odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

哲学思想

生松敬三「二十世紀思想渉猟」(岩波現代文庫) ワイマール文化を起点にした書物と人物にリンクを張って網状集合体にする。

「1920年代ドイツのワイマル文化は短くも閃光のように輝き,今日もその残像は消えない.その瞠目すべき思想・芸術の多産性は,20世紀の問題のほとんどを提起し,「現代思想のるつぼ」となって沸騰した.そこに行き交うさまざまな人間像を具体的なエピソード…

和辻哲郎「風土」(岩波書店) 単純で粗雑だから役に立たない書物だが、それなりに評判になったのは渡航できない時代に旅行番組のように受け取られたのだろう。

高校の春休みに購入したのだが、どういうきっかけだったのか思い出せない。直前に三木清「読書と人生」を購入・読了しているので、この本か国語の教科書に載っている文学史あたりをみて興味をもったのだろう。しかし当時は現象学のことをぜんぜん知らなかった…

マルティン・ハイデッガー「言葉についての対話」(平凡社ライブラリ) 本人と思しき「問う人」が「日本人」と対話する。なにか重要なことが語られているようだがぼんくらな自分にはわかりませんでした。

本人と思しき「問う人」が「日本人」と対話するという形式の本。この「日本人」のモデルは手塚富雄である、九鬼周造である、などなどいろいろ言われている。1920年代のドイツのハイパーインフレ時期には、おおくの学生がドイツに留学し、何人かの学生がハイ…

木田元「現象学」(岩波新書) 実存主義ブームが終わって構造主義が紹介された1960年代の解説書。情報は古くなったがまだ需要があるみたい。

当時(20代前半)、哲学に興味を持ちだして、このような概観書をいろいろ読んだ。この新書もそのひとつだが、なかなか理解できなかった。たぶん別冊宝島の現代思想入門(1984年)をてがかりにして読んだのだろう。 さて、四半世紀振りに読み直して、自分の興…

上田閑照「西田幾多郎」(岩波同時代ライブラリ) 「伝統」「民族」「慣習」「義務」、このあたりを強調する共同体主義には気を付けたほうがよい。

2003年に増補改訂して岩波現代文庫で再販された。自分が読んだのは古いほう。 西田幾多郎の本は高校生のときに「善の研究」岩波文庫を購入したが、旧字旧かなであることもあって挫折。今は新かなに変わっていて、もう少し読みやすくなっているのかな。彼の弟…

西尾幹二「ニーチェ」(ちくま学芸文庫) 生誕から問題作「悲劇の誕生」を書くまでで、実に1000ページになった大部な評伝。

ニーチェという人は、著書は読まれるのであるが、その割りに人生についてはあまり知られていないのではないか。古い映画に「ルー・サロメ」(タイトルはうろ覚え)があって、ドミニク・サンダ演じるルー・サロメが一時期の愛人としてニーチェと同棲しているとこ…

スーザン・ソンタグ「エイズとその隠喩」(みすず書房) 治癒できない病とされていた時代に、エイズに込められた隠喩と神話は人を殺す。

初版は1989年。日本版は1990年。今から思い返すと「エイズ」の危険性、破滅性が最も喧伝されている時期であった。毎月、エイズ感染者・発症者の推移が発表され、他の国との比較がなされてきた。この本にはアメリカでのエイズによる差別例(退職強制とか配置…

スーザン・ソンタグ「隠喩としての病」(みすず書房) 近代は病気を患者への懲罰とみなし、患者を排除しようとしてきた。

著者は1933年生まれで、1970年代前半にがん治療を行った。その体験から書いたものがこの本。たぶん相当に急いで書かれたものであり、同じ思考の繰り返し、同じ引用の再掲などが頻出する。その意味では整理は不十分であり、とりとめのないものではあるが、こ…

