2023年(感想を書いた年)は世界的に暑い夏。国連事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代(the era of global boiling)が来た」と発言した。
https://www.asahi.com/sdgs/article/14969821
地球がおかしなことになっている。それは新聞やテレビをみればわかる。でも、なぜやどうなってを知ることはできない。そこで2015年に出版された科学の啓蒙書を読む。著者は気象庁の職員で、気候変動に関する政府間パネルの評価報告書を執筆した一人。
異常気象は過去の現象から大きく離れていて、人の一生でまれにしか起きない現象のことをいう(でも一生でまれにしか起きない現象が国内だけでも各地で毎年のように起きている。ことに20年代以降)。気象は大きくは海と大気の相互作用で起こる。世界的な異常気象に関係しているのはエルニーニョ現象、ブロッキング、北極振動など。偏西風に異常が起きて低気圧や高気圧の挙動が変わっているのだ。それに人為的な作用が加わる。とくに二酸化炭素の放出が増えたことによる温室効果で、太陽エネルギーが宇宙に放出されるのを妨げている。
地球の歴史を見ると、氷河期と間氷期が起きていた。周期的に起きているように思えるが、モデル化は難しい。それでも大陸移動と二酸化炭素濃度と関係していることはわかっている。間氷期は1万年も続いていて、氷河期になる可能性もないわけではないが、人間の放出した二酸化炭素濃度を見ると今度1000年は氷河期にはならないと科学者は予測している。(一部のニセ科学信奉者はこれから氷河期になるので地球温暖化はないと主張しているのだ。それにちゃんと答えている。)
では異常気象と地球温暖化で何が起こるか。すでに新聞やテレビで見聞きしていることだが列挙すると背中が寒くなる。すなわち
・極端な高温と極端な低温。熱帯が広がる。雪氷圏が縮小。降水量の差が拡大。
・海面水位上昇。
・海水が酸性化。
・平均気温が上昇。
この変化は元に戻らないかもしれないし、元に戻るまでに数百年続く可能性がある。二酸化炭素排出の削減に成功しても、すぐに元の環境・生態系に戻るわけではない。一度溶けた氷が再び凍るまでに数百年以上の時間がかかる。その先では、人類が経験したことのない領域に達するかもしれない。そして起こることは
・暑熱、極寒による死亡リスクの増大。地球上の生物の減少。
・生態系の変化。農作物の不作、海産物の減少。水循環の変化。使用できる淡水の減少。
・不平等と貧困が拡大し、暴力的紛争が発生する。難民の増加。
など。すでに起きていることが世界的に広まる。
「ノストラダムスの大予言」より陰鬱な未来がここにある。あの予言に震えた人はたくさんいたが(カーゴカルトの終末予言に怯える人もたくさんいる)、異常気象と地球温暖化に震え上がり恐怖を感じる人はあまりいない。島国の日本は災害が起こりやすい場所ではありながら、極端な出来事に遭遇していないから(むしろ大地震と津波のリスクを高く見積もる)。それに進行がゆっくりで、カタストロフィーが訪れるという予想がないのもリスクを低くみるようになる。あいまいでそういう災厄が起きるかというイメージがしにくいのだろう。具体的な対策が見当たらないので、大企業のSDGsの取り組みにまかせておいて、自分ごとに思わない。ゆっくりゆでられるカエルのように、対策も回避法もなくなってから騒ぎ出すのか。あるいは我が亡き後に洪水よ来たれとシニシズムでいるのか。
2023年の沸騰する夏を経験してしまったので、2015年の本書の記述はなまぬるく感じてしまう。人類にも地球にもなんともいえない未来しかないようだ(こういうペシミズムはよくないので、ここで一度だけ)。
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