odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

小林信彦「紳士同盟」(新潮文庫) 1978年に5千万円を至急調達するために仕掛けるコンゲーム。だまし・だまされは読者にも仕掛けらえている。

 「いんちき臭くなければ生きていけない! 思わぬ運命の転変にめぐりあい、莫大な金を必要としたとき、四人はそう悟った。目標は二億円――素人の彼らは老詐欺師のコーチを受け、知恵を傾け、トリックを仕掛け、あの手この手で金をせしめる……。奇妙な男女四人組が、人間の欲望や心理の隙、意識の空白につけこむスマートで爽快、ユーモラスな本格的コン・ゲーム小説。」

 例によって古本屋で105円で購入したのだが、いまは書籍で購入できない状態。オンラインで電子文書を購入し、自分で印刷しないといけない。その結果、購入価格は4300円。うーん(2008年11月当時)。ダウンロードはこちらから。
小林信彦 『紳士同盟』 | 新潮社
 時代は1978年。キャンディーズがいて、インベーダーゲームがあって、「さらば宇宙戦艦ヤマト」があって、王選手が800号ホームランを放ち、成田空港が開港し、まあそういう時代だ。おもにTV関連の仕事をしている連中が莫大な金を必要とする。タレントにからんだスキャンダルによる失業、離婚による資産の譲渡、若手タレントへの投資の失敗その他。一人当たり5千万円の負債になって、早急に返済しなければならない。この5千万円というのは、バブルのインフレを経験したあと、2008年の現在価格では1億円くらいか。確かに、この金額を個人で負担するのは難しい。しかも負債になった原因は、だれにも心当たりにあるようなものだから、読者はおおむね登場人物4人に共感する。詐欺はいけないけど、彼らがより多く持っているものから獲得するのであればいいのじゃない。カモになった人も少しはいい夢を見たのだから・・・あたりの無責任な感覚で(それは自分の感じたこと)。
 コン・ゲームは難しい。というのは、ストーリーが同じようになってしまうから(追記、これは間違っていたと思う。探偵側が犯人にしかけるコン・ゲームはいろいろあって、おもしろいものもある)。この小説では4回の詐欺(うっかり祭儀とミスタイプしたが、この2つ似ているかもね)が行われるのだが、どれも同じに思えるのだ。もともとコン・ゲームには一つのストーリーがある。松田道弘の解説を参照して意訳すると、カモを見つける・一人が近付く・安心させる仲間を紹介し、話を持ちかける・小さく勝たせる・大きな金を入手する・カモを納得させるおおがかりなセットを組む・逃げる・カモが追えないように手を打つ、ということになって、ああ、いまはこれをやっていると読者は納得し、次の展開を少し見ることができる。というわけで、このジャンルをたった一冊で十分わかったような気分になってしまう。(そういう懸念があったのかどうかはしらないが、この小説では最後にどんでん返しを2回用意しておいた。そちらが本筋かな。だまし・だまされを読んでいる読者を、メタレベルでだましている作者がいるという構造。たとえば、モンキー・パンチルパン三世」のような。映画じゃなくてマンガのほう)
 日本のコン・ゲーム小説のはしりだろう。でも、継続して読みたくなるようなジャンルであるだろうか。このジャンルの本を探すのも大変なようだなあ。

 扶桑社ミステリー文庫で再刊されていたのは知りませんでした。ごめんなさい。