odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

日本史

松尾尊兌「大正デモクラシー」(岩波現代文庫) 「内には立憲主義、外には帝国主義」の時代。普通選挙と治安維持法、関東大震災の朝鮮人虐殺と植民地支配が同時進行していた。

「内には立憲主義、外には帝国主義」とまとめられる大正デモクラシーの、別の、多彩な面をみようとする研究。もとは1974年に刊行。 大正デモクラシーは1905年から1925年にかけての民主主義運動。主な政治目標は、普通選挙の実施、軍縮と徴兵制の改革、税制改…

井上清「自由民権」(岩波現代文庫) インテリvs大衆問題には無援でいられた、アカデミズムにこもった人が書物を読んで明治の運動を知った。

自由民権運動の単著は出さなかったが、折に触れて書いた論文を収録。 自由民権運動1951 ・・・ 明治維新前から民衆の民主改革要求はあったが、散発的な運動にとどまった。明治政府ができて封建的な体制はなくなるかにみえたが、官僚制と資本主義を基とする政…

井上清「明治維新」(岩波現代文庫) 治安維持法下でさまざまな制限を受けた人は明治維新を自由の獲得とみる。昭和時代の古い歴史記述。

1913年生まれ2001年没の歴史家。近代日本史を専攻し、羽仁五郎の大きな影響を受ける。もっとも師のアジテーター的なところは継承していないで、アカデミシャンとして冷静な発言をする。師の影響もあって、歴史の人民解放という視点を強調する。 明治維新につ…

杉山博「日本の歴史11 戦国大名」(中公文庫) 戦国大名も中国と貨幣経済の変化に無縁ではない。荘園と地頭の解体が人の垂直的移動を可能にする。

ここでは1470年から1570年にかけての歴史がおもに大名の視点で語られる。このあとの天下統一は次の巻の主題なので、織田・豊臣・徳川の話はほとんど出てこない。かわりに、伊達政宗、武田信玄、上杉謙信、北条早雲、毛利元就などの地方大名が語られる。戦後…

網野善彦「日本の歴史をよみなおす」(ちくま学芸文庫)-2 中世の百姓は農業、運輸・材木業、工業、警備業など多角経営をしていた人たち。国家の制限を受けない女や僧侶などは自由に移動できた。

網野善彦「日本の歴史をよみなおす」(ちくま学芸文庫)-1 後半は「続・日本の歴史をよみなおす」というタイトルで出版されたもの。ちくま学芸文庫版は二つの本の合本。「日本中世の民衆像」(岩波新書)から10年を経ての講義なので、前著の内容を覆す発言も…

網野善彦「日本の歴史をよみなおす」(ちくま学芸文庫)-1 この国は14-15世紀に社会の仕組みから経済のやり方から、人々の思想に至るまでの大転換が起きた。

この国の通史を勉強するのに便利なのは、中央公論社の「日本の歴史」シリーズ。昭和30-40年代にこの国の歴史家を動員して書いたこの浩瀚な大著は読み通すのも大変。とはいえ、その後、この国の歴史の研究の仕方が変わったらしい。単純には過去の歴史書を読ん…

矢吹邦彦「炎の陽明学 山田方谷伝」(明徳出版社) 幕末の藩政改革者。資本主義のない時代に市場および生産の市場化、開放化を行って成功した。

山田方谷は備中松山藩(現岡山県高梁市)の人。江戸末の百姓生まれであったが、幼少のころより聡明であったので、朱子学に勤しむ。長じては大阪の塾に留学し、陽明学(大塩平八郎、吉田松陰などが有名)を学ぶ。折から、藩財政が悪化していたことに加え、藩…

多木浩二「天皇の肖像」(岩波新書) 維新後は列島の大半が明治天皇を知らないので見世物にし、帝国憲法ができたら隠された存在にした

以下は不正確なまとめになるだろう。 ストーリーは大政奉還と江戸城の開城から始まる。幕府は潰れた、ではどうするか。新政府に力がないのは明白。しかも人民(そんな階級の人はいなかったが)も信用していない。そこで、早急に新政府の「中心」を作らなけれ…

色川大吉「自由民権」(岩波新書) 明治から昭和20年までの帝国主義・侵略国家における国内の暴力的な治安維持システムに抵抗した人々。

「今から百年前,アジアで最初の国会開設要求の国民運動が日本全国からわきおこった.一八八一年は,この自由民権運動の最高潮の時であり,民衆憲法草案が続々起草され,自由党が結成され,専制政府は崩壊の危機にまで追いつめられた.各地で進められている…

沼田多稼蔵「日露陸戦新史」(岩波新書) 無味乾燥で欠陥だらけの巨大プロジェクトの報告書

そう簡単には入手できない一冊。自分の手元にあるのは昭和15年初版のもの。新規開店した古本屋にいったらこれが300円で売られていた。1990年ころの話。数年を経ずしてつぶれてしまった。 内容を例によってまとめてみるが、今回は超訳をところどころで採用。 …

野村實「日本海海戦の真実」(講談社現代新書) 帝国海軍の栄光の完成と没落の始まり

1905年5月25日の日本海海戦のことは、ノビコフ・プリボイ「ツシマ」によってロシア側のことを知ることができるとはいえ、この国の多くの人は司馬遼太郎「坂の上の雲」で知ることになるだろう。ここには、1968年ころの連載中、まだ存命中だった日本海海戦経験…

