odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

政治

本田由紀「軋む社会」(双風舎、河出文庫)

著者のTwitterは2017年ころからフォローしている。主に教育に関して、鋭い批判的意見を表明しているので。 社会のどこが「軋」んでいるかというと、昭和のころまでには教育-仕事-家庭の循環関係があってそれなりに機能していたが、平成不況のあと循環関…

橋本努「経済倫理 あなたは、なに主義?」(講談社選書メチエ) 経済倫理のイデオロギー8つを比較検討。著者の作った48の質問に答えて、政治的自由度と経済的自由度の評点を作ろう。

自分の主義主張を言語化して、一貫した形式(イデオロギー)にしてみよう。首尾が一貫していると他人への説得力が増す。とはいえ、イデオロギーは環境に規定されていて、考えるたびに変化する。首尾一貫そのものには価値がないので注意。判断や是非をつけら…

北山俊哉/真渕勝/久米郁男「はじめて出会う政治学 -- フリー・ライダーを超えて 新版」(有斐閣アルマ)-1 大学の新入生向けテキスト。前半は政治と経済と社会について。

大学の新入生向けテキスト。高校までの覚える授業から考える講義になるにあたって、大学生が自発的・積極的に政治をみられるようにする。そのために卑近な日常のできごとがイントロになり、そのあとに考える枠組みを提示するという仕掛けになっている。もと…

北山俊哉/真渕勝/久米郁男「はじめて出会う政治学 -- フリー・ライダーを超えて 新版」(有斐閣アルマ)-2 大学の新入生向けテキスト。後半は政治のしくみと世界とのかかわりについて。

2020/11/05 北山俊哉/真渕勝/久米郁男「はじめて出会う政治学 -- フリー・ライダーを超えて 新版」(有斐閣アルマ)-1 2003年の続き 2020年にこれを読むと腹が立つねえ。20年前(手持ちの「新版」は2003年改訂)の著者が能天気におもえるのと、現実の政治が…

加茂利男/大西仁/石田徹/伊藤恭彦「現代政治学 新版」(有斐閣アルマ)-1 2012年版。できるだけ新しい版で読むことを推奨。

初版が1998年で、新版が2003年。改定が繰り返され、最新版は2012年の第4版。章立てはほぼ同じ(一部差し換え)だが、事例が変わったと思う。できるだけ新しい版で読むことを推奨。 はじめに―政治学との「出会い」序 章 政治学のアイデンティティー ・・・ 政…

加茂利男/大西仁/石田徹/伊藤恭彦「現代政治学 新版」(有斐閣アルマ)-2 2012年版。この国の政治があまりにだめで、本書は現実の分析というよりユートピアの紹介のよう。

2020/11/2 加茂利男/大西仁/石田徹/伊藤恭彦「現代政治学 新版」(有斐閣アルマ)-1 2003年の続き 20世紀に政治の中心にあると考えられている立法、行政(司法)の分析。前のエントリーでもいったように2010年代のこの国に政治があまりにダメになっていて、…

川崎修/杉田敦編「現代政治理論(新版)」(有斐閣アルマ)-1 大学の政治学ではリベラルデモクラシーが教えられるが、日本の実生活ではリベラルデモクラシーは少数派。

北山俊哉/真渕勝/久米郁男「はじめて出会う政治学 -- フリー・ライダーを超えて 新版」(有斐閣アルマ)、加茂利男/大西仁/石田徹/伊藤恭彦「現代政治学 新版」(有斐閣アルマ)を読んだので、さらにその先を勉強。 第1章 政治--権力と公共性 ・・・ 政治…

川崎修/杉田敦編「現代政治理論(新版)」(有斐閣アルマ)-2 ナショナリズム、フェミニズム、公共性、環境問題、グローバル化などの新しい政治問題と理論を紹介。

2020/10/29 川崎修/杉田敦編「現代政治理論(新版)」(有斐閣アルマ)-1 2012年 自分が学生だった1980年前後を思い出すと、おそらく政治学の教科書にはマルクスとウェーバーにページが割かれていたのではないか。第7章以降は章そのものがなかったので…

藤田弘夫/西原和久編「権力から読みとく現代人の社会学・入門(増補版)」(有斐閣アルマ)-1 社会学のおもなテーマは「権力とは何か」。どこにでもある権力を分析。

社会学の大学教養課程の参考書を読む。社会学のおもなテーマは「権力とは何か」だそうで、さまざまな権力の分析をまとめている。本書は1996年初版で、2000年に増補版が出た。読んだのは増補版。 第I部 人間に潜む権力第1章 権力と社会=藤田弘夫 ・…

