odd_hatchの読書ノート

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小林英夫「日本軍政下のアジア」(岩波新書)

 1931-1945年の「アジア太平洋戦争」のおもに非戦闘地や期間における軍政の被害状況をまとめる。戦闘期における日本軍の残虐行為はよく知られているが、非戦闘期になると情報が少ない。軍人、民間人が現地人を暴力的差別的に扱ったというのが断片的に書かれるくらい。なので、この本の情報は重要。
家永三郎「太平洋戦争」(岩波現代文庫)
森本忠夫「マクロ経営学から見た太平洋戦争」(PHP新書)

序章 軍票被害調査の旅へ ・・・ アジア太平洋戦争(日中戦争と太平洋戦争の総称として著者は使う)に、日本軍は占領地で一般通貨とは別に軍票を流通させた。総額当時で220億円といわれる。軍票は、1)現地物資の収奪に使われ、2)通常通過と共存したので高インフレを発生させ、財産を喪失させ餓死者すらだし、3)敗戦後一般通貨と兌換しなかった(紙幣は兌換する旨の記載があるにもかかわらず)、という問題がある。

中国戦線の物資争奪戦 ・・・ 1931-1941年までを概説。日本軍は占領地で通貨戦争を行った。元からある旧通貨(法幣)と共産党の通貨と日本軍の通貨があるなか、日本軍の通貨に切り替える(それも「円」では国内に還流するとインフレを誘発するので、円と切り離された通貨にしなければならない。朝鮮・満州は移行できたが、中国の占領地では日本の通貨は相得手にされない。そこで、占領地内での価格統制、物資移動の制限をかけたが、軍票は流通せず、現地での物資調達は困難であった。1939年の「大東亜共栄圏」構想や「ABCD包囲網」アジなどの背景には通貨戦争の敗北と物資調達の困難があった。

南方軍政とはどのようなものだったか ・・・ 1941-42年の南方占領地(フィリピン、ベトナム、マレーシア、ビルマインドネシアなど)の概況。南方占領は当初の戦争計画にはないので、占領政策は泥縄、現地の予備知識のない軍政官が派遣され、腐敗した政治となった。軍と企業の結び付き強化(優遇と見返りの互助体系)。民主や自治は廃止、独立運動は予防。経済、文化、通貨の強い統制。現地人、とくに華人が受難にあう。レートの悪い通貨でインフレ発生。高い税制に、わずかな賃金。現地産業の破壊、物資の日本本国輸送による物資不足。日本人による圧制、差別など。

大東亜共栄圏」の実像 ・・・ 1942-45年の戦局暗転期。イタリア降伏により太平洋戦線にアメリカは戦力を投入。その結果、船舶が襲撃されて輸送量が激減。現地の資源事業が操業されても本国輸送は途絶。現地でも物資不足になって、軍票を大量発行したのでインフレ進行。労働力不足のためにロウムシャを徴発し、軍事作戦に転用した。そこでは強制があり、女性に対する暴力(強姦など)があり、餓死者・病死者が大量にいた。逃亡者が増加し、それに対する懲罰が横行。フィリピン、ビルマが見せかけの独立をしたが、自治などはないため、日本が敗色濃厚になると、抗日運動に転嫁。1944年には軍政は機能しなくなり、45年には崩壊。
(この時代に日本軍が占領地にインフラ投資などをしたことや独立を承認したことなどで、日本軍と政府の「大東亜共栄圏」を正当化するものがいる。実際には正当化できる事例はなかった。)

戦後処理をめぐって ・・・ 1945年9月に軍票流通禁止になったがしばらく流通。米英仏が賠償請求権を放棄。1951年サンフランシスコ講和条約が締結されたが、中国・インドなどが不参加。戦争責任と戦後補償があいまいになった。日本の保証は国家と国家の間で行われ、被害者は抜きにされた。それが現在(1993年)にも続く。日本の占領地の軍政は、経済のネット枠を破壊し、自活経済強制で生活水準を低下させ、財産収奪と民衆虐殺が横行した。

終章 ふたたび被害調査の旅へ ・・・ 非戦闘期においても、民衆虐殺や従軍慰安婦強制、性的暴行が行われ、民衆に恐怖と貧困を強制した。戦争地域や占領地域では、戦中と戦後の境目は明確ではない(日本では「8.15」のように転換点は明確)。


 書かれてから20年を経過しても戦争責任と戦後補償の問題は解決していない。アジアの諸地域の民衆が個別に提訴しては、小さな賠償を実行しているくらい。ここまで遅々としていることの大きな原因は、当然のことながら戦後の日本という国家とそれを運営してきた政府に責任がある。なにはともあれ、戦争被害の規模を詳細に調査しないでは、具体的なアクションの道筋が見えてこないではないか。その調査ですらこの国と政府は手を抜いている。それに、戦後補償の問題を国家と国家の問題に限るという立場もよくない。なるほど1970年以降にこの国は占領地域などに投資や援助をしてきたが、それは被害者にまで行き届かないし、彼らの心情によりそう言葉が出たことはない。そのような政府と行政にやれと命じることは必要で、重要。
 それにしても再度衝撃を受けるのは、日本軍の暴行や虐殺などの犯罪行為が非戦闘期にも頻発していたこと。モラルを喪失した集団が日常的に犯罪を犯していたわけだ。これが日本軍の本質だったのだが、あまりに言及されていない。見たくないことかもしれないけど、直視するべきことだし、二度とやらないと何度でも宣言しないといけない。自分は戦争犯罪に加担していなくとも、所属する国がこのような犯罪を犯したのであるから二度とやらないといい、実行することは国民の責務。