odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」(講談社文庫) ほとんどすべての人は彼女に「見ているとイライラする」というが、読者の俺もイライラしました。

 まったく感心しなかったので、感想もなおざりに。

 まずは出版社の紹介文。

<真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。/それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思い出している。>
入江冬子(フユコ)、34歳のフリー校閲者。人づきあいが苦手な彼女の唯一の趣味は、誕生日に真夜中の街を散歩すること。友人といえるのは、仕事で付き合いのある出版社の校閲社員、石川聖(ヒジリ)のみ。ひっそりと静かに生きていた彼女は、ある日カルチャーセンターで58歳の男性、三束(ミツツカ)さんと出会う・・・。
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784062172868

 これは「珍しい職業」小説かと思った。最初のほうには校閲の仕事や方法が書いてある。でも、そこで職業意識に芽生えるとか、直面した難しさを乗り越えるとか、ミスをチームで解決するとかはない。仕事においてドラマはない。この仕事につくにあたっても、なにごとかの啓示をうけたわけでも、憧れを持ったわけでもない。なんとなくついた職業だが、長時間やっても体調の良し悪しに関係なく同じ品質で飽きることなくできるから続けている(というのは実は職業選択で最も重要なことだ。誰かの役に立ちたいとか、自分のステータスをあげるとかの目的を持つとうまくいかなくなった時に修正が困難)。
 それまで会社でやっていて、なんとなく人間関係の気まずさができたときに、知り合いの誘いでフリーランスになり、終日自分の部屋にいるようになった。引きこもるようになったかというとさにあらず、年上の男性とであい、喫茶店でしゃべるようになる。あるいは高校時代の友人が突然連絡をいれる。数少ない人たちが彼女の前に現れて、特に親密でもない、沈黙のほうが多い会話を交わしては別れる。それが数年繰り返される。
 ほとんどすべての人は彼女に「見ているとイライラする」という。というのは人付き合いが苦手のみならず、主張したいこともなければ、生活で発見したこともない。何かの話題がでたり何かを問われたりしても、彼女は教えてと返すか、肯定するか、沈黙するか。弾まない会話で、人びとは自分の姿を見てしまうのか。考えることをしていない彼女は、人びとにとっては鏡のようなもの。彼女を「見ているとイライラする」というのは、自分のつまらなさをみるせいかな。(こういう感想を書いている俺もそのひとり。)
<参考エントリー>
村田沙耶香「コンビニ人間」(文春文庫) 2016年
 幸い、彼女に対して支配的になろうとしたり、暴力をふるおうとする人はいないけど、人びとの姿を映している鏡も疲れてしまうようで、途中からアルコール耽溺にふけるようになる。人に会うエネルギーが少ない彼女はアルコールでほろ酔いになって、自分の一部を殺すようになる。これが続くと彼女は壊れるのではないか、というところで男との付き合いが終わる。
 物を考えないキャラを語り手にしているから、地の文も読む所がほとんどない。印象ととりとめない感想の羅列。なんでこんな退屈なことを長々と書くのだろう。なんでこんな意味のないことを記すのだろう。脳裏に浮かんだこれらに解答はないから、もの凄い勢いでページをめくって、はいおしまい。直前に読んでいたのがジョイスドストエフスキーなどの濃密な小説だったので、この本の印象を低めてしまった。別の機会だったら感想も変わったかもしれない。めぐりあわせの失敗。
 2011年刊行。

 

 

「次元をあげた質問はだめです。」「質問に質問でかえすのは次元があがることになるのでだめなんですよ。ひとつめの質問の内部で終わる質問でないと(P223)」

 ここはメモしておこう。次元をあげた逆質問をしたり、論点をすり替えた質問を返すのはよくある詭弁だ。