odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

日本史

小沢健志「写真で見る関東大震災」(ちくま学芸文庫) 震災直後に撮影された写真で被災地別の状況を把握。国の支援はいつも不足していて、支援策の失敗が重大な問題に波及した。

初出2003年は関東大震災から80年目(阪神大震災から8年目)。その節目の年に編集された。震災記念館(だったか?)の設立準備中に、震災直後に撮影されたネガフィルムと焼き付けが大量に見つかった。それまでは引用で見ていた写真のオリジナルが発見されたの…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 1926年から1936年までの昭和ゼロ年代。象徴的な事件もカリスマ的な人物もいないうちにファシズム体制が完成。

1926年から1936年までの昭和ゼロ年代。大正デモクラシーは「内には民本主義、外には帝国主義」であったが、この10年間で内はファシズムになった。 驚くべきことは、ファシズム体制が完成するまでに、象徴的な事件もカリスマ的な人物もでてこないこと。メルク…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-2 意思決定のプロセスが複雑で、決定の責任がどこにあるかわからない日本ファシズムの無責任体制が完成。

2021/03/02 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 の続き 20世紀前半の国内政治がわかりにくいのは、元老だの元老院だのがあり、選挙で選出されていないものが政治的な決定を下すことができ、首相にいたっては天皇の裁可がないと組閣がで…

大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-3 関東大震災の復興事業と金解禁、世界不況。先進国がブロック経済圏を作ったので、日本とドイツの侵略行動はブロック経済圏を破壊する行為だった

2021/03/02 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-1 2021/03/01 大内力「日本の歴史24 ファシズムへの道」(中公文庫)-2 の続き 経済で重要なのは、関東大震災の復興事業と金解禁、世界不況。前二つは、別に読んだ本のエントリーに詳述した…

林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-1 226事件終了後から敗戦まで。1936年から1945年までの10年間。日本型経営システムが破綻していく。

226事件終了後から敗戦まで。1936年から1945年までの10年間。 東アジアに日本主導のブロック経済圏をつくり、先進国の仲間入りをすること。これくらいが日本の国家目標であって、ブロック経済圏構想はおもに陸軍によって実施運営されることになった。軍事に…

林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-2 戦局が悪化し、物資が乏しくなり、長時間の労働を強要されるようになると、人々の参加意欲は失われるが、日本人は抵抗しない。

2021/02/22 林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-1 の続き 治安維持法、国家総動員法によって日本を運営する<システム>@カレル・ヴァン・ウォルフレンの外にいる人たちは、政治決定に参加することができなくなった。選挙があっても、政党が解党し…

蝋山政道「日本の歴史26 よみがえる日本」(中公文庫) 1945年の敗戦から1967年までの約20年間。明治維新からの独裁制官僚はそっくり温存され、尊皇と反共、そして大衆・民衆嫌悪は維持される

1945年の敗戦から1967年(おそらく執筆時)までの約20年間。現在進行中のできごと、存命中の人々を記述するので、これまでの歴史研究者ではなく政治学者が執筆する。戦前の昭和3年に東大法学部の教授になり、川合栄次郎といっしょに昭和14年辞任。その後、翼…

海野福寿「韓国併合」(岩波新書)

教科書では「日韓併合」と称される事象をここでは「韓国併合」とする。以下の事態進行中では「韓国併合」が普通の表記であったから。同時に、日韓が対等であると思わせるような表現にしたくないという意思も込められる。実際、下記のような歴史的事実をみる…

高崎宗司「植民地朝鮮の日本人」(岩波新書)

1876年の日朝修好条規締結から1948年の引き上げ完了までの、在朝日本人の軌跡をまとめる。統計資料や政治文書も使用するが、生身の人間のふるまいを描くために、多くの人の回想録を使用する。できごとや政策を知るには物足りなき術だが、日本人がどのように…

吉見義明「従軍慰安婦」(岩波新書)

1945-70年にかけてのこの国の文学や映画には従軍慰安婦が登場することがあった。野間宏「真空地帯」、大岡昇平「俘虜記」、野村芳太郎「拝啓天皇陛下様」、岡本喜八「独立愚連隊、西へ」「肉弾」「血と砂」などが思いつく。慰安婦の実態を知らないでいたので…

小林英夫「日本軍政下のアジア」(岩波新書)

