odd_hatchの読書ノート

エントリーは3400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2025/9/26

東野圭吾「魔力の胎動」(角川文庫) 大人を手玉に取る献身と奉仕の天才少女が努力することなく成果をだす

 サマリーを書くのも面倒なので、出版社のものを使用。

成績不振に苦しむスポーツ選手、息子が植物状態になった水難事故から立ち直れない父親、同性愛者への偏見に悩むミュージシャン。彼等の悩みを知る鍼灸師・工藤ナユタの前に、物理現象を予測する力を持つ不思議な娘・円華が現れる。挫けかけた人々は彼女の力と助言によって光を取り戻せるか? 円華の献身に秘められた本当の目的と、切実な祈りとは。規格外の衝撃ミステリ『ラプラスの魔女』とつながる、あたたかな希望と共感の物語
https://www.kadokawa.co.jp/product/322003000371/

 どうやら医学部の大教授を父に持つらしい10代半ばの娘が、鍼灸師の縁を使って悩める大人たちに接近する。物おじしないでずけずけと辛辣な言葉をはく少女に大人は驚き、いらだつも、彼女が実際にデモンストレーションを行うと目を見開かれずにいられない。そうして悩める男たちは自信を回復し、仕事への情熱を取り戻し、トラウマから解放されてコミュニケーションの仕方を変えていく。
 この10代の娘は流体学の専門家はだしの知識と、優れた直観をもっている。なので、やったことのないスポーツでも、プロも舌を巻く正鵠な指摘をする。ときに、プロもどきのパフォーマンスを演じることができる(もちろん特定のプレイに限定される)。そういうところが日本人を魅了するのだろうな。努力することなく成果をだして、しかし威張り散らすことがなく、ほどほどに謙虚なところが。
 とはいえ、10代の娘が同年齢とほとんど交友を持たず、いっぽうで大人の社会に入ってきて、大人のもめごとを解決するというのはどうにもひっかかる。10代の女性を幼児神と巫女扱いして、大人(とくに男)のトラウマや劣等感の解決をゆだねるのは、女性のステロタイプな見方なのではないか。女性の献身や奉仕を期待し続けるのは、女性への偏見を強化するのではないか。大人の男が妄想する「さいきょうのじょせい」像を押し付けるようで、気分はよくない。この作家の作品には、そういう献身と奉仕の天才少女が良く出てくるので気になる。
 同じように、作中にある同性愛の描写にも不安がある。SNSあたりで見かけるもっとひどい偏見やヘイトスピーチからすれば、リベラルではあるようだが、さて公正や公平に至るものであろうか。救われたのはただひとりだけで、世間の偏見がどうなったかは書かれていないからね。
 2018年初出。主人公の娘の思惑が解決されていないので、続編がでるのだろうか。(付記、すでにでていた)

 

東野圭吾「魔力の胎動」(角川文庫)→ https://amzn.to/3EvGHeK