odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

堀江則雄「ユーラシア胎動」(岩波新書) ロシア、中国、中央アジア各国(旧ソ連圏)、インド、パキスタン、イランなどの参加でユーラシア経済共同体が2000年に成立。

 ユーラシアという概念は1970年代ころかと思っていたら、1920年代ロシア知識人からでたそう。スターリン時代に弾圧されて封印されたが、1990年以降に具体的な経済圏構想として誕生した。2000年にユーラシア経済共同体がロシア、中国、中央アジア各国(旧ソ連圏)、インド、パキスタン、イランなどの参加で成立。以後、経済的な結びつきが強まる。本書では2010年(初出年)までの動向をみる。

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序章 ユーラシアの風に吹かれて ・・・ ユーラシア経済圏の構想は非ヨーロッパ、ユーロセントリズム批判であり、歴史なき民族(とくにチェルク(トルコ)民族)を表舞台に出す運動。
(いわば21世紀版のシルクロードを作ろうという運動。日本はシルクロードの終着点であるが、その後もユーラシア大陸との貿易は重要だった。それが閉じたのはシベリア出兵とスターリン体制から。敗戦後の冷戦体制で継続。21世紀も一時期よりは盛んとはいえ、まだ閉鎖的な空間になっている。)

第1章 分割された島ーユーラシアの国境政治 ・・・ ユーラシア経済圏ができる背景にあったのは長い中ロの国境紛争。交渉と重ねて2004-2008年に国境が確定する。双方ともに譲歩したところがあった。中国は中央アジア諸国との国境も画定させる。国家関係の改善と一緒に進めたのが成功の理由。
(逆にいうと国家関係の改善なしの国境交渉はうまくいかないわけで、2020年にロシアが北方四島を日本に返還しない決定になった。)

第2章 ユーラシアを束ねる上海協力機構 ・・・ 上海協力機構 ( SCO)という、中国・ロシア・カザフスタンキルギスタジキスタンウズベキスタン・インド・パキスタンの8か国で構成する多国間協力組織。国境画定事業から成立。非軍事ブロック、非対決型、地域協力、非核地帯、経済協力などの特徴。ロシアと中国の影響力は強いけど。あと21世紀ゼロ年代アメリカが中央アジアに駐留軍を置いたことの反映で、この機構はしっかりした基盤になった。
(韓国もオブザーバー参加を一時期希望していた。日本の国境交渉も、この機構との良好な関係がないと難しそう。)

第3章 新しいシルクロードが生まれる ・・・ 中央アジアの天然資源開発、中国経済圏の拡大で陸路が整備され、貿易が活発になる。中央アジア諸国は経済成長。
(やはり問題は少数民族の差別迫害。とりわけ中国(漢民族)によるウィグルやチベットでの人権侵害行為が深刻。

第4章 中央アジアのダイナミズム ・・・ 中央アジア諸国の変貌。ロシア民族から独立したあと非ロシア化が進む一方、ナショナリズムイスラム復興が起こる。政治的には独裁制
(一方で、これらの国は日本のものよりしっかりした差別禁止法ができていて、差別撤廃の制度も充実している。

第5章 広がるユーラシア・パイプライン ・・・ ロシアの原油を東に運ぶパイプラインができている。

 

 本書では、ユーラシア経済共同体、現在中国主導の「一帯一路」の推進はすばらしいということになっているが、さて2020年に即してみるとどうか。経済は自由主義と相性がよいのだが、ユーラシアの共同体を主導するロシアと中国は集団の自由は認めても、個人の自由は認めない。大統領や首相が終身扱いになり、政権の変更が起こらない。そのような政治は中央アジア諸国でもまねされている。加えて、少数民族やマイノリティへの差別・迫害・ジェノサイド扇動が政府主導で行われたりもする。経済共同体に加盟していない国には、敵対的である(ロシアとウクライナ、中国と香港や台湾など)。国境は解放されたが、新たな紛争のきっかけになる問題がある。
 という具合に、経済成長だけで物事をはかるのは、そうとうにまずい。とはいえ、自民党政権は「一帯一路」政策に乗りたがっているよう。

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