odd_hatchの読書ノート

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フリーマン・クロフツ「フレンチ警部とチェインの謎」(創元推理文庫) 高等遊民チェイン氏の素人捜査がギャングの罠にまきこまれる冒険アクションでスクリューボールコメディ。

快活な青年チェイン氏はある日、ホテルで初対面の男に薬を盛られ、意識を失う。翌日自宅に戻ると、家は何者かに荒らされていた。一連の犯行の目的は何か? 独自の調査を始めたチェイン氏を襲う危機また危機。いよいよ進退窮まったとき、フレンチ警部が登場し事件の全貌解明に乗り出す。本書は冒険小説と謎解きミステリの妙味を兼ね備えた、クロフツ初期の輝かしい傑作である。
フレンチ警部とチェインの謎 - F・W・クロフツ/井上勇 訳|東京創元社

1926年発表の第6作はなかなかの意欲作で、チェインという高等遊民が戦時中(第一次)の手紙に隠された秘密を追っているギャングの罠にまきこまれ、素人が冒険をしていくという趣向。素人巻き込まれ型の冒険アクション小説であって、これはもちろん古い騎士道小説であり、19世紀の冒険物語である。半分読んだところでは、結構面白い。主人公の間抜けぶりとヒロインのけなげさがいい味をだしているのだ(犯人のボケもいい感じ)。クロフツにこういう趣向の小説があるとは思わなかった。タイトルと紹介文がそっけないから。ちょっともったいない。(「チェインの謎」というから「鎖」のことかと中学生のときから思っていた。そういう連想では本文はつまらないだろうと思うよな。)
2005/02/14
 「チェインの謎」を読了。途中に2週間の開きがあったので、印象がしっかり残っていないのだが。上記は主にチェインの冒険活劇の部分を読んでの感想。その後、捜査がフレンチ警部に引き継がれる。ここからはとても面白くない。フレンチ警部が登場すると、物語が説明ばかりになってしまうのだ。「警部」という立場のせいか、聞き込みもみんな協力的になって葛藤が生じないし、第一フレンチ警部自身が面白みのある人物ではない。ハードボイルドのように社会を冷徹に観察するでもなく、奇矯な意見の持ち主でもなく、組織の歯車に徹している人であるから。この物語によっても、社会を見る目や人を見る目が深くなるわけでもなく、悪いやつははなから悪いという勧善懲悪の倫理を追認するくらいのことしかできない。最後までチェインにがんばらせたほうがよかったのではないかと思う。
 珍しく暗号をつかっている。まあ、それを指摘するといいたいことは終わってしまう程度のものだが。
2005/02/28


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 似たような素人巻き込まれ型サスペンスをベースにしたミステリはカーがよく書いていて、「パンチとジュディ」「バトラー弁護に立つ 」が「フレンチ警部とチェインの謎」に近いかな。あわせてどうぞ。
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