藤田弘夫/西原和久編「権力から読みとく現代人の社会学・入門(増補版)」(有斐閣アルマ)-2 メディア、教育、民族と宗教等に見られる権力と差別について。

2020/10/26 藤田弘夫/西原和久編「権力から読みとく現代人の社会学・入門(増補版)」(有斐閣アルマ)-1 2000年の続き 大学の参考書であれば、講義内容と合わせてもっと詳しいメモを取るべきであろうが、学生ではないのでエッセンスだけにした。勉強してい…

伊藤真「憲法問題」(PHP新書) 憲法は国家を縛るルールであり、天皇・国務大臣・裁判官・公務員に憲法尊重と擁護義務を負わせている。国務大臣が改憲案を発議すること自体が憲法違反である。

世の中にはそれを聞いていると吐き気がするほど不快なことがいくつかある。ひとつはヘイトスピーチ。在特会などのレイシストの街宣やデモのネット中継を見ていて、彼らの発するヘイトスピーチに気持ちが悪くなったことはなんどもある(これはマジョリティだ…

樋口陽一「リベラル・デモクラシーの現在」(岩波新書) リベラルデモクラシーは公共社会の構成原理で身分制からの解放思想。

憲法学の泰斗による講演を編集加筆したもの。リベラルデモクラシーは公共社会の構成原理。でもリベラルの権利からの自由(議会制)と、デモクラシーの人民による意思(民主主義)は相いれないところがあるが、身分制からの解放思想ということで両立させる原…

渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-1 20世紀以降のアメリカの政治と経済と社会・文化。

現代のアメリカ(と20世紀の歴史)をさまざまな切り口で説明する。歴史、政治、思想、経済、文化など。初出が2010年。初の黒人大統領バラク・オバマが就任した翌年。久しぶりの民主党の大統領なので、論調は民主主義や共和主義が復活するかどうかとい…

渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-2 本書と同じ問題設定で「現代ニッポン」をレポートしたら、きわめてお寒い内容になりそう。

2020/10/15 渡辺靖編「現代アメリカ」(有斐閣)-1 2010年の続き 後半になると、取り上げられた問題は、まさにいま起きていることになる。本書でも、サマリーでも、20世紀までのことしか書いていないが、それぞれの問題はいまのできごととしてメディアやSN…

有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 19世紀の共和主義が20世紀初頭に革新主義になり、半ばには世界システムの覇者を目指す。

アーレント「革命について」でアメリカ革命(独立戦争)を知ったが、その後のできごとを知らないので、この本を読んで勉強。前史ののちはだいたい10年ごとに時代を区切る。西暦は恣意的な指標だが、人間や社会の変化とほぼ同期しているという驚き(これは20…

有賀夏紀「アメリカの20世紀 下」(中公新書) WW2以後。世界システムの覇権国が戦争介入と不況で没落していく。

2020/10/12 有賀夏紀「アメリカの20世紀 上」(中公新書) 2002年の続き 下巻はWW2の後をまとめる。自分のライフタイムに重なる時代になるので、これまで通史を読んでいなかった。なので新鮮。 第6章 冷戦下の「黄金時代」 ・・・ 1945年から1960年。WW2終…

梶田孝道「統合と分裂のヨーロッパ」(岩波新書)-1 1993年現在のようす。西は統合に向かい、東は統合の枠組みがなくなり民族国家に分裂する。

欧州連合の成立を目前に控えたヨーロッパ。国・民族単位で社会を見るやりかたができなくなるできごとであって、現状と行く末を注視する。初出は1993年。それからおよそ30年がたった2020年の視点で当時を読み直す。民族を考えるときに、ホームランドをもつ民…

梶田孝道「統合と分裂のヨーロッパ」(岩波新書)-2 1993年現在のようす。多文化主義と移民受入れ。極右と排外主義の台頭。

2020/10/08 梶田孝道「統合と分裂のヨーロッパ」(岩波新書)-1 1993年の続き 後半は、ホームランドをもたない外国人である移民や難民。EUにアイデンティティをもつのは、ヨーロッパの文化や言語などと同質性を持つ人には抵抗がないが、域外から移民難民は必…

三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-1 1989年から15年の振り返り。東独統一のきしみ、国民と移民の確執、極右の台頭。

思えば、1989年のベルリンの壁崩壊と東西ドイツ統一(本書によると「併合」)からあとのドイツを知らない。そこで本書を参考にする。2006年初出なので、直近15年がもれてしまうが、しかたがない。 重要なできごとは上に加えると、ユーゴ内戦、イラク戦争。EU…