イヴァン・イリッチ「脱病院化社会」(晶文社) 資本主義批判を含んだ医療の社会学。興味深い指摘はあっても、21世紀の現状に合わない。

初出は1972年だったと記憶する。それから35年の時をへて、医療制度の変更が行われたのちとなると、この告発の対象がだれになるのかわからなくなる。当時の疫学その他の研究水準などもあって、主張の裏付けの信ぴょう性にも疑問があり、今回は文章を飛ばしな…

波平恵美子「病と死の文化」(朝日新聞社) 医療人類学がみた日本人の死生観。医療は伝統的な死生観に侵食する。

各論文のキーになるセンテンスを集めた。必ずしも原文とおりではない。ほとんどの論文は1980年代後半に書かれた。 1.日本人と死 ・・・ 日本人は儀式を通じて死を考える。思想的、観念的に死を考えることは少ない。日本人は遺体にこだわるが、死を確認する…

山口昌男「流行論」(朝日出版社) 共同体は変化がないと停滞するから王(アイドル)と祭が必要。

週刊本の第1冊。ここから始まったが1年もたたずに終えた。この本では最初の章が語りおろしで、残りは雑誌に掲載された論文なのだろう。論文のテーマが雑獏なので、最初の語りでまとめを付け加えたといえる。 流行論 ・・・ 共同体に流行が生まれるのは、差…

フェリックス・ガタリ/田中民「光速と禅炎」(朝日出版社) 資本主義を「精神分析」しよう。

浅田彰「構造と力」でフランスにはドゥルーズとガタリと言う難解な思想家がいて、1972年に「アンチ・エディプス」という本がでたらしいということを知った。読んでみたいなあと思いながらも法政大学出版局とか朝日出版社ででているのはあまりに高価で手が出…

バックミンスト・フラー「宇宙船「地球」号」(ダイヤモンド社) 議論は粗雑であって、ほとんどを直観に依拠しているとはいえ、非常に長い射程で物事を見通す眼をもっている。

原著は1969年刊行、邦訳は1972年。入手したのは1988/11/12なので、17年ほど放置していたことになる。しかし、この時期に読んだというのは正解だった。入手した1988年のバブル経済当時においては、自分はその恩恵をこうむることはなかったにしろ、あの浮かれ…

チャールズ・ライク「緑色革命」(ハヤカワ文庫) サマー・オブ・ラブ時代に先進国で起こった若者・学生の変化を認識しようとする試み。意識の革命が国家を廃絶する。

原著1970年。すぐに邦訳されて当時の学生たちに多く読まれたらしい。真崎守「共犯幻想」で主人公の一人がガサ入れされる直前に、資料を整理するという場面で、彼女の所有する本にスーザン・ソンタグ、吉本隆明といっしょにこの本があった。文庫化は1983年。…

藤原帰一「デモクラシーの帝国」(岩波新書) 2001年911からアメリカが独断的に国際政治に介入し、世界を指導するという図式に変わった。

1989年の東欧革命で自由主義国家と社会主義国家の対立がなくなった。一時期は国際連合のような国家間の利害調整機能が働くかに思えたが、2001年9月11日のテロののち、アメリカが独断的に国際政治に介入し、世界を指導するという図式に変わった。このようなア…

マックス・ウェーバー「職業としての学問」(岩波文庫)

1919年に発行されたウェーバーの講義録(この人は1864年生まれで1923年に亡くなっているから、マーラーやドビュッシーの同時代人)。戦争の敗北、社会主義革命運動の高揚、民族主義運動の開始など、ドイツの社会は混沌としていた。この時代背景を把握してい…

マックス・ウェーバー「職業としての政治」(岩波文庫)

政治は暴力を扱う装置である、という視点で政治家のあり方を考察したもの。通常、暴力は権力によって規制され、抑圧され、処罰されるが、権力自身が振るう暴力は正当であるとされる。だから個人の犯罪者が殺害した人数よりも、国家による組織的な殺戮装置の…

