。1973年に「悪業年鑑 ショートショート集成3」というタイトルで単行本になった。「ダジャレー男爵の悲しみ」「スリラー料理」との分冊になった文庫版の初出は1980年。ほかに「悪夢図鑑」「悪意辞典」というタイトルでショートショート集成が出て、いずれも2分冊で文庫になった。書かれたのは1950-60年代にかけて。星新一や筒井康隆の回想を読むと、この国のSF受容はショートショートから始まったという。SFを専門でやりたい人は盛んにショートショートを書いていた。ショートショートという言葉を広めたのは都筑道夫で、紹介と同時に実作も行っていた。
「ダジャレー男爵の悲しみ」の巻末にクイズ・ショートというのがあって、「5分間ミステリー」のように問題編と解決編に分かれている。事件の容疑者ないし関係者は3-6人。それ以上に増やすにはページが足りないし、読者が混乱するからね(といいながら、この早口の語りでは誰がだれやらさっぱりわからず、ちっとも当てられませんでした、と頭をかく)。
誰が私の埋めてくれるの? ・・・ 幽霊になった女が生きている男のところに出て、死体のありかを見つけてもらう。誰がわかったのでしょう。
ラブ・レター ・・・ 去年の端午の節句の時、人形の箱にラブレターを入れた人がいる。誰でしょう。
宝探し ・・・ 家の中に便箋を隠して、見つけた人にキスさせると女が言い出した。どこに隠したでしょう。
連載本格第1回 ・・・ 死体探しゲームで本当に死体になってしまうというところまで小説を書いて、詰まってしまった。この哀れな作家を助けて。
災難ドライブ ・・・ 強盗を乗せてドライブ中、故障した車のところにいったら助けてくれた。どうして強盗がのっているとわかったのでしょう。
夢の完全犯罪 ・・・ 高い塔の上の部屋に4体のロボットとこもっている王様、監視2人の目をかいくぐった暗殺者に殺された。どうやって。ちなみにアシモフのロボット三原則の生きている世界です。
駐車場事件 ・・・ 行き止まりの駐車場で殺された歯科医。目撃情報を持つのは4人。刑事は妻に話してみる。
このサマリーからわかることは、これらがのちの連作短編集や長編のアイデアに結び付いていること。「夢の完全犯罪」は男が夢のなかでファンタジックな世界に遊んでいるのだが、それはすなわち「銀河盗賊ビリイ・アレグロ」や「暗殺心」や「翔び去りしものの伝説」だ。「夢の完全犯罪」で夫が妻に、「駐車場事件」で刑事が妻に話をし、それぞれ妻のサジェスチョンで解決するというのは、「退職刑事」。「誰が・・・」が若い女性のナラティブで書かれるというのは、「全戸冷暖房バス死体つき」のコーコシリーズに継承。
あと、このクイズ・ショートには、上の謎と併せて、だれがこの話の語り手でしょう?という謎も含まれている。「誰が・・・」「宝探し」。これは逆に「誘拐作戦」の趣向を持ってきたもの。
そんなふうに、書き捨てかと思われるクイズ・ショートも、設定もずっと温めて見事なシリーズものに拡大したり、過去のシリーズの趣向を取り入れて複雑なものにしたり。このあたりのこだわりは、プロだなあ、と感心した。