三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-2 1989年から15年の振り返り。周辺の戦争への介入、ナチスと東独の国家犯罪の謝罪と賠償、歴史修正主義との対決。

2020/10/02 三島憲一「現代ドイツ 統一後の知的軌跡」(岩波新書)-1 2006年の続き 前半が広義の国内問題であり、後半は国際問題や外交問題。 第5章 新たな国際情勢の中で ・・・ 90年代にヨーロッパの周辺で戦争や内戦があった。アメリカとイランの湾岸戦…

清水弟「フランスの憂鬱」(岩波新書) ミッテラン政権(1981-1995)まで長期政権になったフランスの1980年代。

ミッテラン政権(1981-1995)まで長期政権になったフランスの1980年代をみる。この10年間は、国家主導型経済に対する自由主義のバックラッシュがあり、民営化や規制緩和が進んだ。ではフランスはどうだったか。ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上下」(日…

郡司泰史「シラクのフランス」(岩波新書) 1995年のシラク政権。EU統合とユーロの使用開始。エリート主義の行政とデモで対抗する市民。極右の台頭。

清水弟「フランスの憂鬱」(岩波新書)の続き。1995年にシラクが大統領になってからのおよそ10年。 ミッテランの社会党政権末期には汚職が横行していて議員や大臣にもあったのがわかった。またミッテランの14年の統治に飽きがあった。そこで、ドゴール派のシ…

小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-1

正義はこれまで宗教や倫理による要請として語られてきたが、そのような権威を人があまり認めなくなったので、功利主義で説明するようになった。個人の幸福の増大が社会全体の幸福につながるという考え方。でも、不遇な人をさらに不遇にさせたり、再分配を拒…

小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-2

2019/07/19 小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-1 2010年 サンデル、あるいは政治哲学の議論を読むときに、ヨーロッパとアメリカの違いを意識することは重要。本書の指摘をまとめると、社会契約説はヨーロッパでは仮構であるとみなされるが、アメ…

小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-3

2019/07/19 小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-1 2010年2019/07/18 小林正弥「サンデルの政治哲学」(平凡社新書)-2 2010年 読みながらいろいろ疑問をもっていたら(サンデルの議論は東洋でも使える? コミュニティって封建的じゃない?)、最…

庄司克宏「欧州連合」(岩波新書)-1 EUは「複数の国家が共通の機関を設立し、主権の一部をプールし、共同行使する統治の枠組」。

第2次大戦の惨禍(と東西冷戦)は、分断された欧州ではふたたび戦争を起こすことが懸念された(と同時に、中世から近世の宗教戦争による分断の記憶も想起された)。そこで、緩やかな統合の試みが戦後に始まる。最初は石炭の生産と流通の壁をなくすことだっ…

庄司克宏「欧州連合」(岩波新書)-2 EUは国際的共生を理念として関係諸国・国際社会と協調し安全保障戦略を運営する。

ここまではEUの仕組みと加盟国内の施策について。後半は、関係諸国・国際社会とのありかたについて。EUは国際的共生を理念としていることを念頭において読む。 第3部 EUの挑戦―国際的共生と対立国際ルールの形成・発展とEU―法の支配・人権と環境 ・・・ 範囲…

明石康「国際連合」(岩波新書) 国際連合はEUよりも行政権限は少ないし、経済に直接介入できないし、軍や警察などの司法組織を持っていない。

たとえば「宇宙戦艦ヤマト」では、仇敵ガミラスの滅亡の後、地球は人種や民族を止揚して世界政府をつくる。そういう想像力はユートピア文学やSFによくあって、たいていの未来社会はそんな感じ。さかのぼれば、トーマス・モア、カンパネラらに、さらにはプラ…

トーマス・ペイン「コモン・センス 他三篇」(岩波文庫)

アメリカ独立戦争(1775-1783年)のさなかの1776年に出版されたパンフレット。アメリカ独立戦争 - Wikipedia ほぼ無名の人物の筆になるものであるが、ベストセラーになり、「その半年後に発表された『独立宣言』の内容に多大な影響を与えた(表紙解説)」と…

樋口 陽一「個人と国家―今なぜ立憲主義か」(集英社新書)

著者の名は2015年安保の際の国会前抗議でなんどかスピーチしているのを聞いて知った。憲法や立憲主義を聴く機会が増えているので、勉強のために読む。2000年初出。なので、事例は少し古い。 今、私たちにとって「戦後」とは何か ・・・ 「戦後」、人権を拡張…