1913年から1925年にかけて。大正時代を扱う。タイトルは「大正デモクラシー」であるが、そこにフォーカスしてこの時代を見るのは危険。21世紀の10年代の言葉でいえば、日本が「ネトウヨ化」していく過程となる。すなわち、政・官・財がそろってネトウヨ化し、下から迎合するネトウヨの大衆運動があって、政治がネトウヨ化していく。その結果が、1923年のカント大震災の朝鮮人虐殺であり、1925年の治安維持法である。この二つを起こし、それを正す運動がなかったことが、昭和の総動員体制とファッショ化になった。読んでいる最中、21世紀の10年代がまさにこの時代に重なり、とてもいやな気分になった。
日露戦争の「勝利」は国家目標をなくしたが(隅谷三喜男「日本の歴史22 大日本帝国の試練」中公文庫)、政治と経済は続く。すると、おのずとそれらのシステムが維持されることが目的になり、利益の拡大のために、政治と官僚と財界のステンレスの輪が作られる。そのころ選挙権があるのは一定金額以上の税金を払う男子成年に限っていて、各地の選挙人名簿が正確にできるとなると、政党のような大衆組織を作らずとも与党(この時代までは藩閥が生き残っていた。出生地を同じにするものがグループを作り利権とポジションを分け合う)は選挙で圧勝できていたのだ。しかし、その輪に入れない財閥が対抗政党を作るとなり、普通選挙運動が大衆に起きて大動員がかかるとなるとそうもいっていられなくなり、与党も政党を持つ。しばらくは二つの政党で政権を交代することもあったが、貴族院・枢密院・元老・軍閥など選挙では選ばれない特権層が政治運営で大きな力を持つとなると(組閣するにはこれらの有象無象の承認が必要なのだ)、政党政治も形骸化する。
日露戦争後は不況(戦費の償還が負担になり、軍事費の増大が公共投資を抑制する)であったが、1914年の第一次世界大戦の勃発で日本経済は活況を呈する。戦争遂行のためにアジアの市場まで西洋は手が回らず、日本の商品が穴を埋めることになった。とはいえ、当時の日本の技術では粗悪品しか作れず(朝鮮などの植民地には意図的に粗悪品を輸出して暴利をむさぼった企業もあるそう)、西洋から輸入が途絶えたために増産や品質向上は行えない。そのため軽工業が中心のまま。経済バブルもおもには貿易と鉱山と船でおこる。当時の成金のばかばかしい振る舞いはよく知るところ。しかし、戦争終結の翌翌年の1920年には復興した西洋がふたたびアジアで活躍したので、日本は不況になる。そこに1923年関東大震災が起こる。このとき、震災手形を発行して市場の金回りを政府が負担したが、その前年ころからの焦げ付き手形も震災手形に紛れ込んだために、償還が一向に進まず、構造的な不況が続く。後の昭和恐慌の遠因。このあたりは以下のエントリーを参考。
高橋亀吉/森垣淑「昭和金融恐慌史」(講談社学術文庫)
長幸男「昭和恐慌」(岩波現代文庫)
中村隆英「昭和恐慌と経済政策」(講談社学術文庫)
第一次世界大戦はロシア革命とドイツ革命の発生で終了。その影響は日本にも及んで、満州の支配に対して強調してきたロシアが消滅(ソ連は中国独立を支持)、ヨーロッパの敵対国が弱小化した英国は日英同盟が不要、アメリカが孤立主義をやめて世界政治に関与し中国市場に接近。そのために、日本は大戦前の国家外交を捨てて、独自路線に進まなければならない。それは中国に進出するにあたって英米と対立することである。一方、経済は英米に依存している(生産財と技術と資材は英米からの輸入に頼る)。そういう脆弱さがあるにもかかわらず、矛盾を矛盾としてとらえることができないまま、日本は「独自路線」として朝鮮、中国、満州の支配に乗り出していく。(このころから国外に駐屯している現地軍や参謀本部が勝手に策謀を巡らしていた。外務省とは別の「外交」があったわけで、この二重外交を放置したことが昭和の戦争拡大につながる)
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2021/03/15 今井清一「日本の歴史23 大正デモクラシー」(中公文庫)-2 に続く
<参考エントリー>