2026/02/26 マーヴィン・ピーク「ゴーメンガースト」(創元推理文庫)-1 城の伝統から脱出したいタイタスは〈外〉への抜け道を発見し、城の伝統を乗っ取りたいスティアパイクは顔にスティグマをつける。 1950年の続き

さてすでにゴーメンガースト城は異変続きなのである。ことに事故死や失踪が多発している。多くのものは儀式の多忙のために忘れているが、ガートルード妃は不審を抱くのである。ことに先主セパルクレイブと従僕フレイの失踪である。そのうえ、書庫長は二人焼死しているのである。ガートルードにたてつく双子の姉妹はしばらく前から姿を現さない。書庫長の事件にはいずれもスティアパイクが遭遇している。双子は他人によそよそしいがスティアパイクには一目置いているようである。この城には警察やスパイ組織はない。そこでガートルード妃は医師プルーンスクワラーを呼び、スティアパイクを警戒するよう命じるのであった。
時は進み、タイタス17歳。スティアパイクは儀式の実権を握っているのであるが、さらに権力を固めるためにフューシャに求婚することにした。すなわち、侯爵家の血筋を引く者の夫となり、彼を警戒する妃と医師を追放し、タイタスは人知れず亡きものとするのである。これらの陰謀はすでに試していて成功していた。計画は盤石なのである。
しかし口説きに出たらフューシャは拒否し「おまえはやわになった」と揶揄する。スティアパイクは明日になったらものにすると強がるのであるが、これを城に忍び込んでいたフレイが隠れ聴いていた。尾行するフレイにタイタスとプルーンスクワラーが合流し、彼らの知らない城の道を勝手知ったるまま歩き回るスティアパイクに感嘆しながら、追いかける。ついに、スティアパイクは双子の部屋に入り、二人がすでに骸骨と化したのをみたとき、尾行する三人は一切の事情を知るのであった。スティアパイクはフレイを刺殺して城内を逃亡。おりしも〈七色の彫刻の儀式〉で城内はごった返し、しかも激しい豪雨が長引き、城が水没しそうになるなか、ガートルード妃は立つ。洪水被害から逃れるための避難と、スティアパイク追跡を命じ、刻一刻報告がくる中、即座に命令を下し、複雑な計画を誤りなく進めるのである。その間にもタイタスをキスした〈やつ〉は雷に撃たれ、タイタスのキスを見て憂鬱に沈むフューシャは窓の下を流れる洪水に身を投げるのであった。
洪水は城を水没させるまでになる。妃が命じたのは、彫刻術に長けた〈外〉の住民が城の木材を使って船を作ることを奨励し、下の部屋の荷物を上にあげ、食料を提供することだった。その命令は妃から直接間接に〈外〉に向けられる。それは城の歴史以来初めてのこと。こうして千年以上も続いた城の周囲のヒエラルキーは破壊される。
この先のチェイス・アンド・アドベンチャー約300ページは一気に読んでくれ。中世と同じ技術しかないゴーメンガースト城では徒歩かボートで移動するしかないが、その追跡劇の緊迫感と言ったら比類はない。追われるものの恐怖と追うものの逃がすのではないかという焦燥が交互に書かれ、劇的なクライマックスにいたるのだ。洪水と殺人鬼の暗躍という非常事態に直面したとき、人びとの本性が現れる。ガートルード妃のリーダーシップであったり、医師プルーンスクワラーの献身的な医療活動であったり、従僕フレイの忠心であったり。平常時の彼らには合わない行動にみえるが、彼らは非常時に正義や公正を実行する気概をもっているのだ。俺はそこに感動する。
もっとも変化が生じたのはタイタスその人にほかならない。これまでは幼児から子供であったので、物事の判断はつかず、他人の命令にもしぶしぶ従っていたのが、ここに至ってついに自我を確立する。それは〈やつ〉という自由な存在のロールモデルを得たからだし、その直後に〈やつ〉とフューシャをいう愛の対象を失い、スティアパイクというライバルを乗り越えたため。これらの経験が「成長の儀式」となり、タイタスは家族や城の使用人から庇護される存在から、ひとりで決める個人になったのである。
(富原眞弓「ムーミンを読む」ちくま文庫2004によると、洪水は伝統的に死と再生を現わすという。ノアの洪水のイメージなのだろう。本書でも洪水は死と再生を表す。あと、スティアパイクは火と水の試練を繰り返してきた。俺はフリーメーソンの教義や儀式を連想する。モーツァルトの歌劇「魔笛」。)
思い返せば、ゴーメンガースト城は一大迷路であり、石と鉄であり、地図がなく場所だった。誰にも把握されない巨大な空虚。それを埋めるための些末で煩瑣な儀式が行われる。それは貴族やディレッタントの象徴であった。そこに身分制やその後の階級社会に適応できない者が生まれ、社会(そんなものはゴーメンガースト城にはないが、とりあえず人の集団をそう呼ぶ)を疎んじるものが「自由」と「自然」にあこがれる。その結果、城と家族は安楽の場所ではなくなる。これが「ゴーメンガースト」の第1巻と第2巻の主題。
タイタスは安楽をすて、自由のために荒野に出発する。彼の憧れであった「脱出」にようやく成功する。
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2026/02/24 マーヴィン・ピーク「タイタス・アローン」(創元推理文庫)-1 脱出した先の社会は無機質で無関心で、ゴーメンガースト城を誰も知らない。注目されないタイタスは不満。 1959年に続く