odd_hatchの読書ノート

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都築政昭「黒澤明と「七人の侍」(朝日文庫)

黒澤明の代表作であり、ルーカス、スピルバーグら後世の映画人に多大な影響を与えた「七人の侍」。撮影日数148日、予算の5倍の費用を投じた大作の製作過程には、いかなるドラマがあったのか。豊富な資料をもとに、日本映画界の至宝ともいうべき作品の誕生を追った迫真のドキュメンタリー。
http://www.junkudo.co.jp/detail.jsp?ID=0202261503

 辛めにいうと、DVDの「七人の侍」(に添付されたブックレットやメイキング映像など)とそれまでに出版された「黒澤明」関連および出演者の本に書かれた以上の情報はさほどない。【あとがき: 自分は佐藤忠男黒澤明の世界」(朝日文庫)とかドナルド・リチー黒澤明の映画」(現代教養文庫)などの本を先に読んでいたから、こんな高慢な物言いをしたのであった。どうもごめんなさい。白飯に手を合わせるおばあさんのことや、野武士の砦を燃やすシーンのハプニング、真冬の最終決戦の撮影など、興味深いエピソードがたくさんあるので、映画を見た人はこの種の情報を一通り押さえておくと、再見するときの参考になります。】初出が1999年。1954年に作られた映画の関係者がまだ、存命でかつしっかりした証言のできるころだった。どうにか間に合った本、というところ。
 黒澤映画は著作権がうるさいためか、TV放送は1980年代初頭まで行われなかった。当時の4:3サイズでは映画の画面をそのまま表示できないので、たいていは画面の左右を切り取る。監督はそれを嫌ったらしい。そのためTV放送の際には、上下に黒べたを入れて、スクリーン全体をどうにか表示したのだった。20インチもない小さなTVでは細部がつぶれていたけど、中身には感動したなあ。ビデオ化、DVD化も遅く、しかも入手しにくい値段設定。なかなかみることのできない映画ということになる。(といってはみたものの、BSやCSでは回顧展のように繰り返し放送されているので、それほど「みることができない」というわけではない)。
 さて、
・映画もプロジェクトということになるのだが、予算の5倍の費用を投じることになったというとき、それはプロジェクトの成功なのかしら(結果として大ヒットして予算を回収し、利益を上げたのだが)。ちょっとずれるけど、ラング「メトロポリス」1926年も予算を大幅に超過し、ヒットはしたけど回収しきれず、制作会社は倒産した。1960年前、MGMは倒産寸前だったが、拒否巨費を投じて「ベン・ハー」を作り、大ヒットして会社は持ち直した。こんなふうに昔の映画の制作は投機の要素もあったのだな。
・予算も期日もしっかり守って、地味なしかし大衆受けをして、かつ芸術の香気あふれる映画を撮った監督たちとどこが違うのか(結局は、海外の評価、ということになるのかな、それはおくとして)。
・「七人の侍」の成功はすばらしく、この種の本が出るのは当たり前なのだが、そのことは別の映画を消してしまうことになるのではないか。さほど詳しくないけど、たとえばマキノ雅弘とか。
 感想というよりも嫌味たらしいことしかいえないというのは、自分が屈折している証拠。