odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

芦原すなお「ミミズクとオリーブ」(創元推理文庫) 家庭に事件が持ち込まれる平成の安楽椅子探偵は夫婦で解決する。

 「美味しい郷土料理を給仕しながら、夫の友人が持ち込んだ問題を次々と解決してしまう新しい型の安楽椅子探偵――八王子の郊外に住む作家の奥さんが、その名探偵だ。優れた人間観察から生まれる名推理、それに勝るとも劣らない、美味しそうな手料理の数数。随所に語り口の見事さがうかがえる、『青春デンデケデケデケ直木賞受賞作家の筆の冴え。解説=加納朋子

 収録作は
ミミズクとオリーブ
紅い珊瑚の耳飾り
おとといのおとふ
梅見月
姫鏡台
寿留女
ずずばな
 ミステリの謎そのものはシンプルで、どんでん返しも気の利いたトリックもない。にもかかわらず読みふけってしまうのは、文章の良さ・会話の自然さ・人物描写の的確さ。主人公の中年小説家の雰囲気が実にいい。それに対応する妻の知的さややさしさにはうらやましさを感じる。夫婦小説として読むことになるのだね。事件のほとんども夫婦に起こることで、その対比が鮮やかになる。ま、あたしにはよくわからないことなんだが。
 家庭に事件の話が持ち込まれるというのは、古くは加田令太郎の「伊丹英典」シリーズ都筑道夫の「退職刑事」シリーズなどがある。このとき探偵役は男が勤めていて、女性の影が非常に薄い。伊丹氏の妻は時々ちょっかいをだしては夫にしかられるし、「退職刑事」に話をする「私」の妻はふすまの奥の部屋にいて話には参加しない。そんな具合のすみわけ、というか役割分担があった。それらから20−30年もたつと、今度は夫のほうがぐうたらで観察力も推理力もとぼしい、妻にたしなめられるおっちょこちょいになってしまった。そういうのが時代の推移かね。もちろん都筑センセーには「名探偵もどき」という夫の暴走を影で制御する妻の名探偵というのがあるのだが。