家永三郎「太平洋戦争」(岩波現代文庫) この戦争は1932年の柳条湖事件から1945年の敗戦まで15年間継続した戦争である。

文字から炎が湧き上がるかのような熱い文章。1913年生まれ。学生時代の1932年にマルクス主義と出会い、圧倒的な体験になった。その後、高校の教師になるが戦前・戦中は時局批判の活動ができない。戦後、その体験から現代史を講義するとともに、政治批判を活…

森本忠夫「マクロ経営学から見た太平洋戦争」(PHP新書) 組織的に腐敗していた日本軍は国家を破綻させ、国民を大規模に殺した。

「あの」戦争について書かれた本は多岐にのぼる。小学生のころに手にした太平洋戦記を皮切りに多くの本を読んできた。最近の問題意識は、「あの」戦争の個々の局面における決断や戦局推移にではなく、どうすれば「あの」戦争を回避することができたのか、ど…

大江志乃夫「徴兵制」(岩波新書) 軍隊や徴兵制は社会の不公正を助長し、生産性を下げ、社会的な不適応者を生む。

書かれたのは1981年。レーガンがアメリカ大統領になり、新たな冷戦の開始を意図した。共産圏の周辺国家に核兵器を配備しようとして、反核運動をおこす原因になった。日本には核兵器を配備することはできなかったが、大幅な防衛費の負担増加を求めた。そのた…

平岡正明「日本人は中国で何をしたか」(潮文庫) 略奪・強姦・虐殺などが当たり前になっていた中国本土での戦闘と占領政策を掘り起こす

だいたい3つの区分で旧日本軍の行った残虐行為を紹介し、その背景を分析する。その際に、国民党軍や八路軍の戦略、政略も検討対象にする。そのことは、残虐行為の背景を理解する助けになる。 いつものように著者の主張をまとめよう。 ・1931年の柳条湖事件…

森村誠一「悪魔の飽食」(カッパノベルス) 731部隊による戦争犯罪が知られるきっかけになったベストセラー。

1982年のベストセラー。百万部を超えたらしい。このような陰惨なノンフィクションを受け入れる土壌があったことを懐かしく思い出す。レーガン政権になって核戦争の可能性が増したと思われた時代だったこと、それから医療行政の不手際が目立つことあたりがそ…

多川精一「戦争のグラフィズム」(平凡社ライブラリ) 日本陸軍が制作した幻の雑誌「FRONT」の記録。東方社に集まった顔ぶれがすごいメンツばかり。

対米開戦の避けられないと思われた昭和14-5年ころに、陸軍参謀部は考えた。米にはLifeが、ソ連にはUSSRというグラフ誌があるではないか。それに比べわが軍、わが国には。というわけで、参謀本部の肝いりで「対ソ宣伝計画」を目的にした民間雑誌会社を作るこ…

宮田登「神の民俗誌」(岩波新書) ハレとケ、ケガレは大体一年を通じて細かく設定されている。神道はケガレ落としやハレの儀式を執行する宗教。

「人の一生の折り目や自然とのかかわりの中で出会う種種の災厄に対応して、さまざまな神仏が生み出される。産神、山ノ神信仰、厄払いのお参り、さらには合格や商売繁盛の祈願、道祖神の祭り等等。日本人の日常生活の中で生きつづけてきた民俗信仰の多様な姿…

コリン・ロス「日中戦争見聞記」(講談社学術文庫) ドイツの新聞記者による1939年戦時下日本と植民地のようす。日本政府の監視下にあったはずなのでバイアスあり。

われわれが外国を旅したときに、風景・文物・風習がどれも珍しくて、それとわれわれの日常に在るものの差異を考えてしまうことがある。それと同じことは日本を訪れた外国人にも起こっているはずで、彼らが記録したことは、そこに住んでいるものにはあたりま…

鈴木良一「織田信長」(岩波新書) 誰が信長を殺したかより、誰が部下を支援するためのロジスティックスとマネジメントを作ったかのほうが気になる。

司馬遼太郎「国盗り物語」と比べると、どの年齢の信長を書いたかということで大きな違いがある。前者では40歳までを描き、あとはあっさり。こちらの場合は幼少時のエピソードはほぼばっさり。代わりに一向一揆との対決から死までの10年間に半分以上を費…

土田直鎮「日本の歴史05 王朝の貴族」( 中公文庫) 平安期は民衆や地方の武士に関する資料が少ないので、歴史記述は貴族ばかりになる。

西暦1000年を境に前後50年の約100年を記載。タイトルにあるように天皇を中心にした摂関政治のことを記述している。それは当時の資料がどうしても貴族の日記や公文書、さらには歴史物語に偏するためで、民衆や地方の武士に関する資料が少ないから(文書が散逸…

網野善彦「日本中世の民衆像」(岩波新書) 「弥生時代いらい水稲を中心に生きてきた単一の民族という日本人像は近世以降の通念にしばられた虚像ではないだろうか」

自分の実家は武蔵野台地の北のはずれ。入間川によって削られた河岸段丘(おお、中学生以来初めて使った)が見える。台地には川が流れていないので、周辺は畑ばかりだった(いまはベッドタウンに開発されてこのような光景はみられない)。電車はこの台地の上を…

高橋亀吉/森垣淑「昭和金融恐慌史」(講談社学術文庫)

昭和金融恐慌について数冊を読んでいたが、1920年代の恐慌史に思い違いがあったようだ。 徳永直「太陽のない街」(新潮文庫) 追記2011/7/1 - odd_hatchの読書ノート まとめると、 ・第1次大戦によりアジアから撤退した欧州企業の間隙をぬって日本企業が進出…