odd_hatchの読書ノート

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ノエル・キャロル 「ホラーの哲学」(フィルムアート社)-2 同じ話の解決のつけ方の違いで、ホラーと探偵小説とSFが生まれた。西洋ホラーと日本怪談の特長を比較してみた。

2026/04/09 ノエル・キャロル 「ホラーの哲学」(フィルムアート社)-1 とても不満な一冊。「存在の大いなる連鎖」や流出論をつかえば、説明はもっと簡潔になるのに。 1990年の続き

 19世紀の小説をたくさん読むと、こういう気づきがある。
 ある男(なぜ男かにも注目せよ)が深夜一室に閉じこもる。当人も他人も含めて人の出入りはない。翌朝、部屋を開けると男は死んでいた(もしくはいなくなっていた)。これを発端にした小説が多々ある。西洋人はこれを合理的に、論理的に解決しようとする。その解決例はみっつある。
1.過去の因縁(ブルワー=リットン「幽霊屋敷」)
2.現在の犯罪者による計画(ポー「モルグ街の殺人」、ドイル「まだらの紐」)
3.未来にあるはずの空想技術(ウェルズ「タイムマシン」)
 すなわち、同じ話の解決のつけ方の違いで、ホラーと探偵小説とSFが生まれたのだ。そしてそれぞれが独自の道を開拓していった。同じ作者がこのみっつのジャンルを書くこともよくあった。日本ではこの3つのジャンルは別のルートで輸入されたので、関連があるとは考えにくい。しかし、19世紀の小説を読むと、一つの根から生まれたことがわかる。
 通常の文学史や思想史ではこの発想はでてこないが、「存在の大いなる連鎖」を持ち込むとすぐいわかる。世界の謎(ミステリ)を解くことは、連鎖の位階を上昇することで、道徳的徳を高めることなのだ。すでに1のエントリーで見たように、18世紀には西洋はキリスト教の神はいないが、創造主が存在する世界を構想していた。世界(宇宙より大きい)には未知の人間に似た知的生物や現在の種の断続さをうめるミッシングリンクがいると考えていた。人間はそのような世界において創造主から送られた理性と叡智を使うことによって、位階を上昇し、創造主に近づけると信じる。そうすると世界に起こる謎(ミステリ)は神意によるメッセージであるか、人間を堕落させようとする道の生き物や人間に似た宇宙人のせいなのである。と考えるところから、上のような物語が生まれた。単に謎解きをして満足するのではなく、世界を理性と叡智で照らすことで、人間は上昇するに足る存在であることを確認する。創造主のお眼鏡にかなって選ばれた民であることに満足できる。恐怖だけではなく、自尊心の充足や信仰の再確認に西洋人は楽しむのだ。

 そこから西洋ホラーの特長を並べてみる。日本の怪談と比較することでより明瞭になるはず。
1.世界は多層的。この世の外には天界(プトレマイオス以来8層とも10層とも)や地獄・煉獄(いずれも8層から10層)ある。それぞれの位階は存在で充満している。層の行き来は可能だが、徳や知性がなければ上昇するのは困難。
(日本だと、ハレ・ケ・ケガレの三構造に魂のあるあの世がある程度のシンプルな世界。仏教の輪廻転生(地獄の複雑さは引き継がなかった)があるので、世界は循環的。)
2.人間は理性と叡智を創造主から授かっているが十分に使いこなしていないので、世界は不可知。
(日本では、魂や霊、妖怪が存在することを前提にした世界なので、因果や理で説明可能。いつ、だれに、どのような怪異が起こるのかは予測できないけど。)
3.モンスターや悪霊は人間の肉体を損壊すると同時に、道徳的な罰を与えるもの。モンスターや悪霊が人間にメッセージを送ることはない。人間からすると彼らの暴力や恐怖は不条理で意味不明。意味は人間が自分で自分に与えなければならない(なので恐怖の克服や自己変容が怪談で重要な物語になる)。
(日本では妖怪や幽霊は自分を成仏させることを望むか、異界に侵入したことに対する罰を与えるか。人間の道徳的罪には無関心。なので、妖怪や幽霊が発するメッセージを読み解けば問題解決。)
4.「存在の大いなる連鎖」の成り立ちと思想から、民族と人種に差別的。
(日本では、女性に対して差別的。怪異の原因のたいていは身分制による抑圧や人間関係の怨恨。人間社会に紛れ込んだ異人・物の怪などは退治される。)
 ちょっと粗雑な感じもするけど、メモしておく。

 

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