odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

山田宏一「美女と犯罪」(ハヤカワ文庫)

 以前ベラ・バラージュを読んだときには、彼が注目したほどクロースアップの重要性を認めなかったけど、アクションでもラブロマンスでもコメディでもサスペンスでも、不意に現れる(しかし制作側には計算づくの)クロースアップに見とれることを思い出した。クロースアップされた対象が女であるとき、僕は画面に引き込まれる。
 というわけで、映画は女と銃であり、犯罪とラブロマンスであることにこだわったエッセー集を読む。

グレース・ケリーヒッチコック映画の女たち ・・・ ヒッチコックの映画のヒロインの目的はマンハント(犯人追跡と亭主狩りとダブルミーニング)、ヒッチコックのヒロインたちは犯罪を誘発する、とのこと。なるほど。ヒッチコックは30本以上の長編映画をみたけどわかりませんでした。

女の犯罪、女の活劇(フィルム・ノワール) ・・・ D・W・グリフィスは「映画は女と銃だ」といった。フィルム・ノワール(暗黒映画)は「バラ色の人生」の反対語。ヴァンプのイメージは黒髪からプラチナやブロンドに変わった。

バーバラ・スタンウィックの殺人保険 ・・・ 1940年ビリー・ワイルダー「深夜の告白」。「殺人保険」はジェームズ・M・ケイン原作で、チャンドラー脚色。最初のフィルム・ノワールで最高傑作だって。あとアンクレット・チェーン(くるぶし飾り)は1940年代アメリカ娼婦の記号、とのこと。

白いドレスの女ラナ・ターナー) ・・・ 1946年テイ・ガーネット「郵便配達は二度ベルを鳴らす」。口紅は彼女の生命のシンボル。後、当時の映画製作倫理規定で性表現のできない時代にはフェティシズムで暗喩的表現を行い、想像力を喚起した、とのこと。

ジャン・ギャバンを殺したふたりの女 ・・・ 「望郷」と「霧の波止場」。前者の成功で、空港や港の別れをクライマックスにする映画がはやった。「カサブランカ」など。「運命は従うものを潮に乗せ抗むものを(死の彼方へ)曳いていく」ラブレーの言葉で、「望郷」冒頭のポスターに書かれた言葉。

牝犬と獣人(ジャン・ルノワールの人間喜劇の女たち) ・・・ 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はフランスの「暗黒もの」で映画化の規格があり、ヴィスコンティに譲られてネオ・リアリズモの嚆矢となり、ハリウッドで作られて「フィルム・ノワール」となった。ジャン・ルノワールの「暗黒もの」。

哀しみのシルヴィア・シドニー ・・・ ハリウッドのフリッツ・ラング。運命とのたたかいと薄幸の美少女。「暗黒街の弾痕」。そして逃避行ものの映画の系譜。

拳銃に魅せられた女(ペギー・カミンズ) ・・・ 1949年の「拳銃魔」はボニーとクライドの映画化作品。女が男を支配して狂気にまみれていく愛の姿。

レスリー・キャロンに明日はない ・・・ レスリー・キャロンというスターになりそこなった女優をめぐる映画の話。オードリー・ヘップバーンとの比較。トリュフォー突然炎のごとく」の衝撃が点々と移動していって「俺たちに明日はない」に結実するまで。

エヴァ・ガードナーとパンドラの夢 ・・・ フィルム・ノワールで男を手玉に取るなど強い女が描かれるようになった。そこにフェミニズムや女性の社会参加の反映などをみてもよい。エヴァ・ガードナーは特に注目する女優で、彼女はハリウッドを捨ててヨーロッパに渡り神話的な高みに上ることができた。ハリウッドに残った女優にそういう存在はない。

キム・ノヴァクはバッヂをつけていた ・・・ フィルム・ノワールの犯罪的美女になれなかったが、母性的なやさしさで目を見張らせた女優。「めまい」が有名だけど、自分はまだピンとこない。俺の目はまだ駄目かな。