林達夫「共産主義的人間」(中央文庫) 占領時代に新聞のベタ記事で世界情勢と歴史を透視する。

論文ごとにサマリーを書いておく。 古代思想史の課題1946 ・・・ バートランド・ラッセルが「西洋哲学史」を書いたが、その編集のずさんさには驚いた。教科書といえども、たんに引用するだけでは歴史にはならない。著者の問題意識がないといいものは書けない…

林達夫「歴史の暮方」(中央文庫) ガリレイとデカルト、ソクラテスを例にして、体制が思想を圧迫しようとしてしているとき、どのような戦略を思想家は取れるかと1940~42年に問う。

「本書の大部分は、1940年から42年にかけて書かれた。太平洋戦争前夜から日本の戦勝が喧伝されるにいたる間の狂濤の時流のなかで、歴史家として、思索家として、かつ人間精神の批評家として、みずからの精神の自由を確保する園を耕しつつ、冴えた眼で思想と…

田辺保「シモーヌ・ヴェイユ」(講談社現代新書) 自分にとっては、どこか遠くで倫理を徹底しようとしている奇特な奇矯な人。1968年にでた解説書。

「シモーヌ・ヴェイユ」は20代前半に読んでいた哲学概論みたいなものには一切名が出ていなかった(と思う)ので、この新書を読んで驚愕したと思う。初読時自分は24歳で、シモーヌの年齢でいえば工場の女工の一人に志願して苦痛な労働に参加していたのだから…

松浦寿輝「エッフェル塔試論」(ちくま学芸文庫) 建物をテキストのようにテクノロジー・政治的文脈・思想的文脈から「読む」。

かなり前に読了したものだが、タイトルを見て思い出したことなど。 「古典的な「表象」の崩壊に代わって「イメージ」の出現という出来事が成立する時点において、恐らくエッフェル塔とは、西欧の表象空間に起きたこの地の竣工の日付をこの認識論的断層の上に…

ロラン・バルト「明るい部屋」(みすず書房) 写真は「かつて=それは=あった」。しかし歴者過去を現在に突き刺してくる。

まあ、これを読んでも「写真」とは何かが凡庸な自分の頭ではよくわからないということだ。「とは何か」という問いそのものが形而上学のドグマに犯されているのだ、と作者から一笑されるに違いないのだが。たしかに、写真を見るときの不可思議さ、違和感、底…

ジェオルジェ・バタイユ「エ_ロ_ス_の_涙」 人生最大のトラウマになった「呪われた書物」。

【注意】 以下はX指定。おぞましいもの、グロテスクなものについて書いている。耐性のないものは読んではならない。 高校入学直後、教室の隣にあった図書室に入る。タイトルに惹かれてこの本(ハードカバーのほう)を手にする。ほお、高尚なものばかりだが、…

シモーヌ・ヴェイユ「工場日記」(講談社文庫) 1930年代軍事増強下での工場労働者の悲惨。スピードと命令、複縦が肉体を披露させ、内面を腐食する。

人間疎外が深刻化した1934年のフランス。ヴェイユは工場にはいった―冷酷な必然の定めに服し。抑圧と隷属の世界、悲惨な労働者の側に身を置き、屈辱に耐えつつ激しい宿痾の頭痛と限りない疲労の中で克明に綴られた日記は、底辺からの叫びであり魂の呻きに似た…

カール・ポパー「果てしなき探求 下」(岩波同時代ライブラリー)

2011/04/30 カール・ポパー「果てしなき探求 上」(岩波同時代ライブラリー)の続き ポパーによると、ダーウィニズムはテスト可能な理論ではないが、「形而上学的研究プログラム」(テスト可能な科学的諸理論にとってのひとつの可能な枠組み)であるというこ…

カール・ポパー「果てしなき探求 上」(岩波同時代ライブラリー)

かつては、トーマス・クーンの「科学革命の構造」を読んで影響を受けたり、1980年代前半の還元主義批判に惹かれていたりしたので、ポパーの科学論は打倒する対象のように思っていた。最近になってパラダイム論に対する批判が起きてきたこと、ニセ科学批判の…