odd_hatchの読書ノート

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都筑道夫「あなたも人が殺せる」「感傷的対話」(角川文庫)

 角川文庫のショートショート集成。1973年に「悪夢図鑑 ショートショート集成1」というタイトルで単行本になった。「あなたも人が殺せる」「感傷的対話」との分冊になった文庫版の初出は1979年。ほかに「悪意辞典」「悪業年鑑」というタイトルでショートショート集成が出て、いずれも2分冊で文庫になった。書かれたのは1950-60年代にかけて。
  
 「あなたも人が殺せる」は編集が凝っていて、連作ショートショートを収めている。
あなたも人が殺せる ・・・ こうすれば完全犯罪も可能という格言を題にした犯罪ショートショート
Say It with Flowers ・・・ 12種類の花言葉にちなんだショートショート

ぼくと私のいる風景 ・・・ 語り手の主語を変えての怪談。

女の五つのたのしみ ・・・ 女性専門の殺し屋が「女の五つのたのしみ(貯える、愛する、食べる、怖がる、飾る)」を満たして暗殺する。

小説エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン ・・・ EQMM日本版50号までの人気短編を換骨奪胎。「おとなしい凶器」「百万にひとつの偶然」「あなたにそっくり」「探偵作家は天国に行ける(物故した6人の探偵小説の大家が登場。描写だけでだれか当てなさいという趣向がはいっている。半分しかわからなかった)」「逃げるばかりが能じゃない」。

三匹の鼠 ・・・ 未来、現在、過去のネズミの不思議な体験。

みけ猫きじ猫からす猫 ・・・ 未来、現在、過去の猫の不思議な体験。

大凶のくじ六枚 ・・・ めったのあたらない大凶のくじが当たった人たちの反応

クレオパトラの眼 ・・・ クレオパトラの眼という宝石がさまざまな人の手を渡る。宝石視点で、欲望に取りつかれた人間の姿を語る。(このタイトルから岡持喜八「殺人狂時代」を想起すること

感傷的対話 ・・・ (男から見た)女性の不思議な行動。恋愛、殺人、不倫、など生活の諸相。

ショッキング・コーナーの六軒の店 ・・・ 「お買物はショッキング・コーナーへ」の惹句で始まる6つの犯罪ショートショート。ものに対するこだわり。うるさい音のするレコードをという注文に、ソニー・クラーク・トリオの「ブルース・ブルー」の冒頭のピアノを薦める。たぶん、「All Of You」と取り違えた。それにしてもこのビ・バップがうるさい音の代表とされた時代か。
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即席世界名作文庫 ・・・ 世界文学全集(当時いくつかの出版社が企画)に出てきそうな名作のタイトルを借用してショートショートを連作する。冒頭の「暇なき読書子に寄す」は岩波文庫の発刊の序(岩波茂雄著)のパロディ。そのあと全26作と別巻2作。当時の読者は、スタインベック、ウルフ、フォークナーなどの現代作家(の名前くらい)を知っていたということになるのかな。別巻1作のステットトン「女か虎か」のパスティーシュが印象的。この有名なリドルストーリーを意識するとなかなか乗り越えは困難なのだが、これはよい(たしかセンセーはほかにもいくつか作っていると思うが、作品名を思い出せない)。


 ここに収録されたのは、おそらくセンセーの最初期に書かれたもの(1950年代半ば以降か)。なので、各務三郎編「世界ショートショート傑作選 1・2」」(講談社文庫)にあるようなアメリカのショートショートに強い影響を受けている。語り口やオチなど。このあたりの練習をへて、のちの多彩で個性的な作風に結実していったわけだ。