odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

佐々木邦「苦心の学友」(少年倶楽部文庫)

 昭和2年(1927年)から少年倶楽部に連載された少年小説。

 大蔵省勤めの父をもつ内藤正三少年は成績優秀、素行優良ということで、花岡伯爵家に乞われて三男・照彦のご学友になることになった。それまで家庭教師をつけて家内で教育していたが、このたび中等学校に始めて通学することになったので、成績優秀者に付き添ってもらいたいというのだ。なにしろ、維新の前からある御大名の子供とあって、わがままし放題、手間がかかることや時間をかけて達成することや肉体作業をするのが苦手。対等の友人がいなかったので、言葉使いも怪しい。そこを危惧したお殿様と学監の配慮でそうなったのだ。
 のんきな正三の父はいいよいいよとOKをだして(家来の息子なので嫌と言えないし、将来の出世につながるとの打算もあったはず)、正三くんは花岡家に寄宿し、照彦さまとおつきあいすることになった。照彦さまの世間知らずは学校でも家でもトラブルになるし、学校では不良に目をつけられるし、成績不良の照彦さまの世話もしなければならないし、と正三くんはまあ大変。家の中でも、武士の生き残りのような学監・安斉老人の目が厳しく、照彦の二人の兄の相手もしなければならないし。ときには家に帰りたいのだが、なかなか離してくれない。それまで無縁だった階級の生活に戸惑いながら、正三くんは子供から少年に成長していく。
 足かけ2年の連載で春から次の春までの一年を描き切り、当時の中学校低学年の様子をまとめる。ユーモア小説なので、不良に目をつけられるのも、照彦たちの友情と嫉妬でも、級友たちとの軋轢も深刻になることはない。上流階級のおうような生活(巨大な家、洋風の食事、あそんでばかりの父と母、書生に下女のいる大家族、金をかけた行事など)に、庶民の正三くんはめんくらうもののすぐに順応。おおらかなものです。こういう上流階級に紛れ込んだ庶民という構図が、当時の読者にはユートピアのようにみえるのだろう(1980年代以降のマンガだと、大金持ちや貴族の息子や娘が庶民の生活に降りてきて、世間知らずと金の派手な使い方を笑うようになるだがね。例:「うる星やつら」面堂家、「ケロロ軍曹」西沢家、「けいおん」琴吹家など。)
 二人の登場人物が印象的。花岡家の学監・安斉老人は、四書五経をそらんじていて説教に引用し、武道の嗜みがある怖い老人。たぶん乃木希典がモデル。こういう人物が昭和2年であっても、アナクロで笑いの対象になっている。それに対比されるのがサラリーマンで核家族の内藤家。ここでは父をたてるものの父と母は同格で、子供らも自分を主張する新しい家族モデルになっている。
 もうひとりが、不良の堀口くん。落第しているから体が大きく、強面。勉強ができないし、花岡伯爵邸に呼ばれないので、照彦くんに正三くんにいちいちつっかかる。なぜそうするかというと、上記のように教師他に疎まれているほか、母子家庭という事情もある。ここらへんの個人的な事情は子供らは隠すものだし、うっかりすると堀口くん自身がいじめられるように立場が逆転するとも限らないので、彼は行動パターンを変えることができない。この小説ではいじめにあう正三くんが堀口くんと喧嘩し、双方が顔に傷をつけあうことで和解する。まあ、肉体的接触が相互理解にいたるというわけだな。ここでは、母子家庭の問題とか生活格差の問題は深く取り上げられないが、学校生活の主要な問題が戦前においても「いじめ」であることを確認すればよい。この件は、吉野原三郎「君たちはどう生きるか」(岩波文庫)佐藤紅緑「ああ玉杯に花うけて/少年讃歌」(講談社文庫)でも取り上げられる。
 例によって、12−13歳の少年ユーモア小説には、性と恋愛は取り上げられていないので、現代の同世代の読者には物足りないかもしれない。


 2016年9月に復刻。青空文庫でも読める。

  

図書カード:苦心の学友