1931-1945年の「アジア太平洋戦争」のおもに非戦闘地や期間における軍政の被害状況をまとめる。戦闘期における日本軍の残虐行為はよく知られているが、非戦闘期になると情報が少ない。軍人、民間人が現地人を暴力的差別的に扱ったというのが断片的に書かれる…

文京洙「韓国現代史」(岩波新書)

この本は高崎宗司「植民地朝鮮の日本」(岩波新書)の続きとして読む。 朝鮮戦争の結果、朝鮮半島は南北に分断され、それぞれが別の統治形態を持つことになった。この本ではおもに大韓民国の歴史の変遷をみる(北の朝鮮についていえば、1950年代に金日成が反…

田中宏「在日外国人(新版)」(岩波新書)

この国の戦後史を読むときに、ほぼ無視されるのが、オールドカマーと呼ばれる旧植民地出身者およびその係累に起きたこと、そしてニューカマーと呼ばれる戦後の在留外国人のこと。とりわけ前者には差別が日常であり、法も彼らを保護せず、なにしろ政府そのも…

高木健一「今なぜ戦後補償か」(講談社現代新書) 強制移住や収容などに補償する西洋と強制労働や性奴隷などに補償しない日本。

20世紀の15年戦争は、周辺諸国および交戦国に多大な被害を及ぼしたわけだが、この国にいると1952年のサンフランシスコ条約で全部清算されたと考える。しかし、1990年以降に韓国、中国、台湾の戦争被害者が日本や現地の日本法人を相手に補償を請求する裁判が…

赤塚行雄「戦後欲望史 7・80年代」(講談社文庫)

初出の1985年は80年代が進行中。なので、分析も手探り状態。 表紙は左から三島由紀夫、山口百恵、大橋巨泉、田中角栄。背景の写真はたぶん1974年の三菱重工ビル爆破事件。それと現役総理大臣の逮捕の報道。 さて、70-80年代のキーワードを次のようにまとめる…

桜井哲夫「思想としての60年代」(講談社) 自身の20代がほぼ1960年代と重なる著者によるこの10年間の鳥瞰したエッセイ。

自身の20代がほぼ1960年代と重なる著者によるこの10年間の鳥瞰。個人的体験を交えていて、それほど「科学的」ではなく、むしろその時代の気分を味わうためのものかしら。初出は1988年。 青春の伝説―ポール・ニザンと『アデン・アラビア』 ・・・ 「ぼくは…

赤塚行雄「戦後欲望史 60年代」(講談社文庫)

表紙は、上段がビートルズ(左からジョージ、ポール、リンゴ、ジョンと思うが自信がない)。下段は左から植木等、デビィ夫人、不明、岸信介、背後に全共闘のバリとゲバ棒写真。 サブタイトルが「黄金の60年代」とあるわけで、この時代をそのように規定する…

赤塚行雄「戦後欲望史 4・50年代」(講談社文庫) 敗戦は日本人を貧困において平等にした。日本人は過去を反省しないが、したたかに競争する。

表紙は左から吉田茂、美空ひばり、マッカーサー元帥、マリリン・モンロー、力道山。この時代を象徴する人物としては欠かせない人たちですな。漏れているのは・・・思いつかない。 1985年にシリーズ3部作がほぼ一気に発売。戦後40年ということで、昭和をふり…

読売新聞編集部「マッカーサーの日本 下」(新潮文庫) 占領者の側から見た日本占領の記録。1948~1949年。マッカーサーに飽きた「おとなしいアメリカ人」たち。

下巻は昭和23年から24年にかけて。このころから占領政策が変わってくる。民政局とGIIの確執が起こるとか、民政局の大立者が辞任してその力を失うとか、もともと仲のよいわけではないトルーマン大統領がマッカーサーを解任したがったとか、アメリカ本国の外交…

読売新聞編集部「マッカーサーの日本 上」(新潮文庫) 占領者の側から見た日本占領の記録。1945~46年。

1945年から1952年までこの国はアメリカに占領されていた。外国の軍隊が駐留し、軍票が通貨として使えるところがあった(ドルの持ち込み制限があり、兵士は買い物にドルを使うことが難しかった)。この国の人々の活動が制限されることがあり、公職から追放さ…

竹前栄治「占領戦後史」(岩波現代文庫) 日本人が「恥辱」と思って忘れようとしている1945-1952年の占領時代のまとめ。

初出は1992年。2002年に改訂。1945-1952年の占領時代をまとめる記述。ここでは占領統治を担ったGHQは主題から外れている。なので、民生局と参謀部の確執とか、マッカーサーのパーソナリティとか、経済政策など興味あることがたくさんあるが、一切割愛。それ…

