odd_hatchの読書ノート

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アルバート・アインシュタイン「晩年に想う」(講談社文庫) ノーベル賞受賞者の素朴でナイーブな理想論が世界に影響を及ぼした。

 2005年は一般相対性理論の論文が書かれてから100年目にあたる。とくにそのことを意識していたわけではないが、古本屋で絶賛品切れ中の文庫を入手した。収録されたのは、雑誌その他への寄稿や演説などであり、もともとひとつにまとめることを意図して書かれたものではない。書かれた時期も1930年ころから1954年までと開きがある。にもかかわらず、著者の考えは一貫したもののようで、「平和」や「ユダヤ人」を主題とするものについては書かれた年の政治状況の分析が異なっていて、主張が代わるということはない。
 多くの政治的な問題についての発言は、とても素朴でナイーブな考え方をしていて、現実的な解決を提起するものではない。それを期待する人はいないだろう。むしろ、彼が理想論を述べることのほうが、世界への影響力があったのかもしれない。それこそ子供のように「世界平和」「世界統一国家」の実現を夢見ているのだから。だから、彼が無邪気に「イスラエル」建国と祝うのが非常な違和感になる。たしかに1930年代から(もちろんそれ以前から)激しいユダヤ人差別と迫害があったからではあるが、同じことをパレスチナの人々に犯していることに気付いていなかったようだ。
 アインシュタインは1879年の生まれで1955年になくなった。たとえばフルトヴェングラー(1886-1954)やトーマス・マン(1875-1955)が同世代になるのかな。これらの人と共通するような理想論や芸術観(アインシュタインの場合は科学)を持っているように思える。


<追記:2016/9/21>
 この本には「アインシュタインの予言」にあたる文章は、当然のことながら収録されていない。
 この「予言」に関しては、下記リンクを参照。
アインシュタインの予言 - Wikipedia