odd_hatchの読書ノート

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柳川弘志「生命の起源を探る」(岩波新書)

 とても久しぶりに、生物学関連の本を購入。主題は、生命の誕生に関する最新知見の紹介。
 1980年代初頭では、生命の誕生はミラーの実験(1950年代)までしか紹介されていない。その前の10年間、生物学者は遺伝子組換実験の可能性を検討し弱点を克服することに専念していた(ように見えた)。そのおかげかどうかはわからないにしても、生命の起源についての情報は、上記プラス「オパーリン」くらいしかなかったのだった。
 この本は、1989年に書かれている。驚いたのは、生命の発生する可能性のある場所をいくつか増やしていること。
・潮の満ち干があって、乾燥-湿潤を繰り返す浜辺
・深海熱水孔(マグマで熱せられた100-350度の熱湯が噴き出しているところ)
 このようなエネルギーが大量に放射されていて、かつコスモスとカオスの境界領域のような状態が原始地球の至る所にあった。そういう場所を想定することで、ミラーの実験よりもさらに特殊な条件を設定した実験(かつ長期間といってもせいぜい1週間の暴露)でもって、生物の基本分子(アミノ酸、モノペプチド、RNAのもとなど)が自然発生することを確認する。同時にタンパク質に囲まれた膜状物質を作ることに成功。
 もうひとつの知見は、RNA自体に複製能力のあることが確認されたこと(それまでは、たんぱく生成時に一時的にDNAから複製されるものだと思われていた)。RNAには触媒作用があって、他の分子による化学反応を促進していることも発見。それらを踏まえて、著者は
1.アミノ酸など簡単な生体分子が作られる
2.タンパク質や脂質による膜状物質が作られる。
2’.自己複製能力を持つRNAが作られる。RNAがタンパク質を生成する仕組みが作られる
3.2の二つが一緒になって、RNAワールドが作られる
4.DNAワールドに進化する
という路があったと考える。その後では、これとは異なる意見も発表、提唱されている。(1989年当時の知見であって、現在の知見ではないことに注意。自分はその後の進展を勉強していません、あしからず)。
 重要なことは、生命の起源に関する研究を進めようとするとき、その契機や引き金になるのは、外部の新しい知識による、ということ。分子生物学や海洋研究の成果がなければ、この分野はまだ停滞していた可能性もあった(かな)。wikiの記述だとおもしろくない分野と思ったけど、なかなか楽しそうな知見がありそう。「フェルマーの最終定理」「複雑系」くらいの読み物をかけるライターがいればいいのだが。