odd_hatchの読書ノート

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文京洙「韓国現代史」(岩波新書)

 この本は高崎宗司「植民地朝鮮の日本」(岩波新書)の続きとして読む。
 朝鮮戦争の結果、朝鮮半島は南北に分断され、それぞれが別の統治形態を持つことになった。この本ではおもに大韓民国の歴史の変遷をみる(北の朝鮮についていえば、1950年代に金日成が反対派を粛正して独裁体制を築いてからは、変化がないので記述することはなさそうだ。さまざまなゴシップやうわさを並べても仕方ないし)。


 戦後の歴史を大きく3つにわける。解放から朝鮮戦争による分裂まで、軍事独裁政権時代、民主化となる。
 まず、1945年8月の日本降伏は、朝鮮半島に権力の真空状態をつくった。日本の過酷な統治のために、政権の受け皿になる政党や市民団体、独立運動組織などがまったくなかったため。さらに日本の軍隊や住民の急速な帰還も混乱を招いたことであろう。それでも、いくつかの都市で人民委員会が組織され、自治が行われていた。著者はアーレント「革命について」を引用して、下からの組織化、民主主義運営などに意義を見出そうとする(その種の運動はこの国の敗戦時にはなかった。あったのは在日朝鮮人によるものくらいか)。しかし数か月後にアメリカ、ソ連が占領することで終了。この国では、もしも敗戦後4か国分割占領になったら、という妄想をもつことがあるが、朝鮮半島ではそれがあった。このことに遅ればせながら気付いて驚愕した。われわれの「もしも」という安直な問いは、わずか目と鼻の先にある民族のリアルであった。そのことに想像力を持てなかった自分が恥ずかしい。この間の重要事件は1947年の済州島事件。
 朝鮮戦争を経て、アメリカの支援などがあり、分断された朝鮮半島の南半分は軍事独裁政権になる。1952年から1987年まで。その間の経緯の一部はT・K生「韓国からの通信」(岩波新書)シリーズのエントリーに書いたので省略。重要なのは、1960年の4月学生革命と1980年春の光州事件。その間の経済発展と人権侵害。韓国の人権侵害や労働差別にはこの国の政府や企業が加担していたことも大事な記憶。個人独裁が暗殺によって終了した後、軍事グループによる集団統治になる。
2013/07/29 T・K生「韓国からの通信」(岩波新書)
2013/07/26 T・K生「続・韓国からの通信」(岩波新書)
2013/07/25 T・K生「第3 韓国からの通信」(岩波新書)
2013/07/24 T・K生「軍政と受難」(岩波新書)

 ソウルオリンピックの開催などで韓国が世界に開かれるようになり、経済成長が注目されるようになると、韓国の統治形態や人権侵害が問題にされる。民主化運動も盛んになり、1987の6月民主抗争ののち、政府は「民主化宣言」をだし、翌年に文民政権が誕生する。以前の軍事政権で人権侵害にあった野党の政治家が大統領になるなど、民主化が進行する。あわせて過去の事件の見直しや清算も行われるようになる。記述は2005年まで。
 多くの資料では戦後韓国の経済成長を重視する。なるほど1960年までは世界の貧国のひとつで、輸出品というと米だけであった時代が、1980年代後半にNICsNIEsとして注目されるまでに至る。1997年の金融危機からいち早く立ち直れたりもする。大統領の開発独裁、政府の経済自由化などをどう評価するかが問題になる。
 この本では政府の施策と市民の民主化運動に注目する。軍事独裁政権と市民の人権侵害は、たとえば中南米やアフリカの軍事独裁政権、あるいは東欧ソ連アジアの共産主義政権に共通していたことだから。そうすると、極めて厳しい人権抑圧と監視があったにもかかわらず、韓国では民主化運動が途切れることがなかった。路上の運動の激しさはときに政局を変え、政権交代の原因にもなった。軍事独裁政権下では毎年死者がでていたし、負傷や拷問を受けた人が多数でていた。その運動の積み重ねが、1987年以降の民主化につながったと思う。この国の民主主義は韓国から教わることがたくさんあると思う。
 この本では、21世紀最初のディケードのトピックとして、ネット環境の普及と高速化、それによるネット市民(ネチズン)に注目する。これまでの組織や人間関係によらない運動としてネットの民主主義に可能性をみている。さて、10年たったとき、この国同様、韓国でもナショナリスト(というかネトウヨ)がネットで台頭し、差別や侮蔑をまき散らし、路上でヘイトを行う連中が出てきているらしい。市民の保守化が起きて、保守政権が生まれている。この国同様に、リベラルがどう対抗するかが問題になっている。
 新書のために記述は薄く、経済や文化などの漏れがおおいが、1980年以降をフォローしていたつもりでも知らないことがたくさんあって参考になった。