暗黒街の女(シド・チェルシー) ・・・ ミッキー・スピレーン的な露出狂的な犯罪的美女。アステアと組んだミュージカル「ガール・ハント・バレエ」は見たいなあ。「雨に歌えば」の脚のきれいなダンサーとのこと。

帰らざる娼婦(シモーヌ・シニョレ) ・・・ ハリウッドの運命の女は情婦であるが、フランスのそれは娼婦。とくにくわえたばこの似合う、感情を表に出さない女。この女優の出た映画は「悪魔のような女」しか知らない。たしかクルーぞー監督の妻だったころのもの。著者の評価は低く、ほかの作のほうがよいらしい。

ジャンヌ・モローの匂い ・・・ 「エヴァの匂い」1962のジャンヌ・モロー仏頂面と不感症的な悪女。無表情とウエストラインの低い煽情的な娼婦。

ジャイムズ・ハドリー・チェイスの悪夢のような女たち ・・・ フランスのフィルム・ノワールアメリカの犯罪映画を模したもので、新しさのひとつはモダン・ジャズを使ったこと。それらも素晴らしいけど、その前後に作られた「ジェイムズ・ハドリー・チェイス」ものも面白いよ、今は映画史で忘れられているが。

アンナ・カリーナの犯罪(ゴダールさらば愛しき女よ) ・・・ ゴダールの初期の映画はアンナ・カリーナへのオマージュ(激しく同意! 「気狂いピエロ」「アルファビル」の彼女の美しいこと!)。

黒衣の花嫁トリュフォーフェミニズム) ・・・ 女のような男たち、男のような女たち、子供のように傷つきやすくナイーブな男たちとヒーローのように強靭でたくましい女たちの対称がトリュフォー映画。後、この人の映画も暗黒映画、犯罪映画とのこと。

女鹿の饗宴(シャブロル的殺意の週末) ・・・ この監督の名前は知らなかったし、作品も知らない。でも、「細い線」「野獣死すべし」「十日間の不思議」(いずれも作者は書かないよ)が映画化されているのには驚いた、それもフランスで!

ブリジット・バルドーは探偵ごっこがお好き ・・・ フランスの暗黒映画にはコメディもあって、そのときのBB(ベベ=赤ちゃん)の天真爛漫さ、無邪気さが魅力になる、とのこと。

ミレーユ・ダルクと暗黒街の彼女のボーイフレンドたち ・・・ 暗黒映画の日本未公開の映画の紹介。
罪ある女(ヒルデガルト・クネフ) ・・・ 今度はドイツ映画の犯罪的美女。

アンジー・ディッキンソンの黄色の誘惑 ・・・ ハワード・ホークスリオ・ブラボー」のマンハント(亭主狩り)。黄色は狂気の色であると同時に、男を誘惑する色。

ローレン・バコールとホークス的美女群 ・・・ ハワード・ホークスの映画はヒーローのアクション映画か幼児性を笑うコメディ映画。あと物を投げて渡すのは性愛や友愛のしるし。とくにタバコの受け渡しはsexを暗示するもの。で、男ばかりを描いたと思われるホークス映画はやっぱりラブロマンス。「三つ数えろ」の最初の本屋のシーンとか(眼鏡をはずすと実は美女で、さっそくマーロウにモーションをかける)。


 なんというか1940-50年代のハリウッド映画と、50-60年代のフランス映画を大量にみていることが豊かな記憶を持つことになるのだな、と。ここに挙げられた200本以上の映画のうち見たことのあるのは何本もないというぐうたらもので、ここの記述された映画のシーンはほとんど知らない。だんだん安く手に入るようになっているからもっと見ないとね。そして美女と犯罪を見て陶酔しないといけないねえ。
 あと、一人の女優に焦点をあてて監督やほかの俳優や、ときには犯罪小説まで話題を縦横に伸ばして、映画史の概略を描くという芸を披露している。そのやりかたは後半のいくつかの章ではうまくいかなかった。こういううんちく系のエッセーの難しいところ。