井上清「天皇の戦争責任」(岩波現代文庫) 開戦から終戦までの政府首脳の動きを詳述。リーダーシップをあいまいにするこの国の〈システム〉が責任をあいまいにする。

これは半藤一利「日本の一番長い日」とあわせて読むのがよいな。「日本の…」では、8月14日から15日までのクーデター未遂が主に下級士官視点で書かれているが、こちらは開戦から終戦までの政府首脳の動きが書かれている。その資料は、「木戸日記」「杉山メモ…

日本戦没学生記念会「きけわだつみのこえ 第1集」(光文社) エリート出身の戦没学生の手記。非エリートの勤労者や農民兵士は見えなくされた。

1949年昭和24年に東大協同組合出版部が刊行したもの。そのまえに東大生のみの戦没学生の手記「はるかなる山河に」を出版していて、それを母体にして、ほかの全国の大学高等専門学校出身者の遺稿を集めた。集まったもののうち、75名分をこの題名で出版した。 …

荒俣宏「決戦下のユートピア」(文春文庫) 政府や軍部は戦時に食糧に衣料に消耗品を取り上げ、ヒステリックで非合理的な思考とアジテーションを与える。

目の付け所が違うなあ。「あの戦争」を語るとなると、切り口はいろいろあれど、被害者か兵士であった日本人というところに落ち着く。空襲や機銃射撃、空腹、いじめ、買い出し、インフレ、物資不足、教練の記憶か、新兵訓練に外地派遣、死地、飢餓、収容所体…

山中恒「ボクラ小国民」(講談社文庫) 国家総力戦では監視と暴力が日常茶飯事になり、隠蔽される。未成年が無給労働で収奪される。

1938年(昭和13年)第1次近衛内閣によって国家総動員法が制定された。これによって、総力戦遂行のため国家のすべての人的・物的資源を政府が統制運用できるようになった。経済が国家統制になり(資源分配、生産計画、商品分配などが市場を経由しないようにな…

中村隆英「昭和恐慌と経済政策」(講談社学術文庫) 長期戦争の軍事負担と金融政策の失敗が日本をファシズムに傾斜させた。

昭和恐慌の時代は別の本の感想でまとめてきた。 徳川直「太陽のない街」(新潮文庫) ・・・ 同時代の不況と労働争議の様子をみるのによい。 高橋亀吉/森垣淑「昭和金融恐慌史」(講談社学術文庫) ・・・ 高橋亀吉は井上準之助の向うを張って、金解禁反対論…

長幸男「昭和恐慌」(岩波現代文庫) WW1後の不況、関東大震災、世界恐慌、金解禁が「失われた20年」の大不況の原因。

昭和恐慌のうち、1930年に実施された金解禁に焦点をあてる。昭和恐慌の原因を探ると、それこそ日露戦争くらいまでさかのぼることになるのだが、そこまではみない。またここでは1923年の関東大震災および震災手形、あるいは蔵相の失言から発した1927年の取り…

遠山茂樹「昭和史」(岩波新書) 昭和30年に書かれた20世紀前半の大日本帝国史。

1955年に書かれて、1959年に改訂版のでた新書。改訂版がでるにあたって、「昭和史論争」という論争があったと聞く。とりあえずその論争の中身には触れないで、この本を読むことにする。 ・昭和史ではあるが、出版された時期を見ての通り、昭和34年までの出来…

松尾尊兌「大正デモクラシー」(岩波現代文庫) 「内には立憲主義、外には帝国主義」の時代。普通選挙と治安維持法、関東大震災の朝鮮人虐殺と植民地支配が同時進行していた。

「内には立憲主義、外には帝国主義」とまとめられる大正デモクラシーの、別の、多彩な面をみようとする研究。もとは1974年に刊行。 大正デモクラシーは1905年から1925年にかけての民主主義運動。主な政治目標は、普通選挙の実施、軍縮と徴兵制の改革、税制改…

井上清「自由民権」(岩波現代文庫) インテリvs大衆問題には無援でいられた、アカデミズムにこもった人が書物を読んで明治の運動を知った。

自由民権運動の単著は出さなかったが、折に触れて書いた論文を収録。 自由民権運動1951 ・・・ 明治維新前から民衆の民主改革要求はあったが、散発的な運動にとどまった。明治政府ができて封建的な体制はなくなるかにみえたが、官僚制と資本主義を基とする政…